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「塗り壁」  作者: first
4/7

ヌリカベ―後編―①









「それでも少年はその壁を愛し続けた・・それが偽りの物だと知っていても・・・・」



  誰もいない劇場の客席で一人、ソレは立ちながら舞台に向かって叫ぶ。



  「それでも少年は幸せだったのだ、何を邪魔する必要がある?」


  

  顔は暗闇で見えないが、ソレは確固たる意思で彼の悲願を代弁する。



       

  「彼の塗り固められた壁の世界を・・・幸せな世界を邪魔する事なんて誰も出来ない・・・いや

   「させない」・・・・彼女ならそう言っただろうな・・・・、



                 そう、

                



                 例え・・・・・・・・・・・・・・・何人犠牲になろうとも。」













                 ―――― 塗り壁 ―――









                      ○後編 





   

  ガチャ、ピー、イッケンデス。

  

  

  「おー、順二、元気やってるかー久しぶりー」

 

  「お前、知ってるか?祐人の奴、家出して、現在消息不明らしいぜ」


  「それで、心配に思っているだろうと思って、オレッチが祐人の家へと見舞に行ってやろうと思うんだ。」


  「いやー、なんて友達思いな俺、うーんかっこいいねー、こんなかっこいい姿、宮さんが見たら、なんて思うか、

   うはー、興奮してきたー」


  「じゃあ、とりあえず祐人家行って来てから、現状報告で折り返しかける、まあ、帰って来る頃には

   宮さんの心をがっちし捕まえて戻っているだろうから嫉妬とかしないように、あと、陽子にもよろしくなー」




  ジュウニガツ、ムイカ、ゴゼン、ゴジ、ジュウヨンフンデス




   現在は12月の8日12時45分、留守番メッセージの時刻から二日が経つが鈴木省吾からかかってきた電話、

  それ以後の留守番メッセージは一切無く、自宅、携帯全ての連絡手段を試すが完全に音信不通となる。



  「このメッセージを聞いて気が付いた事は?」


  「・・・・・んーまず、家出で消息不明の祐人の家にお見舞いに行っても本人いないと思う」



   いや、確かにもっともの話なんだが、気が付いて欲しい所はそこじゃない。



  「後は-あいつの目的は祐人じゃないね、お姉さんの宮さんだよ、昔から省吾は宮さんの事ばかり

   考えてたからね、おお私ってば名推理」


   まあ、このメッセージ内容からそれがわからない奴はそういないだろう、そしてそこも違う



  「そして、音信不通になった理由、それは・・・・宮さんとの愛の逃避行だよ」



  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


  すまん、聞いた俺が馬鹿だった。


  とりあえずかいつまんで説明して見る事にした。



  「そうじゃない、アイツが祐人の家に行ったあと、二日間音信不通になっているって言う事は、

   あいつ自身が行方不明になったって言う事だろう」



  「はっはっはー、そんなの始めっから気づいてるって、冗談よ冗談、まったく順二はまじめだなー」


  笑いながら俺の背中をバンバンとたたく・・・・意外と力が入っていて痛い。

  本当に冗談で言っているのか不安になってくる。


  

  「おいおい、俺は真面目な話をしているんだ、ちゃんと聞けって、すなわち祐人が消えてその家に訪れた

   省吾まで消えたんだぞ、これは祐人の家自体になにか秘密があるってことだろう」



   しばらく、の沈黙が俺達の間に訪れる



   ―――― そして



  「すなわち・・・・・・・家出や行方不明は伝染するって事ですか?」


  俺の言いたい事はまったく通じていなかった。 


  ・・・・・・・・・・・・・・・・すまん、やっぱし冗談じゃなく「素」らしい。



  「だーかーらーなんでそうなる?ただ単に、祐人の家族か誰かが、祐人や省吾を監禁しているって考えるのが普通

   だろうが。」




  「いやーでも、やっぱし、恋愛と逃避行説って事も捨てられないんじゃないですかね~銭潟さん?」


   それはない、ってか誰だ銭潟って?

