シェン特有の自己顕示欲
リトアニアはクライペダから、スウェーデンの港町トレレボリまで概ね一日の船旅。
波に揺られながら一時の安寧を楽しみながらもソフィア・チェーホワ率いる対能力者解放戦線パーティは、いよいよ夏も最盛期に入る頃合いにスウェーデン入りを果たしていた。
規模は小さいながらも、多くの国々を行き来する船が逗留するゆえにその町並みは彩り豊かだ。
昼下がりということもあって人も多く賑わい、商売も頻繁に行われる通りがいくつも立ち並ぶ北欧の光景がエリスの眼前に広がっている。
「お姉様! お姉様、リトアニアもすごく賑やかだったけどスウェーデンもすごいね! ねえねえ、買い物とかしようよ!」
「ふふふ、そうねラウラ。でもお買い物は今は駄目よ、先にやるべきことをやらないと。ですよね、ソフィアさん?」
妹分のラウラが、いつものようにエリスに抱きつき甘えている。少女は半ば心酔に近い勢いで彼女に傾倒しており、他の仲間達からも苦笑いされているのが実際のところだ。
スタンピードにて家族を失って間もないがゆえの、心の傷を思えば……こうした甘え方も仕方ないものと理解して尊重しているのであるが。
さりとて彼女の意向をばかり気にしてもいられない。ソフィアもまた軽く笑って、エリスやラウラを含めたメンバー全員に告げた。
「そうね、まずは宿の確保。しかる後にWSO支部と全探組施設に向かい、現地探査者やエージェントとの連携を取るわ。これについてはWSOは私とレベッカちゃん、シモーネちゃん。全探組については妹尾くんにトマスくん、エリスちゃんとラウラちゃんで手分けしましょう」
「アイアイサー! ……んーで、例のラウエンってのとはどこでどういうタイミングで合流するんです? 奴さん迎えにわざわざスウェーデンまで来たんでしょう」
レベッカが挙手する。立てられた予定のなかにあるべき目的、すなわち武術家シェン・ラウエンとの合流についての具体的な話がでなかったことへの質疑だ。
そもそもからしてこのスウェーデンにやって来たこと自体、彼と合流して万全の体制でノルウェーにて待つ能力者解放戦線との決戦に赴くためなのだ。
いわば最後のキーパーソン、そんなラウエンとの合流への段取りが気にならないわけもない。
古馴染みの弟子からの問いかけに、ソフィアは淀むことなく流暢に返答していく。WSO統括理事という国際社会のトップに君臨する政治家らしい、落ち着いた受け答えである。
「ラウエンくんとの合流については私のほうで彼と直接連絡するわ。クライペダにいた時点ですでにやり取りはしているけれど、今、ラウエンくんはスウェーデンの首都ストックホルムにいるわね」
「ストックホルム! このトレレボリからだとそれなりに時間がかかりますが、我々も無論北上するにしても彼は南下しますので?」
「無理でしょうね。周辺でスタンピードが頻発しているから、現地探査者達と連携してその解決に動いてくれているの……すごい人気よ彼、"轟鉄・シェン・ラウエン"だなんてほら、地元新聞にも記事が」
「えっ……新聞にまで取り上げられるほどなんですか、その人!?」
おもむろにソフィアが取り出した地元新聞紙。そこに大々的に写真付きで掲載されたシェン・ラウエンにまつわる記事に、シモーネが盛大に驚きを露わにして食いついた。
レベッカや妹尾、トマス達も食い入るように記事を見る。中華系の武闘着に身を包んだ東洋人が、鳥型のモンスターに蹴りをヒットさせているまさにその瞬間を捉えた写真がまずは彼らの目についた。。
その記事曰く、数ヶ月前に現れ、瞬く間にヒーロー探査者の一人として名を馳せるシェン・ラウエンのスーパーキック炸裂!! ──とのこと。
控えめに言ってもとてつもない目立ち方だ。シェン一族に縁のあるレベッカと妹尾が、呆れるやら笑うやらと言った面持ちでコメントした。
「こいつぁすげえ。カーンさん以上の目立ちたがり屋じゃねえかよ、この兄ちゃん。見ろよこの記事本文、まさかの御本人へのインタビューつきだぜ!」
「"我が一族シェン、そしてシェンの拳法星界拳。これらの名を世界天下にあまねく轟かせるため、星界拳正統継承者であり次期シェン一族の里長ともなるこのラウエンはここにいる。スウェーデンの友人達よ、私の活躍と名をどうかその心に刻み、そしてシェンの名をも讃えてほしい。そのためならばこの生命を燃やし尽くしてあなた方を護り抜いてみせる"────かあ。カーンさんをさらに直情的にしたみたいな印象だけど、若さゆえかな、これは?」
「実際、私も話していてとてもカーンくんを彷彿とさせられたわね。特に一番最初、出会って間もない頃の彼みたいな無鉄砲さだもの」
「えぇ……?」
ラウエンの前身とも言えるらしい、ソフィア、ヴァール、レベッカそして妹尾の四人に共通する知人シェン・カーン。
その人物をより先鋭化させたようだと口々に述べる姿に、ラウラを抱きしめて撫でるエリスも思わず戸惑う。
未だ見ぬ実力者シェン・ラウエン。自身など及びもつかない強さであるのは間違いないだろうものの、それをも超えてエキセントリックな人物であるのだろう。
伝え聞く前評判と新聞の記事から、嫌でもすぐ近くにまで迫る出会いに不安と期待を綯い交ぜにするのだった。




