ノールノルゲを目指して
「お姉様! それにヴァールさん達もお疲れ様でした!!」
「ただいま、ラウラ。こちらは特に問題なかったようね。良かったわ」
「うん! エージェントさんの言うこと聞いてボク、大人しくしてたよ!」
戦いも終えて帰路に着く。宿へと戻ったところすぐさま駆けてきては、姉同然の存在であるエリスに抱きついてきたのがラウラ・ホルンだ。
能力者でこそあるものの、彼女だけはパーティメンバーに数えられはするものの戦闘要員としては扱われていない。
それはやはり未だ幼い少女であることと、なおかつスタンピードにて家族を失った犠牲者遺族であるということもあるがゆえの配慮からだ。
結果、ラウラのパーティ内での役目はもっぱら平時にあっては買い出しや掃除、身の回りの世話など家事からスケジュール管理補助といったサポート業務に終始しており。
今回のようなスタンピードで戦闘要員が出払う時は、ソフィアないしヴァールの取り計らいによって護衛のエージェントを複数名つけられての留守番となるのが常のことだった。
甘えるように抱きつく妹分を、慈愛を込めた掌で撫でるエリス。称号にもあるとおり《聖女》らしい優しい表情と眼差しは、ラウラにとって他のどんなことよりも素敵で美しいものだ。
しかしてそのような微笑ましい光景ばかりに気を取られてもいられない。戦闘を終えた一同はひとまず各自の部屋に戻り身の回りを整え、一息入れてから妹尾とトマスの相部屋にてミーティングを行うこととなっていた。
「むさ苦しい男の部屋に、こうも女性陣が詰めかけるのもあまり好ましくないんだが……我々が何処か女性の部屋に踏み込むのはもっと躊躇われる。悩ましいところだね、まったく」
「教授は気にしいなんですよ、日本人らしいと言えばらしいかもっすけどね。ま、軽く話し合うだけですから窓とか開けてせめて空気の入れ替えはしときましょうかね」
部屋の主たる妹尾は、しきりに男女の区分について気にしているが弟子のトマスは然程気にした様子もなく苦笑いしている。
他の女性陣もそうだ、そのようなことよりも先にまず、これから先の話をしなければならない。そのことには妹尾も同感であるため肩をすくめ、仕方ないとばかりに窓を全開にして新鮮な空気を取り入れるに留めた。
テーブル周りにエリスとシモーネ、ラウラが座る。ソファにはレベッカとトマスが座り、ベッドにて妹尾が腰掛けている。
そうして全員の前に立つヴァールが、パーティリーダーらしく声を上げた。
「諸君、まずは戦闘ご苦労だった。能力者解放戦線メンバー、火野源一とイルベスタ・カーヴァーンには逃げられこそしたが危険なモンスターを倒し切ることはできた。諸君らの健闘に感謝する」
「苛性ソーダ・スコーピオンでしたっけ。アレやばかったですね……」
「劇毒を撒き散らす体質に、レベッカさんの斬撃をも通さない鉄壁の防御ときたもんだ。教授が倒し方を熟知してなけりゃ、下手すると誰ぞか犠牲者が出ちまってたかもしれません。危ないところでしたぜ」
「うむ。モンスターのなかにはああいった、人間に対して致命的な威力を有した特徴を持つモノもいるということだ。言うまでもないことだがこれを教訓に今後も油断ないよう、気を付けてほしい」
まずはねぎらいの言葉から始めたヴァール。苛性ソーダ・スコーピオンの印象がやはり一同強かったのか、口々にかのモンスターの脅威性について論じ始める。
これもまた、探査者のなかでは大切な振り返りの時間だ。スタンピードに限らずダンジョン探査のなかで得た知見、経験を仲間と共有して己の血肉とする。
そうして次に戦う際にはより強く、より優れた力を発揮できるよう全力を尽くすのだ。
それこそが探査者という職業に就く者の在り方であり、それらを統括するソフィアやヴァールが思い描く理想的な姿勢だった。
しばらく意見を交わし議論をする仲間達を、無表情ながら目を細くして見やるヴァール。しかしてやがて軽く柏手を打ち話を止め、本題を続けていうのだった。
「戦闘の反省や振り返りはまた晩にでも行ってほしい。今はこれからのことについて話そう……結論からいうが、もう数日した時点でやはり我々はスウェーデンへと向かうぞ」
「スウェーデン……その先にあるノルウェーへと向かうんですね。連中が何やら言ってやがった決戦の地とやら、ノールノルゲ目指して」
「そしてその道中で我々はもう一人、強力な仲間を迎え入れる。あの偉大なるシェン・カーンの見出した新たな星界拳士、シェン・ラウエンとね」
「そうだ。スウェーデンにてラウエンを迎え、いよいよ我々は能力者解放戦線本拠地たるノールノルゲへと向かう。首魁オーヴァ・ビヨンドを倒すためにな」
これからの行先を断言する。今朝方にも聞いていたことなのでエリス達もそれは分かっていたが、やはりそれでも緊張は走る。
最終決戦が、近づいてきている──能力者解放戦線のアジトにて。オーヴァ・ビヨンドならびにイルベスタ・カーヴァーン、火野源一との決着をつけるのだ。
すなわちそれは、気づけば半年近くにもなったこの旅路の終わりを予感させる宣言だ。
エリスもラウラも、他の仲間達も息を呑む。第二次モンスターハザードは北欧戦線における、終焉が始まろうとしていた。