 

    

  そんな不毛な会話をしていた金曜の学校、現在昼休みの事だ。

 

  俺(北里順二)と篠原陽子は二つ並べた机を挟んで昼食をとりながら、つい最近あった懐かしい友人達

  の話をしていた。


 

   

  その一人は、神経質で用心深くとてもナイーブしかし、友達思いだった、井上祐人


  そしてもう一人は、お調子者でムードメーカー明るく元気だった、鈴木省吾である





  俺達4人は、小学校の6年間全て同じクラスであり、仲良し4人組なとても良い親友であった。


  よく小学校の頃は放課後に虫取りやかくれんぼ、靴飛ばしなどして子供らしく遊んでいた物だ。



  だが、それはいつまでも続く物ではなかった、小学校を卒業し中学に入学する頃、

  俺と陽子は地区内の一般校に入学したが、祐人は兄と同じ進学校に入学、また省吾の方は省吾の方で

  親の都合で祐人とは違う進学校に行ってしまった。


 

  そんなこんなで、俺達仲良し4人組はばらばらとなり、四人が同時に顔を合わすことは、ほとんど無くなった。


  そして俺達と省吾の方はそれなりに連絡を取っていたのだが・・・・祐人の方は、何やら忙しいらしく

  まったくといっていいほど連絡が取れない状態で、2年と言う月日が流れてしまっていた。




 「で、どうするのよ、明日にでも祐人の家にいって確かめてみる?」


  唐突に陽子が話の本題を振ってきた。


  陽子は弁当箱をしまい終わり、よっこらせと胡坐を掻きながら

  なぜか持ってきている爪楊枝で葉の隙間を掻いている・・・・・・・・女の子なんだから、

  俺としては少しは気をつかってほしい物なのだが。





  「まあ、結論としてはそこなんだが、さすがに俺達の勘違いって事も考えられる、ただの家出と

   連絡がつかないだけって事も・・・・・」


  「もしくは愛の逃避行?」


  「それはない」


   あくまで愛の逃避行説を通したい陽子、話が一向に進まない。


   「まあ、だからとりあえずは余計に疑って失礼にあったっても困るし

    明日は祐人の家に行って、様子だけでも見てこよう、本当にただの思い過ごしかもしれないしな」


  本当にただの思い過ごしであって欲しい・・・と言うか、だんだんと俺の考えすぎのような気もしてきた、

  そもそもあのちゃらんぽらんな省吾の事だ、連絡するといってその連絡を忘れているだけと言う事も

  おおいにありえる。



  それに、祐人の家はつい最近お兄さんを事故でなくしたらしいとの噂も聞く、

  あのナイーブな祐人の事だ精神的に追い詰められて家出したとも考えられない事も無い

   


  「おーけー」

   

  そんな、複雑な思考を張り巡らせていた俺に、気の抜けた様ななんとも肩の力が抜けたような声で

  つかみどころの無い少女は肯定サインを出した。

  

  

 




  金曜日の午後、その数十分後、現在授業中・・・ふと窓を見るとぽつぽつと雨が降り始めており、

  あの時の記憶が少しつつ呼び起こされてきた。


 

  「あの時もこんな天気だったな」



  

  誰に言うでもなくつぶやくき、明日は晴れるといいなと願った。 

  

    


    

    


            ●



 

  俺はこの世界が気に入っている

 


  この世界には俺しかいない、他には何も無い



  だが、俺が欲しがっていた全てがある






  ――  俺を必要とする声 ―――



         ――― 俺を見てくれる目 ――――


    

                 ―― 俺を・・・・・・・・ ――





 

  コンコンコン






  いつもの合図で目を覚まし、いつもと同様に会話を楽しむ


 「だからその時に俺は言ってやったんだ」


  

  止まらない笑い声、終わらない幸せな時間

 

 (ウフフ、それで?それで祐君はそいつになんて言ったの?)


