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大ダンジョン時代クロニクル  作者: てんたくろー
第二次モンスターハザード後編─犯した罪に、等しき罰を─

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トリプル・コンビネーション

 火野を連れて逃げるイルベスタを、追いかけるだけの余裕は今のエリス達にはなかった。

 残ったモンスター達の対処にも追われている上、何よりも苛性ソーダ・スコーピオンが残っているのだ。


「ぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎち────っ!!」

「ちいっ……!! とにかくまずはモンスターを仕留めねばまずいか! 特にこの蠍だけは!」

「ヴァールさん、援護頼みます! やつの毒液がマジでやべえ、さっきから明らかに地面やらモンスターやら汚染してやがる! ふざけやがってなんの液体だ!?」

「あ、あんなの相手に接近戦は無理ですよ!? と、統括理事の鎖でどうにかできません!?」

「無論だ! 《鎖法》、ギルティチェイン!!」


 相対していたレベッカ、シモーネ師弟でさえ半ば匙を投げるほどの恐ろしさ。巨大な蠍モンスターである苛性ソーダ・スコーピオンの尻尾から振り撒かれる毒液にこそ、脅威の真髄があった。

 苛性ソーダ──劇薬を体内にて精製して外部へ放出する、地獄のような能力を好き放題に行使しているのだ。あるいは逃げた二人など、比較にならないほどの危険性を誇る凶悪なモンスターと言えるだろう。


 現に今、まさに巨体の尾尻から噴出している液は地面に落ちればそれを汚染し、モンスターにかかればそれを焼いている。

 いわんや人間をや。今はまだ誰にも一滴も命中してはいないものの、もしも掠りでもしてしまえばこの威力、絶対にただでは済まないだろうことは今、この場にいるパーティメンバー全員が理解していることだった。


 万一にでもここで逃がしてしまえば、その体内から放出する劇薬・苛性ソーダでどれほどの被害が生まれてしまうか分からない。

 それゆえにヴァールは能力者解放戦線メンバーの逃走を、見逃す形であってもあえて狙いをこの蠍へと切り替えたのだ。今しがたのイルベスタの台詞から敵もまた決戦への意欲があるのは分かった、であれば今はまず目の前の惨劇を食い止める!


 ヴァールが放った鎖は蠍の甲冑、右前足の鋏に直撃してその根本からを貫通し切断する。尻尾だけでなく、そこからも毒液は垂れ流されていた。

 吹き出す体液、それそのものがどうやら毒のようだった。敵の周囲の土が、自然が、生命が汚染されていく。

 その醜悪なまでの様子に、ヴァールは無表情のままに歯噛みをして呻いた。

 

「しかしまずい、やつはどれだけ内部に毒を溜め込んでいる!? 苛性ソーダ・スコーピオンなどとイルベスタは言っていたが────」

「ぎちぎちぎちぎち、ぎちぃぃぃぃっ!!」

「鉄鎖防壁ッ!! ────やはり今放出しているのは苛性ソーダとでも言うのか! 本当にまずいぞ、人間など容易く殺してしまえる劇毒だ!!」


 イルベスタの漏らした情報から敵の生態にあたりをつけつつ、両腕の鎖をフル稼働させて彼我の間に防壁を拵えて向けられる劇物を防ぐ。

 苛性ソーダは人体に対しては滅法強い毒性劇性を持つが、反面に鉄に対しては精々が腐食程度で溶解反応などは示さない。

 《鎖法》の、スキルによって顕現している鎖ならばどうにか凌げるものだが……しかし油断などできるわけもない危険性だ。


 いかなヴァールでも、このような威力をまともに喰らうわけにはいかない。

 危機感と焦りに叫べば、すぐに仲間達は動いた。ヴァールに鋭い先端の尾が向けられている横合いから、レベッカが剣を大上段から構えて飛び込み、振り下ろしたのだ。

 大斬撃だ!


「ヴァールさん! っの野郎、舐めてんじゃねええ!!」

「ぎちぎちぎちぎち、ぎち────」

「ひぃぃぃぃ!? 《槍術》、バーボンロック、ダブルーッ!!」

 

 気合の雄叫びとともに、巨体の持つ鋏状の左前足に斬りかかる。同時にシモーネが逆側から、手にした槍で鋭い突きを二度放った。

 甲高い金属同士の擦れ合い、ぶつかり合う音。これもまた驚異的な話だが、苛性ソーダ・ スコーピオンの甲殻はそれら斬撃や刺突にさえ堪えうるほどの硬度がある。

 

 何しろ現時点において最強の探査者と言えるヴァールの、最大火力を誇る技たるギルティチェインが直撃してようやくその前足を一本もぎ取れたのだ。

 つまりは二人の攻撃では切断や貫通などにまで至るわけもなく……特にレベッカは、カウンター気味に今度は鋏で狙われる羽目となってしまった。

 

「ぎちぎちぃぃ!」

「んなっ、やべっ──!?」

「師匠っ!?」

「レベッカ、避けろ!!」

 

 差し向けられた、大きく開いた鋏の腕。直感的に死を確信してレベッカは目を見開き、シモーネとヴァールは叫び、駆け出した。

 しかしてこのタイミング、もはやいかなる行動をしても間に合わない。それも悟りレベッカは、せめて防御行動として鋏の前に剣を構え、盾とした。

 もちろん効果がないのはわかっている。そもそも一番の脅威である劇毒の前には、構えた剣はともかくレベッカ自身はやはり生身だ、成すすべもなくすべてが溶かされるだろう。

 

 死んだ。

 と、レベッカ自身さえも静かな胸中で覚悟した、その時。

 ────二人と一人の、探査者が、そこで動きを見せていた。

 

「《念動力》──! 限界を、超えてぇぇぇっ!!」

「《鞭術》、イザベラ! ちょいと痛みますが勘弁してくださいよ、レベッカさん!」

「《拳闘術》モール・アッパーグランドガンマ! 甲殻類はね、当たり前だが関節狙いが基本だよウェインくん!」

 

 エリスが《念動力》で苛性ソーダ・スコーピオンの動きを、ほんの数秒だけ止めて。

 トマスが振るった自らの鞭でレベッカを半ば、打つように巻取り引き上げて。

 そして妹尾が蠍の巨体、その腹部にまで潜り込んでアッパーを放ち打ち上げた──その身を護る甲殻と甲殻の狭間、関節部をナックルダスターで思い切り殴りつける!

 

 三者三様にレベッカを救うための行動が、一つの連携として機能したコンビネーション。

 その三連撃により苛性ソーダ・スコーピオンの巨体は著しく吹き飛び、レベッカは死の可能性から逃れた。

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― 新着の感想 ―
今更ながらトマスさんの鞭って、言うなればベリンガムのムチ……
2026/01/16 18:34 こ◯平でーす
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