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大ダンジョン時代クロニクル  作者: てんたくろー
第一次モンスターハザード─GUILTY CHAIN─

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ハオ・メイリィ

 ヴァールとカーンがエーノーンと衝突している頃。スペインはバルセロナから場所を変えてオーストラリアはエアーズロック近くの荒れた大地にて。

 能力者同盟の幹部にして武闘派能力者、レベッカ・ウェインと付き添いの同僚、妹尾万三郎の二人が偶然、手配書にある顔を見つけだしてそのままバトルへと移行していた。


 委員会側の能力者ハオ・メイリィ。こちらも敵側にあっては一際、戦闘行為に慣れ親しんだ荒くれ者である。

 エーノーンとは異なりモンスターをダンジョンから引きずり出そうとしていた、まさに直前での遭遇。メイリィにとっては苦境の戦いであった。

 

「往生しな、こンのババアがァッ!!」

「じゃっかぁしぃのよっ、小娘ェェェッ!!」

 

 レベッカの振るう西洋刀が風を切り裂き唸りをあげて、対するメイリィの棍棒と全力同士でぶつかった。

 鉄同士が勢い良くかち合って起きる火花が二人の肌を薄く焼く。その感覚さえも分泌されるアドレナリンが高揚へと変換させて、女傑達は雄叫びとともに各々の武器で押し合いをはじめた。

 

 お互いがお互いを、蛇蝎のごとく嫌い合ってのまさしく殺し合い。レベッカもメイリィも、資料からお互いのことはある程度知っていて……それゆえに気に入らないのだ。

 レベッカが、殺意さえ込めた攻撃を放ちながら怒鳴りつける。

 

「テメェこの! チンピラがよくもこんな真似しくさりやがったなあッ!! モンスターなんざ野に放ちやがって、ふざけてんじゃねえぞコラァッ!!」

「笑わせんじゃないわよクソガキ!! なぁにが北欧最強だい、だったら私ゃ世界最強ねぇ!!」

「地元で気に入らねえやつスキルで殺して回ってた殺人鬼風情が抜かしてんじゃねえッ!! テメェみてぇなのがいっちゃん腹立つんだッ、二度と戦えねえ身体にしてやらぁっ!!」


 怒りを込めた叫び。ハオ・メイリィの前歴……地元中国においても名うてのワルであった点を、レベッカは何よりも許せないでいる。

 授かったステータスを悪用して、気に入らない者を一族郎党に至るまで惨殺し続けた殺人鬼。それこそが目の前の中年女性の正体だ。


 能力者たる者世のため人のためにその力を振るい、モンスターから世界を守るためにあるべきだ。

 ソフィアの薫陶もありそう強く信じているレベッカにとり、目の前の女は何から何まで赦せない存在だった。叶うならば今すぐこの手で殺してやりたいとすら思う。実際は法や倫理面、またソフィアからの指示もあって殴り倒して捕縛するのが精々だが。


 一方でメイリィからしても、今まさに相対しているレベッカ・ウェインという女は無性に腹立たしい存在だった。

 元より名高い能力者だ、北欧最強などと大層な讃えられ方をして、今や国連組織でもある能力者同盟の幹部として世界に名を刻む活躍を見せている。

 それがメイリィの目にはどうにも鼻持ちならない傲岸不遜さとして映っているのだ。


 彼女だけでない。ソフィアもだ……自分より若く見え、優れているように思われる女はすべて気に障る。殺したくなる。

 つまりはコンプレックスからくる怒りと苛立ちと憎悪だった。それだけのために夥しい人々を殺し、なお溜飲が下がることのない生まれついての虐殺者。

 ハオ・メイリィというおぞましい殺人鬼には、レベッカもまた一族郎党殺し尽くすべき獲物でしかなかった。


「やれるもんならやってみな!! アンタを切り刻んで、次は家族を皆殺しにしてやるッ!!」

「言いやがったな殺人鬼野郎……!! 命までは取らねえが腕一本脚一本! ここで取られる覚悟はしとけやァッ!!」


 敵対する当人はもちろんのこと、家族にまで危害を加えようというメイリィにいよいよ怒り心頭でレベッカは剣を振り下ろした。

 赦せない殺人鬼を相手に容赦などするつもりは毛頭ない。命だけは取らないが逆に言えば、殺さない限りはどんな傷を負わせても良いはずだ。


 都合よく解釈してレベッカは、本当に片腕一本は斬り飛ばすつもりで斬撃を放つ。瞬間。

 ──横合いから放たれた拳がメイリィの頬を打ち抜き、彼女を軽く仰け反らせた。当然レベッカの斬撃も狙いを外すことになり、代わりに胴体を浅く切り裂く。

 

 妹尾の仕業だ。

 ここに至るまで静観していた男の突如とした横槍に、レベッカは唖然としてすぐに抗議を入れた。

 

「なっ……何すんだい万三郎!? 狙いが逸れちまったじゃないかよ!!」

「落ち着きなさいよレベッカくん……いくらなんでもこんなところで腕を切り落としたら失血死させてしまう。いくら能力者でも身体の何割かを失うってのは命がけなんだから、モンスター相手と同じに考えちゃいけないよ」

「うっ!? …………いや、でも」

「でもじゃない。能力を使って人殺しなんてのは、ソフィアさんから教えを受けた僕達がしていいことじゃないんだって分かってるだろう?」

 

 妹尾の言い分に反論できず口を噤むレベッカ。2歳年上でかつ、学者肌で一々正論のこの男にだけは豪傑肌の彼女もなかなか敵わないでいる。

 これだからインテリは……と渋い顔をしつつもたしかに正論であるため、冷水を浴びせかけられたように頭を冷やすレベッカ。

 

「っ……の、ガキャあああっ!! よくも私の顔を、殴りやがったなあぁぁぁっ!!」

 

 そんな中、結果として顔を殴られ胴体を袈裟懸けに斬られたメイリィがさらに激怒して立ち上がり、妹尾へと襲いかかる。

 手負いになりつつもなぜ立ち向かってくるのか、理解に苦しむ。そう言わんばかりにため息を吐いて妹尾は、両の拳を固めて構えた。

 レベッカに代わり、彼が相手をするのだ。

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― 新着の感想 ―
腕一本脚一本とか思考が委員会寄りなんよレベッカさん。 自分が化け物にならないように戒めないと。
2025/01/14 07:27 こ◯平でーす
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