 

  日の指さない部屋、壁に囲まれた俺に壁の中の少女は、俺が必要とし、欲し、望む解答と会話を行ってくれる。

  彼女は俺に対して嫌がる事は絶対に言わないし、俺の話を否定しない、そう俺が望む世界を享受してくれる。




  「「何でそんな汚い物家の中にまで持ってくるんだよ」ってね」


 

  どんな話も、全ては俺にとって心地よい答えで返してくれる。

 

  究極の解答、最高の返答、普遍の相槌



 (ウフフ、それで?その後どうしたの?)


     

   

  これは俺の世界、望んでもヤツが壁になって手に入らなかった俺の本来あるべき姿

  この世界は俺が作り出した物だ、俺が彼女に告白して勝ち取ったものだ。

  幸せな時間をもうおそらく数週間繰り返している。



  「くく、それがさあ、うけるんだよ、そいつなんていったと思う?」


  いつも通りの楽しい会話、些細な質問、俺にとって都合の良い答えがいつも通り返ってくる
















  

                     (ヒドイ)



  

  はずだった。



  「・・・・・・・・・・・・・・」



  いや、そんなはずは無い、と言うかあまりに小さい声で何を言ったか聞こえなかった。

 

  

  聞き返す

  聞き返す。

  聞き返す

  聞き返す。

  聞き返す

 

  俺の聞きたい答えを聞き返す。


  「ごめん、聞こえなかった。」

    

  (ウフフ、どうしたの?私まだ祐君に何も言ってないけど?)


  どうやら俺の聞き間違いだったらしい、そうだそうさ、この世界で、俺を拒絶するものなんて誰もいないんだから

  「そんな言葉」聞こえるはずが無い



  (ウフフ、たぶんだけど、えーさいあくー、わたしそいつきらいになっちゃたーとか?)


  そうだ、そんな言葉が欲しかったんだ、相槌にもにた普遍的な当たり障りの無い回答

  ここではその答えが俺にとってはベストな答だ


  

  「いや、いやそいつったら、すぐにしゃがみこんで・・・・・・・・・・・」





  いつもの幸せな時間が過ぎていく



  誰にも邪魔されない、誰にも邪魔させない俺達だけの時間が

  さっきも、今もそしてこれからも。





  過ぎていく





                ○  



  

  「そこを左に曲がった後、直線距離にして200m信号を曲がってすぐにクリーニング屋が・・・・・無い」



   雨は結局止まず、二つの傘が路頭に迷う事になる。

  

   なぜこんな事になったのか?


   理由は簡単だ俺達は1時間前にコンビニで待ち合わせた後、予定通り祐人の家へと向かう事にしたのだが

   なにせ、前に祐人の家に行ったのは数年も前の事だ、俺達二人はうっすらとした記憶をたどりに目的地へと

   向かう事となった。



  「おい、ここさっきも通ったぞ、やっぱりそのまま直線に行くんだよ」

  

  「いやー、でもねー、そうすると、目印のクリーニング屋が・・・・・」



   どうやら、陽子は祐人の家をクリーニング屋を目印にしていたようで、そのクリーニング屋が見つからず

  PCで言う所のフリーズ状態に至ってしまったようだ。


  

   俺達は雨の中きょろきょろと周りを見渡す、周りにはいくつかの真新しいマンションと、つい最近作られたような

  コンビニが一軒、近くには十字路と脇には少し寂れた公園がひっそりと存在している。



   「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい、あれ」



   俺は公園に向かって指を指す。


   「ん?・・・・・・・・・・・・・・・・あ」


   どうやら陽子も気づいたようだ

   俺達は公園の中心にある屋根つきの遊具の下にゆっくりと向かう。



   「・・・・・・・これって・・・・・・・懐かしいね」

   

