WSOと全探組
未だ見ぬ仲間、シェン・ラウエンについてはともかく──
ソフィアの指示通りに、現地探査者との連携を取るべくトレレボリの全探組施設へと向かうエリス、ラウラ、トマスに妹尾。
港町の風景を、にわかに温かくなってきた風が運ぶ潮の匂いとともに楽しみながらも、彼女達は己の仕事を果たすべく急いでいた。
「WSOはもちろんですけど、全探組のほうにも話はすでに通っているんですよね。改めてですけど連絡が緊密と言いますか、なんというか」
「まあ、言ってしまうと全探組という組織そのものがWSOの下部組織としての性質を内包しているからね。どうあれ統括理事の指示には基本、絶対的に従うものではあるよ」
道すがらつぶやくエリスに、先導する妹尾が答えた。
WSOと全探組、ともに探査者のダンジョン探査活動を支援・管理監督する機能を有する組織だが、それらは実のところ歴史的にも体制的にも極めて近しい間柄でもある。
最近では教養や基礎知識面での指導鞭撻をエリス、ラウラ両名にに施している妹尾が、今回もまた生徒達にレクチャーしていく。
ラウラもエリスと手をつなぎながらしっかりと耳を傾け、二人揃って傾聴していった。
「そもそもWSOと全探組──それぞれ国際探査者連携機構、ならびに全国ダンジョン探査者組合協会は同じタイミング、1945年の8月以後に組織されたものだ。ラウラくん、そのきっかけがなんであったか答えられるかな?」
「! うん、能力者大戦! ……と、えーっと。第一次、モンスターハザード?」
「よくできました。この間のレクチャーをしっかりと身に付けているね。花丸マークをつけてあげよう」
「わーい!!」
突然の質問にも、戸惑いなく答えるラウラ。妹尾からのレクチャーは概ね授業形式で、それゆえに時折、名指しでクエスチョンを投げかけられることもある。
一般的な学生にとってはあるいは、あまり楽しいものでもないだろう。いわば抜き打ちテストにも似たそうした突然の質疑応答を、振られて面白いと思える者はそういない。
しかしエリスとラウラは、そうした質問にも嫌がる素振り一つ見せずに反応してくる。それは教える側の妹尾にとっても小気味よい、心地よい態度だ。
ニッコリと笑ってラウラを褒める妹尾。彼女の答えは正解だ……能力者大戦、および第一次モンスターハザード。それらが引き起こされそして解決へと至った1945年こそが、この大ダンジョン時代の社会においてもっとも大きな変化をもたらしたと言えるのだから。
「ソフィアさんやヴァールさんはもちろんのこと、私もウェインくんもカーンさんでさえ参加していた12年前の戦い。その際ソフィアさんが組織していた能力者同盟という組織こそが、終戦後に国連をも巻き込んで国際機関WSOへと発展したんだ。いわばWSOの前身だね」
「はい。ヴァールさんからもいくらかはそのあたり、お話は伺っています。同時に全探組という、各国ごとの探査者管理組織も出来上がったと」
「うん、それも正解。相変わらずヴァールさんはエリスくんにはやたらなんでも教えたがるねえ」
「あ、あはは、恐縮です」
「すごいです、さすがエリスお姉様っ!!」
補足して付け足したエリスをも褒める。妹尾からしてみればエリスは半ば年の離れた妹弟子、その成長を望まぬはずもない。
ましてやこの数ヶ月、ヴァールやレベッカの指導もあってめきめきとその実力を伸ばしているのだ。翻ってならば自分にできることはこの少女に対し、可能な限りの知識を教えることだろうとさえ考えている。
もっとも今しがた本人が言うように、実のところはヴァールもヴァールで見込んだエリスに知識面でもアレコレと吹き込む場面も多い。
12年どころでなく昔、能力者同盟にて修行をつけられていた日々においてもあった光景だ……否、あの時よりもなお熱が入っている。
やはりそれだけヴァールは、あるいはソフィアもエリスに大きな期待をかけているということだろう。
エリス至上主義とも言えるラウラがエリスを讃えるなか、妹尾の隣で沈黙を保っていたトマスが、やはり歩きつつも彼女らへと話す。
こちらも、妹尾から教わった界隈の歴史についてだ。能力者同盟が大戦後、WSOへと名を変え正式に国連組織となった。そしてそこから派生して、全探組ができたのである。
「どこまで行ってもWSOってのは国際機関でな、二人とも。逆を言えば特定の国々に目に見えるレベルの干渉は許されていないのさ。そこで用意されたのが全探組ってわけさ」
「組織の立ち位置としては明確に各国ごとの政府直轄。しかして実質的にWSOによるテコ入れで出来上がったがゆえ、WSOとも強い関係性を持ついわば二重組織。それが全探組の正体なんだよ。だから今回においてもすでにWSOと全探組の間ではもう、半ば話がついているってわけさ」
「そしてそこに今から私達が向かい、互いの現場組同士で連携を取るわけですね」
エリスの納得を含んだ確認に、妹尾もトマスもうなずく。ラウラは少しばかり首を傾げていたものの、愛するエリスがそう言うならと半ば思考停止して抱きついている。
WSOと全探組……その関係の強さを再認識しながらも、一同は件の施設を目指し歩いていた。




