決戦の地にて待つ
『なーなーエリスちゃんよう。そのエネルギーブレードってどこまで伸ばせんだ?』
『え? ……そういえば試したこともありませんね。分からないです、レベッカさん』
それはリトアニアでの戦闘訓練中での、ふとしたレベッカの疑問だった。エリスが日頃繰り出す《念動力》によるエネルギーブレードの切っ先を、じっと見つめての問いかけである。
言われてみれば、とエリスも内心で好奇心を抱く。これまでまったく考えもしていなかったことだが、スキルによるエネルギーはどのくらい、自分の意志に沿って形を変えられるのだろうか?
これまで素人同然の身で、必死に戦ってきたがゆえに顧みることもしてこなかった。そもそもこのエネルギーブレードの威力はゴールデンアーマーさえ屠れる超火力であり、仲間内でもヴァールの《鎖法》とさえ並んでの最大威力。
つまりは気にするまでもなく、言い方は悪いが適当に出して適当に振るえば、それだけで順当にモンスターを倒せてしまえるような代物なのだ。
その可能性に目を向ける必要がなかったのも、無理からぬことではあった。
「ぐ────く。か、モリ、ガナァ」
「《念動力》。私のエネルギーブレードは、威力は落ちてもこのくらいの距離までなら貫ける」
そして今。イルベスタに連れられて逃げようとした火野を思わずして奇襲したその一撃こそが、レベッカの疑問とエリスの好奇心からの産物だった。
ナイフから放たれるエネルギーブレードが、待ち針のような薄く、細い針状に変化していた。同時に50mは離れている火野の身体を、鋭く突き刺し貫いている。
元の形状に比して、極めて威力は減衰しているがたしかにこれは、エリスのエネルギーブレードが変形したものだ。
スキルの新たな使用法を編み出し、それを実戦にて使うのは今回が初めてだったが……努力して制御してみせただけのことはある威力だと、エリスは静かに胸を撫で下ろした。
そんな彼女に、血を吹き出させて火野が嗤う。エネルギーブレードの貫通とは別口に、脇腹にもナイフを3本、刺されている状態でだ。
「おま、けにナイフ、までとはァ……!! 隠し玉、ってかぁぁ!?」
「エリス・モリガナ! 通常の使い方と同時に、自身だけの異様な使い道をも研鑽していたのか……!!」
「っ……くっ」
深手を負いつつもまるで意に介さず嗤う火野。その隣ではイルベスタが驚愕に目を見開いている。
同じ《念動力》を、しかしてお互いに異様な使い方をしている者同士であっても、エネルギーブレードをさらに伸ばしてくるのは予想だにできないでいた。
しかし、エリスのほうもダメージは大きい。敵の攻撃を受けたとかでなく、自傷ダメージだ。
《念動力》……ナイフを操るのも、エネルギーブレードを加工するのもひどく体力を削る。"まるで生命そのものを削っているかのような"感覚にめまいを覚え、彼女はその場にて片膝をついた。
「エリスちゃん!?」
「エリス! ……くっ、人間より先にこの蠍がまずいのかっ!」
「ぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎち!!」
即座に反応するレベッカとヴァール。
しかしお互いレベッカは苛性ソーダ・スコーピオンの相手をシモーネと行い、ヴァールも火野とイルベスタに狙いを定めたものの、やはりスタンピードによるモンスターの群れを相手に妹尾、トマスと組んで倒しているため身動きが取れない。
追撃も救助も助力もできないため、必死に声を掛けるしかできないでいた。
反面、一気に追い詰められたことを受けてさすがのイルベスタも冷や汗を流しつつも火野を担いだ。構わず逃げるのだ。
勝算ならば当然ある。彼の信奉する閣下──オーヴァ・ビヨンドが見た"光景"、未来のヴィジョンはすでに確定しているのだから。
「やられるわけにはいかん……ゆえにここは離れる、ただ離れる! WSOよ、我らの決戦の地はこのようなところでないと閣下は仰られている!」
「な……なにを!? 閣下、オーヴァ・ビヨンドのことですか!?」
「妄りに御方の名前を呼ぶな少女!! しかしてそうだ、我が主たるオーヴァ・ビヨンドは待っておられるぞ、ただ待っておられるぞ!!」
叫びつつ、担いだ火野とともに戦線から遠ざかるイルベスタ。決戦に向けて回収するつもりの火野が危うく半殺しとは、エリスという少女の実力の大幅な向上を肌で感じながらの後退だ。
これもすでに、閣下……オーヴァ・ビヨンドが見ていた未来だ。見たがゆえに確定していたこの未来には、さらに先のところでも見ている景色がある。そしてそこに、火野の姿も健在だったと言う。
ならばこの場で火野は死なない。否、死ねない。そして己も捕まらない。これこそがオーヴァ・ビヨンドの奇跡の御業だ。
あらためてその偉大さに震えながらも彼は、苛性ソーダ・スコーピオンやモンスターに足を止められているソフィア・チェーホワならびに、疲労もあり火野への追撃が行えないエリス・モリガナへと告げるのだった。
「我らが決着は今この時、この場所ではない──! 待っているぞ、決戦の地にて!!」
「決戦の、地!?」
「分かっていようがノールノルゲだ! 我らが偉大なるオーヴァ・ビヨンドはそこで貴様らを待っているぞ! 我らは能力者解放戦線! この世の地獄から能力者達を解放するため、戦い続ける者達だっ!!」
「も、モリガナァ……また、ヤリあおうぜ……!!」
ついに自ら、本拠地があり決戦の地となる地を打ち明かしたイルベスタ。その横で火野も、やはりエリスへの執着の籠もった声色で捨て台詞を吐く。
ノールノルゲ。ソフィア達もすでに粗方の推測はできていた、ノルウェー北部地域。やはりそここそが能力者解放戦線の本丸ということだった。