   陽子が何かを思い出すように遊具に腰掛ける


   

   「・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」


   同時に俺も同じくあの時の記憶がよみがえる。




 

  ―――   それは二つの思い出  ――――


  ―――   一つは「あの日」以前の四人が楽しく遊んでいた頃の ―――

  

  ―――   そしてもう一つは「あの日」祐人の見舞いに行った時の・・・・・ ―――

  



  「・・・・・・・・・・・・・この公園がここにあるって事は、さっきのコンビニがもしかしてクリーニング屋

   じゃないか?」



  昔の記憶と照らし合わせる、一つは当時の公園と目印だったクリーニング屋、もう一つは今目の前に

  写る古びた公園と真新しいコンビニ


  二つのビジョンは互いに重なり合い、一つの答えへといざなう



  「あ、ほんとだ、って事はあのクリーニング屋がつぶれて、コンビニがっ立ったわけかぁ、どうりで気づかないと思ったわ

   そうなると・・・・・・」



  陽子は吸い込まれるようにゆっくりと足を進める、小さかったあの頃の俺達にとっては余裕だったマンションとマンションの

  隙間を、今俺達はぎりぎりの隙間となって通っている。


  

  「べ、べつにここを通らなくても良かったんじゃないか・・・?」


 

  「まあ、そうだけど、確かここが近道・・・」



  徐々に狭くなる道、だが昔の俺達にとっては祐人の家からたまり場となっていた公園への最短ルート

  

  歩く事、数十秒大きな壁に挟まれた道を通った後、俺達は見覚えのある通りへと行き着いた。


  

  「ついた・・・・・・」



  目の前には比較的大きな家がいくつも立ち並ぶ住宅街が存在しており、懐かしい友人の家が昔の記憶と変わらない

  外装でひっそりとたたずんでいた。



  



  ピンポーン


  家の前に着き呼び鈴を鳴らす、数十秒待つが一向に応答が無い



  「いないのかな?」


  もう一度、次は陽子が呼び鈴をならした。


  

  「・・・・・・・・・・・・・留守かもな」


  俺達はあきらめて帰ろうとし、瞬間玄関の扉が開かれる。


  「ごめんなさい、どちらさ・・・・・・・・・・・・・・・・・・あなた達は・・・順君に、陽ちゃん?」

      



  「お久しぶりです、宮さん、すいません連絡も無くおしよせてしまって、和也さんがなくなったと聞いてお線香を

   あげさせてもらえればと思い訪れさせてもらいました」


   陽子が普段とは違う、とても謙虚かつしっかりとした態度で挨拶し、ここに来た事情を説明する。


   俺も陽子に付き添う形で頭をさげる。


  

  「そう、話を聞いたのね・・・・・どうぞあがって」



  「失礼します」


   宮さんに促され居間へと足を運ぶ、すぐ隣の和室にはお骨と若すぎる遺影が置かれていた。


   俺達は互いに線香を立て、黙祷、その後居間のソファーへと腰を下ろした。



   「本当に久しぶりね、二人とも大きくなって、二人ともコーヒーで大丈夫?」



   「はい、ありがとうございます」


   「俺も大丈夫です」




   俺はスティック状の砂糖とミルクを一つ入れかき混ぜる、すぐにコーヒーは白色を含んだ茶色へと色を変える



   陽子は大のコーヒー好きで、コーヒーに何かを入れるなんて邪道と言うほどのブラック好きであり

   コーヒーカップを受けると「ありがとうございます」と軽く会釈し、黒いままの液体をおいしそうに口に注いだ。  

  

   このように陽子は「仲のいい人達」の間ではおちゃらけた、もしくは少し抜けたように振舞うが、

   こう言った公共の場では、普段の彼女がかすむほどしっかり者へと変貌する。


   俺はいつもこの事に感心すると共に少し、ほんの少しではあるが無理をしているのではないかと心配したりもする。


   逆に不器用な俺にしては、陽子のような芸当は不可能なわけだ、だからこんな場でも変わらず、愛想の無い

   返答をしてしまう。




   宮さんが茶菓子を出しその後テーブルを囲む形で3人が席についた。


   


   「それにしても久しぶりね、二人ともすごく大きくなって、いつ以来かしら・・・?」


   「宮さんとは、小学校の時の卒業式以来ですから、2年ぐらいだと思います。」


   


   「それにしても二人とも大人になったわ、陽ちゃんはずいぶんと綺麗になったわね、学校では相当もてるんじゃないかしら?

