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大ダンジョン時代クロニクル  作者: てんたくろー
第一次モンスターハザード─GUILTY CHAIN─

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インターミッション

 上海にて、モンスターのスタンピードを人為的に引き起こしている組織の一員と初めて交戦したヴァール──ソフィア・チェーホワの裏人格。

 惜しくも撃破には至らなかったものの数多くの情報を得られた彼女は直ちにスイスはジュネーヴの能力者同盟本部に戻り、組織を壊滅させるための算段をつけ始めた。


 幸いにして、この頃には能力者大戦も終戦への道筋が立ちつつあるタイミングだった。

 1944年の末。兵器として利用されていた能力者達の保護にも目処が立ち、また国連総会においてソフィアが登壇して能力者の人権を護ることを訴え呼びかける演説が行われたのだ。

 

 通称"チェーホワ宣言"。世界人権宣言に数年先駆ける形で行われたこの宣言は、世界中の人々に能力の有無を問わず心を打った。

 どんな存在も、その能力によって非人道的な扱いをされることはあってはならない……その訴えかけに呼応し、一気に反戦、厭戦ムードが広がったのである。

 

 国連はこの勢いを借りてソフィアを担ぎ、能力者同盟をそのまま国連の組織と認定。政治的に極めて大きな権力を有することを認め、世界大戦を未だ継続させようとする一部国家に強力な牽制を行った。

 そうしてその結果、未曾有の混乱に陥っていた世界秩序はついに、終焉の兆しを見せていたのだった。

 

「大戦が終わるのは良いが、反比例してスタンピードが頻発していては話にならん。件のハオ・メイリィやレノ・エーノーンが属する組織の詳細をどうにか突き止め、早急に叩き潰さなければ」

 

 正式に国連組織となった能力者同盟──数年後には国際探査者連携機構、通称WSOと呼ばれることになる組織──の本部、会議室にて。

 ソフィアでなくヴァールが同盟幹部を集めての話し合いの場で、例の人為的スタンピード誘発の犯人達について強く言い切っていた。


 冷淡ですらある無表情はそのままなのに反しての過激な言い分は、ゴシックロリィタ調の衣装の美少女がするにはあまりにギャップがあるものだ。

 彼女とは数年来の付き合いになる三幹部であるシェン・カーン、レベッカ・ウェイン、妹尾万三郎達は常にない様子に固唾を飲みつつも、追従してうなずいた。

 

「同意です。決してやつらを放置しているわけにはいかない」

「フィンランドの海沿いでも連中が引き起こしたっぽいスタンピードに出くわしたからね、私なんかは。実際目の当たりにすると、あんなこと引き起こしてる連中なんざブチ殺してでも止めねぇとって思うよ」

「レベッカくんまで過激ですね……異論はありませんが、さりとて連中についての情報が少なすぎるのがネックです。これでは探そうにも探しようがない」

 

 三人とも、あるいは他の幹部達も含めて思うところはヴァールと同じだ。人為的にスタンピードを引き起こしている集団を、可能な限り早く見つけ出して叩き潰す。

 それができなければ、戦争が終わったとて世界の秩序は未だ、乱されているままなのだ……強い危機感を抱きつつも、しかし妹尾の言うように連中の手がかりがほとんどないのも事実なのだが。

 

 一応、先日にヴァールが対峙したメイリィとエーノーンの二人についての調査は進行している。特にハオ・メイリィなどは数年前から地元の重慶市内で名の売れた荒くれ者だったようで、比較的すぐにパーソナルデータを入手することができている。

 反面、エーノーンのほうは出身がスペインだということ以外は謎に包まれたままだが。ただ、どちらにせよ数年前に二人とも消息を絶っていることが判明している。


 おそらくは何らかの犯罪組織に加入したのはそのタイミングなのだろう。

 ヴァールは資料を踏まえ、三人に指示を出した。

 

「ワタシとお前達三人でやつらの足取りを追う。各地のスタンピード現場に《空間転移》で即座に向かいこれを解決、扇動者がいた場合にはこれを撃破して尋問する形になるが、どうか」

「能力者大戦終結への段取りはどうしますか? 他幹部陣でも舵取りできる段階にはなりつつありますが、要所はやはりソフィアさんにやっていただきたいのですが」

「そこはこの施設からソフィアが指揮を取る。時間が取れたタイミングでワタシがスタンピードの相手をする形にすれば問題なかろう」

「負担が多すぎますぜ! いくら人格が別ったって、身体は同じ一つきりなんだ! 過労で倒れちまったら元も子もない!」

 

 無茶な話に、即座にレベッカが抗議の意を示した。隣では妹尾がうんうんとうなずき、ヴァールに心配そうな目を向けている。

 戦えるヴァールがスタンピードの対応を、そうでないソフィアが政治的な対応を──適材適所といえば聞こえは良いが、それを実際にしてしまうとあまりにも二人に負担がかかることを、三人は危惧していた。 


 心ではなく、体のほうの負担だ。いかな二重人格でも実際に動かす身体が一つである以上、今言ったやり方を実行すれば彼女は不眠不休に近しい状態に陥ってしまう。

 さすがにそれはさせられない。カーン、レベッカ、妹尾の三人は顔を見合わせてうなずいた。

 

「ソフィアさんとヴァールさんにもきっちり休みは取ってもらいます。あなた方が不在の時は我々が代理人として動きましょう」

「つってカーンさんと私は政治的なアレコレなんざ分からんし、妹尾にまかせて現地のスタンピードをどうにかするかねえ」

「政治面でも、一応ながらソフィアさんの仕事の半分は受け持てます。ここは我ら三人で分担し、お二人には監督役をしてもらいつつも要所で出張っていただきましょう」

「む……? そ、そうか。そう言うならば、そうするか……?」

 

 三人の提案に困惑しつつもうなずくヴァール。彼女としても、分担することで自身はともかくソフィアの負担が減るのならばそれは願ってもいないことだ。

 ──かくして能力者同盟はこの未曾有のスタンピードに対して、ヴァールおよび三幹部をメインにした対抗活動を実施することになっていった。

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