未来を見抜く者
「ラウエンとも話はついた。我々はこれより先、ストックホルムへと向かい現地のスタンピードを鎮圧する。その上で彼と合流するぞ」
その日の夜。トレレボリの宿の一室に集まったパーティメンバーを前にヴァールはそう告げた。
電話でのラウエンとのやり取り、そしてストックホルムの現状と能力者解放戦線の動きについてをすべて、仲間達と共有した上での指示である。
ノルウェー北部はノールノルゲでの決戦、それに先駆けてストックホルムにてスウェーデンそのもの、およびラウエンと合流せんとする自分達パーティに痛打を与えんとする敵の魂胆。
そこにまで推測ながら言及し、ゆえに一刻の猶予も許されないと強く主張したのだ。
「調べによればストックホルム周辺は、フィンランドやバルト三国にも勝る勢いでスタンピードが引き起こされている。それに対応すべく馳せ参じてくれたラウエンが、そのせいで一切身動きが取れないほどの有り様という」
「なんてこと……! 完全に首都機能を、国の中枢を害するための行動ですね」
「そうだ。そしてそこにワタシ達をもおびき寄せ、決戦の前哨戦とでも行きたいのだろう。そのへんについては妹尾、お前達が全探組で何か掴んだと聞いているが」
「ええ」
話を振られて妹尾がうなずいた。彼は二手に分かれたグループのうち、全探組への連携構築の打ち合わせに向かったほうの責任者だ。
同行していたエリス、ラウラ、トマスもうなずく。彼らが自分達の仕事をしつつ情報収集をするなかで、見えてきたものもたしかにあった。
先だってのリトアニアでの戦い。そこで深手を負わせつつも逃げられてしまった能力者解放戦線メンバーの二人の足取りを、掴むことができたのである。
「つい先日、ストックホルムの町中にてローブ姿の男と二刀流の東洋人の姿が確認されました。未だ騒ぎを起こした様子はないものの、間違いなくイルベスタ・カーヴァーンおよび火野源一でしょう」
「ふむ。そのことについて、エージェント以下追跡チームはなんと?」
「それが、時折姿を確認できはするものの……どうしたことか追跡を振り切られてしまうようです。まるでこちらの動きを先読みされているように、忽然と姿を消していると」
「エージェントを撹乱するため、あえて姿を表したり隠したりをしているな…………しかし先読み、か」
報告に、顎に手をやり考え込むヴァール。少し前からどこか違和感を覚えていた部分に、いよいよ彼女のなかで疑問の輪郭が形作られようとしている。
あまりにも敵が、逃げることに長けすぎていた。こと追跡や捜査にかけては右に出る者がないだろうWSOの精鋭達が、信じがたいほどに毎度毎回出し抜かれている。フィンランドからこちら、ずっとだ。
エージェント側が分かりやすいとか、読まれやすいだとかいう次元を越えている。ここまで完全に逃げられているのは、少なくともヴァールの目からはそれこそ不自然極まりないものにしか映らない。
となれば、考えられるのは。
「異常な読みの良さ、勘の良さ。たまたまだとか運の良さでは考えられんな……あるいは、まさか」
「スキル、あるいは称号効果ですか?」
「……可能性は捨てきれん。何かそういう、逃走経路の確保に特化した使い方ができるスキルだとか。もしくは、もっと単純に未来を予知するだとか。そういった能力を持つ可能性も入れておくべきかもしれんな」
(もっとも、前者はともかく後者の未来予知などと、そんなスキルは絶対にないがな。それはスキルではなく、超能力の範疇だ────いや、しかしオーヴァ・ビヨンドはたしか)
内心で踏み込んだ部分にまで言及しつつ、しかしヴァールは敵の首魁オーヴァ・ビヨンドに思いを馳せて、ふと気づくことがあった。
かの首謀者の前歴についてだ……フィンランドにて占い師として生計を立てていた。それなりの腕のようで信者というかファンも多く、主に水晶占いで未来を見抜く心眼とか自らを広告していたと言う。
未来を、見抜く。
そこに、以前から時折敵対してきた解放戦線メンバーに見られた不可解な動きへの答えがあるような気がしてヴァールは考える。
占い師。未来を見抜く。そして未来予知を匂わせる敵幹部陣に、異様に的確な逃走経路を辿る火野源一やイルベスタ。
────演算は一瞬。しかし出てきた答えは当のヴァールをもってしてもなお信じがたいものだ。
そんなまさか、馬鹿げている。小さく呟いて彼女は、首を左右に振った。
「すべてはオーヴァ・ビヨンドに直接相対した時に分かることか。現時点でそこを気にかける余裕もないか……」
「ヴァール、さん?」
「なんでもない。ともかくそういうことだ、明日にはさっそくストックホルムへと向かう。全探組との連携はできているな?」
「無論。すでに向こうで車の手配からストックホルムの全探組への連絡も済ませてありますから、いつでも向かって到着次第ラウエン氏との合流は行えます」
「よし。それでは各自、今日のところはゆっくりと休んで明日に備えろ! ここからストックホルムまではそう遠くなく、ついてしまえばすぐにスタンピードへの対応だ! おそらく戦闘にもなる、英気を養うのだ」
仲間達へと指示を投げれば、誰もが力強くうなずく。
オーヴァ・ビヨンドへの疑念、疑問。それらは一旦後回しにして、ヴァール達はスウェーデンの首都ストックホルムへと向かうのであった。