    順君もこんな美人さんと一緒にいられるんだから幸せ者ね、ウフフ」


  

    陽子は多少顔を赤らめる、いまいち俺には意味がわからない。    


  

    「順君は背が伸びたわね、体格もいいし何かスポーツでもやってるの?」


    

    「いえ、今は特に何も・・・・・・・」


    

    「そう、もったいないわ、サッカーでも野球でも何かやればいいのに」



    和也さんを失ってひどく落ち込んでいると思っていたが、どうやらそこまでひどくは落ち込んではいないように見えた。

    いや、実際は落ち込んでいるのだろう、だから今は無理をして明るく振舞っているのかもしれない。


    

    

    一通りの質問を受けた後、今度は俺達も本題について聞いて見る事にした。


    「宮さん、祐人のことなんだけど・・・・・・」


    宮さんは一瞬驚いた表情を見せる。   


    俺は話題を祐人の話に移した、そう、祐人の家出の件だ。

    別に学校で陽子と話していたように本当にこの家の誰かが、祐人や今音信不通になっている省吾を監禁している

    なんて思ってはいない。

    

    

    ただ俺達は、友人として家出をしていると考えられる祐人の事を心配しているだけなのだ。

    

    まあ、省吾に限っては裏表の無いちゃらんぽらんな性格なので、ただ連絡が取れないだけ

    であるに違い無い、アレに関しては心配するだけ損と言うものだ。       

   


    「・・・・家出をしたって聞きました。」

    

    一瞬驚いた表情を見せた宮さんは、すぐにいつもと変わらない柔らかな表情に戻り、


    「・・・・・・・・・・・・そう、その話も聞いていたの」


    と静かに肯定した。


     

    「本当は、せっかく来てくれた二人に心配させたくなかったから黙っておくつもりだったんだけど、

     たぶん和君が死んだ事が原因かもしれないわ、数週間前から家には帰って無いの、ほら、だから居間も

     使うのは私だけでこんなに寂しくなっちゃったわ」



     俺は出された茶菓子をつまむと共に少し居間を見渡すが確かに、「祐人」や「宮さん以外の人物」がこの家で

    生活している様子は少しも無い、どうやら陽子の方もそれを確認したようで、祐人が本当に家出をしている事を

    理解できた。



    「とても悩んでいたんだと思うわ、祐君・・・・・和君の事でコンプレックス抱いていたみただし・・・」

    

    それだけ言うと、気まずい、と言うか重い空気が部屋中を囲む。



     さすがに俺もこの空気に耐え切れず話を変える、何か無いかと考え、

    そういえば宮さんは今現在、芸能マネージャーの仕事をしている事を思い出しその話に移す。

 

    

    「そ、そういえば宮さんマネージャーの仕事をしていたんですよね、今は誰のマネージャーをしてい

     るんです・・・・か・・・・」

   



     宮さんは、ウフフフと笑ってはいるが、どうやら今は聞いて欲しく無いと言うフインキをだしている。

        

    

     「・・・・・・・・・・・・・・」


    どうやら、また俺は空気をおかしくしてしまったらしい、確かにこんな状況で仕事の話なんてされたくは無い

    だろう。


     

