若き熱血、シェン・ラウエン
『予てよりあなたのお話は、我らが始祖シェン・カーンから聞かされておりました。シェン一族の悲願たる"断獄"打倒という盟約を交わした偉大なる御方、ソフィア・チェーホワに報いるために一族のすべてを積み重ねよと』
「うむ……ワタシにとってもカーンは素晴らしい盟友だ。手紙でも伺ったと思うが、彼は今も壮健だろうか?」
『ええ、まあ。今も里で我ら後進のため、力を尽くしてくださっていますよ』
「結構なことだ。君達シェン一族には大いに期待している……ワタシの背負うもの、何をしてでも絶対に果たさなければならない目的を達成するための、君達こそが最重要ファクターのひとつなのだから」
『ッ……畏れ入ります』
電話を介して初めて話す、若き星界拳士シェン・ラウエンとヴァール。
まずは何をおいても共通の話題、彼らの関係性の大本とも言えるだろう初代シェンたるシェン・カーンについてを語らうなかで、二人は互いに互いの声色から様子をうかがっていた。
ヴァールから見て、聞こえてくるラウエンの様子はまさしく質実剛健な武人といった印象だ。以前に一度だけ、彼がスウェーデンにやって来ることを手紙で伝えてきた際にやり取りをしたことがあったがその時にも抱いたものとそう変わらない。
生真面目で、若く覇気がある熱血漢……出会った頃、能力者大戦よりずっと以前のカーンをも彷彿とさせるものだ。
そこに、自身でも不思議なほどの懐かしさを覚えつつもヴァールは少し、ほんの僅かにだけ口角を緩める。
しかして電話越しの相手、ラウエンのほうはそれどころではなかった。受話器の向こうからでさえ伝わってくるその存在感、カリスマ性に気圧されずにはいられなかったのだ。
(聞いていた話、以上の気迫……ッ!! 淡々とした声からも伝わってくるこの熱は、間違いなく我が始祖カーンにも通じる果てしない使命感と決意かッ!)
受話器を握る手に力が入る。ラウエン──ストックホルムはWSOスウェーデン本部長室にてソファに座り応対する彼は、精悍な顔つきにも一筋汗を垂らし戦慄していた。
このような相手は二人目だ、一人目は言わずと知れた始祖カーン。彼の師であり一族の長、そしてソフィア・チェーホワの一番弟子である。
己の交わした約束、"断獄"なる正体不明のモンスターを打倒し得るだけのシェン、"完成されしシェン"を創り上げてソフィアの元へ送り出すというその目的のために一族総出で星界拳の里を興した偉大なる男。
そのカーンと話す際に、時折感じてはいつも圧倒されていたのと同じ感覚を電話の向こう、ソフィアから感じられるのだ。
ごくり、と唾を飲み、ラウエンは内心にて呻いた。
(世界は広く、俺は未だ浅はかな若造だった……! 考えてみれば当然のこと、始祖カーンと約束を交わしながら、あの方だけが決意を漲らせているばかりなはずがなかったのだ! ──ソフィア・チェーホワ統括理事こそが始祖カーンの使命感の源ッ!! この方に応えるべく、御方はすべてを盟約に注ぎ込まれたのだッ!!)
……正直なところラウエンはいくらか、ソフィアを侮っているところがあった。
いかなシェンの盟約相手、いかな永遠の探査者少女とて星界拳と使命に殉じる始祖カーン、ならびに我らシェン一族の前には及ぶまいと。
若さゆえの驕りでもあったが、それ以上に始祖カーンと一族、そしてラウエン自身が壮絶な修行を日々積み重ねてきたという実感からのプライドでもあったのだ。
しかし今、電話でやり取りした程度でさえラウエンは理解し圧倒された。統括理事の声に宿るもの、生き様すべてを己の果たすべき使命に注ぎ込み費やし使い潰してみせるという、凄絶なまでの執念を感じ取ったのだ。
こうなってはラウエンとて頑固ではなく、認め敬せざるを得なかった。彼女こそ真なる意味でのシェンの源流、カーンと盟約を交わすだけのことはある、大いなる使命を背負いし者なのだと。
そして、だからこそ心が燃え上がる。
心地よい興奮さえ覚えるままに、ラウエンはそしてソフィア──ヴァールへと力強く言った。
『ソフィア様……改めてですが、どうかこの俺、シェン・ラウエンを如何様なりともお使いくださいッ!!』
「む……? う、うむ?」
『元よりこの身はシェンの名代、カーンの後継ッ!! なればこそこのスウェーデンにてあなたを待ち、迫るスタンピードよりこの国の人々を護るべく戦っているのですッ!! 打倒能力者解放戦線という志を掲げるあなたと合流し、そしてともに彼奴らの息の根を止める! これはッこれこそッ星界拳士の本懐の一欠片と言えましょうッ!!』
「待て、息の根は止めるな。早まるな、相手は人間なのだから殺すわけにもいかんのだぞ、理解しているか?」
突如として意気軒昂に叫びだした声の主に、ヴァールはいくらか眉をひそめた。
こういうところもカーンに似ているのだろうか、テンションの上下がかなり激しい。気分屋と言うよりはレベッカに似た激情家気質だったかつての弟子を思い浮かべつつ、一応の釘は刺しておく。
いかにテロ組織の犯罪者と言えど、その場で殺してしまうわけにもいかないのがソフィア、ヴァール双方の見解だ。国際秩序を比較的穏やかな方向に向かわせたいというのもあるし、能力者解放戦線の背後関係を調べた上で罪に問いたいというのもある。
軽々に殺しておしまい、とするわけにはいかないのだ。それを滾々と諭すが、ラウエンはやはり勢い盛んに応えるばかりだった。
『無論、お任せくださいソフィア様ッ! 敵の首魁、オーヴァ・ビヨンドなる輩を血祭りにあげるべく、その前に並び立つだろう敵という敵を片っ端から蹴り刻んでご覧に入れましょうッ!!』
「表現だけを変えるな。捕縛、逮捕だ。血気盛んなのは構わんがそこは護るのだ。良いな」
『はいッ!!』
昂るとどうにも物騒な言葉選びをしたがる、これは年頃なのだろうか? 疑いつつもやはり念押しするヴァールと、それを聞いているのかいないのか、とにかく返事だけは良いラウエン。
どうあれまた一人、パーティに個性豊かなメンバーが増えるのは確実のようだった。




