金曜日の角
まずは目に留めていただいてありがとうございます。
今作では「働く社会人」にフォーカスを当て、先輩と僕の2人の会話を描かせていただきました。
短く拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。
金曜日が好き。毎日の憂鬱がほんの少しだけ和らいでいるような空気感が好き。いつもは死んだ魚の目に、チョウチンアンコウの角?のような寝癖をつけている先輩も今日だけは生き生きとしている。
「今日行くでしょ?」
いつ、どこで、何をしに行くのか。全て分かってしまうのが恐ろしい。正解は19時に駅前の居酒屋『だらーく』で恋バナだ。
「行かないと言ったら?」
「クビにする」
「そんな権限ないですよね!?」
「バレたか」
先輩は僕よりも一年早く試験に受かった。大学では同級生だったのに先輩面してくる。面接が得意だったら僕だって合格していたのに。……そうです言い訳ですごめんなさい。
「それより聞いて聞いて」
「ずっと聞いてます」
「さっき修学旅行で来たバス会社の人、すっごく格好よくなかった?」
「あー、打ち合わせに来てた人ですか?」
「そーーーう!私がその人とお付き合いする為の会議をしましょう」
「また恋しちゃったんですか。Y◯Iですか?C◯E.R.RYですか?」
「返しがだるいよー?そんなんじゃ採用試験、受からないよ?」
「もう受かりましたよ!」
「あれ、そうだっけ」
来年からずっとおみくじ凶であれ。
「僕に興味なさすぎです。てか恋愛会議の前に職員会議がありますよ」
「また会議か〜」
「さすがに多すぎますよね」
「ちょっと校長に交渉してくる」
「はい」
脳内で校長先生が微笑む。
「ちょっっと待ってください!!!」
「どうしたの」
「今なんて」
「だからー。会議減らしてくれって校長に交渉してくる」
「そんなの無理ですよ」
「どうして?」
「だって」
だって僕達は働き始めたばかりのペーペーだ。何も分からないし、社会のこともわからない。下手に口出ししたらどうなることか。
「だって僕達」
「だってだってうるさいわね。だったら一生会議多いって文句言えばいいじゃない。私は良くないと思うところは言う。あらかじめ1つの議題にかける時間を定めておくとか、内容を精査しておくことくらいできるはずよ。私は少なくとも行動してから文句を言うわ」
「でも上司に楯突いて現実が変わるのなんてドラマや小説の世界だけじゃないですか。みんな思ったとしても我慢してるんですよ?」
「日本人は本当に我慢が好きね」
先輩も日本人じゃねーか。あれ?ハーフだったっけ。
「私は無駄な時間を恋バナに費やす方がマシだと思うわ」
恋バナをする時間は無駄じゃないのかと言いそうになってやめた。
「せっかく生きてるんだからやらなきゃね。やりたいことぜーんぶ!」
先輩はまるで水を得た何とやらだ。それができたら苦労しないよと思った。呆れて型落ちスマホの画面を覗き込む。死んだ魚の目をしたチョウチンアンコウのような生き物が反射して映った。
読んでいただき、ありがとうございます。
金曜日というのは不思議なもので、何か不思議なパワーをもっているように思えてしまいます(土曜休みではない方、申し訳ございません)。
作中の先輩のようになりたいけれどなれない自分を投影してみました。
何か伝わるものがあれば嬉しいです。
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