     こんな状況での助け舟を出してもらおうと、隣にいるはずの陽子の方向を向く

    陽子はちらちらと気づかれない様になぜかコーヒーを持ったまま天井の方をしきりに確認しており、

    俺が見ているのに気づくとすぐに空気を読んでくれたのか話を別な話に切り替えてくれた。



    「?」



    陽子の先程の行動を少し疑問に思ったが、特に考える必要も無いだろうと思いスルーする。



    「そういえば、夜杉亜美のベスト版CDがでるんですってね、しかも枚数限定で、私あの人の

    歌が大好きなんですよ、12月24日のクリスマスイヴ発売で並んででもゲットしに行こうと思うんですけど、

    前の日から並んだ方がいいですかね?もし並ぶとしたら、やっぱし直売店の「シアーズ」がいいですか?」




    「そうね、シアーズもいつも通りならすぐ完売しちゃうけど、前の日から並べば十分手に入るはずよ」



    俺にとっては何の話だかさっぱりだが、女性二人はわいわいともりあがっている。

    まあ、さっきの空気が修復されてくれたのだから、話についていけなくても文句は無いが。


    

           

           

     まあ、色々と話をまとめるとさっきも結論したが、祐人は本当に家出をしているらしい、

    どうやら拉致監禁とか、行方不明とかは俺達の一方的な思い過ごしだったわけだ。




    そう思うと、少しでも変な疑惑をかけた俺達が恥ずかしくなった。

    

   


    そうなると謎なのは省吾の事だが、先ほども言ったが気まぐれかつテキトウな奴だ、今日の予定をすっぽかし他の予定に

    摩り替えるなんて事日常茶飯事、余計な心配だと言う事だ



    だが、まあ一応省吾の事についても聞いて見る。



    「えーと、宮さん、そういえば数日前に省吾もここに来ました?」



    女性二人の会話に割って入る、宮さんは少しの間沈黙した後



    「・・・・・来てないわ、・・・・・と言うよりは省吾君?」



   「省吾君」の後に疑問系のハテナがついている。どうやら省吾が誰なのかいまいち記憶に無いらしい。

   



    省吾よ、お前が思っている以上に宮さんはお前の事をなんとも思ってないぞ、って言うか記憶されてないぞ



    「宮さんにアプローチをかけていた、あのお調子者の事です」


        

    陽子が一応の説明をする、宮さんは数秒考えた後「あー、あの子ね」と思い出す。



    「来てないわ」


    何事も無かったかのように軽く流される。


    そうなると、ホントに省吾はどこへ行ったのか、いくつになってもお騒がせな奴だ。


    不安点が全て解決したところで、なつかしい鐘が鳴った。



    ガラーン、ガラーン





    祐人の家の居間にある大時計は夕方5時になると大きく開閉し、楽曲団の人形が演奏を行うと言う

    少し面白いつくりの時計となっている。


    幼かった俺達はその時計が面白くて、また、その鐘を帰宅の合図としていた。


    俺達二人はなつかしさのあまり、鐘がなり終わるまで時計を凝視し、数体の人形が自由気ままに踊り、

    演奏する姿を眺めていた。


    

      

    

   

    「小学校のイベントで私とは結構会っていたけど、この家に来るのは「あの日」以来かしら?」



    「・・・・・・・・・・・・・ええ」

    






  

     懐かしい記憶はいつも楽しかった物だけとは限らない




            他の人たちには何気ない記憶の一ページだったとしても

 

       

                


                   それは見る方向によって違った形相を指し示す






    ――――――    特に「あの日」の事については  ――――――――  





  

  


    

    「この鐘がなったって事は、俺達にとっては帰宅の時間と言うわけですね」


     そう、この鐘は俺達子供にとってのルールだった、鐘がなったら家に帰る。

     そんな、当時の俺達にとっては当たり前のルール。

 

     別に今の俺達がそのルールに従う必要はまったくといっていいほど無いのだが、

     なんとなく、懐かしさにしたがってそのルールに従う事にした。       


     そう、あの日と同じように、この鐘がなったら俺達はどんなに友人を心配していても

     家に帰らなくてはならないのだ。  

  



