表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

残された時間

作者: 赤月結衣

僕は病院にいる。何故かって。それは彼女のお見舞いにさ。「彼女」なんて言っているけど本当は片思いの相手。恋人でもない僕は彼女のお見舞いの際「クラスメイトから」と言い赤いバラのつまった花束を彼女に差し出した。彼女は嬉しそうに「ありがとう」といった。彼女の声はか細く、以前みたいに笑顔にあふれた瞳はみじんの欠片もなかった。今の彼女は死んだ目をしていて、ただそれでも僕はそれが美しいと思えた。まるでそこに天使がいるかのように、僕は毎日彼女の愛に埋め尽くされていた。そんなことを表には出さず、ただただ彼女が退院できるよう、そしていつか僕を愛してくれるようそう毎日願っていた。たとえそんな日が訪れなくても、少しの希望を胸に抱いて。「薔薇の花言葉知ってる?」僕は正直に「知らない」といった。「調べてみるといいよ」彼女はそう言い、僕の手元に白いバラを手渡した。僕が挙げた薔薇は凛としているにもかかわらず、彼女がくれたのは淡い白だった。まるで雪のように。いつか消えてなくなるんじゃないかと思うくらいうれしさと悲しみが僕の心を惑わしていた。彼女は死んでしまう。そう分かっていても彼女には告げられなかった。彼女もわかっているのだろう。自分が死んでしまうことを。自分が死んだら周りを悲しませてしまうことを。そんな彼女をただ僕は見ているしかなかった。いつの間にか夜になり、あたりは静まり静まり返っていた。窓からは何千もの星が輝いていた。それと同時に花火も上がった。ああ、そうか。今日は二月十四日。バレンタインだ。ここでは毎年二月十四日になると花火を打ち上げる決まりになっている。花火が舞い上がり音を放った途端。「―」彼女が何か言った。僕は「ごめん。花火の音で聞こえなかった。何」といった。彼女は「内緒」と言いさらに「ヒントは薔薇だよ」と言い、悪戯っぽく笑った。あれから彼女には会っていない。会っていないのではない。会えないのだ。もう彼女はこの世に存在しないのだから。彼女は死んでしまった。彼女の事が好きだった僕を残して、旅立ってしまった。あれから何年たったのだろう。今僕は彼女との思い出を一から丁寧に思い返している。初めて会った時の事。初めて互いの言葉を交わしたこと。そして初めて僕が君に恋をしたこと。その言葉は今でも伝えられず、これからも心の奥深くにしまい込む事であろう。誰にも打ち明けない、僕と彼女だけの思い出。今思い返せば、彼女の「ヒントは薔薇だよ」あれは何だったのだろうか。何か特別な意味が持ってそうなそういう言い方だった。調べてみたら、ああそういう事か。と言葉をこぼした。僕たちはもう愛し合っていたんだな。僕の頬に冷たい滴が流れ落ちた。

                END

 赤い薔薇の意味=あなたを愛しています。

 白い薔薇の意味=私はあなたにふさわしい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