    「ごめんなさい、ちょっとしんみりとしたフインキになっちゃったわね」




    「いえ、俺も昔の事を思い出していました。」



    そういうと俺はゆっくりと立ち上がり「では失礼します」と、部屋から出る。

    それに続く様に、陽子もゆっくりとと立ち上がり玄関へと向かった。


    テーブルを見るといつもはコーヒーを一滴も残さない陽子のコーヒーカップに半分以上の

    コーヒーが残されたままだった。


    普段なら「出されたものを残すなんて出してくれた人に失礼よ」と言ってきちんと

    食べきる陽子にしては珍しい光景・・・・いやそれ以前に大好物であるコーヒー自体を残す

    行為自体不自然なわけだが。

    



    ぎしぎし、と廊下を歩き玄関に向かうその途中、陽子は唐突に階段の前で止まった。




    「宮さん、帰る前に少し祐人君と和也さんの部屋みせてもらってもいいですか?」



    どうやら、陽子の方も懐かしくなったのか、いつもの陽子らしかぬ、ぶしつけな質問を

    宮さんに行った。



    「陽子、今日はもう帰ろうぜ」


    「うん、でもちょっとだけ」




     陽子は譲ろうとしない。

    


    「ごめんなさい陽ちゃん、お葬式とかいろいろ忙しくて、二階はすごく散らかってるの、だから

     お客様に見せれる状態じゃないの」


    宮さんが丁重に断りを入れる、まあ確かに、散らかっている部屋を見せたくは無いと言うのは誰にでもある心理だ。

     

     しかし、そんな事お構いなしと言うように  


   「ちらかっててもいいですよ、少し・・・・懐かしさをかみ締めたいだけですから」

  

    陽子も決して譲ろうとはしない、というかさっきからどうも陽子は様子がおかしい

    

   「ごめんなさい、・・・・・ホントに足の踏み場も無いぐらい散らかっているの、それに二階の廊下は下の部屋を片付けた時に

    荷物が邪魔だったから全部置いちゃって、部屋に入れなくなってるのよ」


    宮さんはもう一度丁重にあやまり、二階へ行く事を拒絶する。


    「さあ、行こうぜ」

    

    「う、うん」


    陽子はしぶしぶ、玄関へと向かう。


    「気をつけて帰ってね」


    「はい、じゃあ、失礼します」


    俺はそういうと、陽子はそれに続くようにペコリと小さく頭を下げた。

    俺は、これでは来た時と逆ではないかと思い、いつもの陽子らしかぬ行動に疑問をいだく



    

    挨拶の後、ドアを閉め、ゆっくりと歩き出す。



    カツカツカツ  

    

  

      

    来た道を戻るが、今回は先ほどの狭いマンションの間を通らずに公道を通り、先ほどのコンビニの前

    にまで戻ってくる。


    陽子は何か考えているような様子だが、何を考えているのかはまったく持って予想出来ない、

    というか今日の陽子は少し様子がおかしい、そんな事もあって、俺から少し声を掛けて見る事にした。


   「宮さんの話からすると俺達の思い過ごしだったようだな、居間も宮さん以外が生活しているフインキなかったし」

      

    

   「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



    陽子は何も答えない



 

    


    俺はとりあえず話題を変えて見る事にした。  

    

   「それにしても、雨止んだな」


   



   「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さっき言ってたシアーズの話だけど、順二はどう思う?」



   1テンポ遅れて会話がつながった、というか、それはどういう質問なのかいまいちわからない、

   本当に夜中から並べば買えるのかと言う意味の質問なのだろうか?と言うか、そんな事で悩んでたのかこいつは?

   心配して損したはずなのだが、なぜか不安は完全に消えない。

   

 

   「雨?・・・あ・・・傘忘れた」


 

   これまた1テンポ遅れて応答する、旧世代パソコン 

   どうやら、考えにふけっているうちに、雨が止んでいることに気づかなかったのかもしれない、

   その点俺はちゃんと自分の傘を忘れずに持ってきている・・・・・・と言うよりは俺のは折りたたみ傘なので

   すぐにかばんの中にしまってしまっただけなのだが。



   「ごめん、ちょっととりに行ってくる、先に帰ってて」


   「おう」



   そう言うと陽子は駆け足で祐人の家へと一人で戻って行った。


   ゆっくりとゆっくりとかけていく



   「じゃあ、また学校でな」




   陽子は一瞬振り返り手を振り替えすと、夜の団地の闇に少しづつ飲まれて行く。


  


   



   その背中はまるで、その闇が彼女を食らいこのまま行かせれば二度と日常に返さないかのような

   



   そんな暗闇


  

   



   

   



                  ●





  

  さあ、今夜は何の話をしよう


  あの話か、それともこの話か



  待ちきれない、早く、早く会話がしたい




  


  コンコンコン



  急ぐ気持ちを抑えきれず、珍しく俺からノックをした。




  待つ時間も勿体無い、この頃はノックした後の反応を待つと言う行為は行わなくなった。


  なぜならそんなもの必要ないから、俺達はわかり合い、思いあっている、そしてもう邪魔するものなんていないのだから


  

  「やあ、どうだい?今日は何の話をしようか?」


  


  (えっ?!)

  

   

  壁の中の少女はなぜか驚いたような声を出す




  なぜ驚く?驚く必要なんて何も無いのに、

  これはいつもの会話だろ?

  俺達二人だけの誰にも邪魔されない

  素敵な壁に囲まれた世界


  なのに、今日はなぜ?

    


 「どうしたんだい?何かあったのかい?」



 あ、なるほど、いつも通りの挨拶だと、俺が飽きてしまうと思って

 いつもと違う事を行ったのか。


 ふふふ、やはりわかってる、彼女は俺の事を全てわかっている、うれしいなぁ  

  


  

 (・・・・・・・・・・・・・・もしかして、祐人?)



 「そうだよ、俺は井上祐人、キミと共に永遠にこの塗り固められた壁の世界で生きる存在さ」

 


  

 (何を・・・言ってるの?)

     

      

 「何を言っている?、それはこっちの台詞さ、俺を楽しませようとしてくれてるのはもうわかってるんだぜ

  その気持ちは十分受け取った、だから、もうそろそろいつもどうりの会話にもどろうぜ」



 (ちょっと・・・・ふざけないで、今の状況わかってるの?宮さん・・・あなたのお姉さんが、私や祐人、アナタを

  監禁してるのよ)



 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何を言っているのかわからない


  ・・・・・・・・・・・カンキン?何それ、宮姉が俺達をカンキンしてる?どういう事?




 「・・・・・・・・・・・・・・・よく分からないな、君が僕をいつもと違う形で楽しませてくれようとしてるのは

  もう十分わかったから・・・・もういいよ、その話は止めよう、それより・・・・・」





 (それよりじゃないわよ・・・・・・・・・・・なんか・・・祐人・・・おかしいわよ?)



 おかしい?

 

 誰が?


 祐人


 俺だ?


 何を言っている?


 どうして?どうして?


 どうして、いつもどおり俺に都合の良い、俺を楽しませる事を言わない?




 「・・・・・・・・・もう、おちょくるのはよせよ・・・・・・・」




 (・・・・・・・・・・・・・・・もしかして、長い監禁生活で気をおかしくしちゃったの?、私よ、陽子、小学校の時に

  一緒だった篠原陽子よ) 



  シノハラヨウコ?


 「だれ?それ?」

 

    

 (・・・・・・やっぱし、もうだめなのね、と言うことは、省吾も私達と同様につかまって、この家のどこかに監禁

  されてるのかも・・いや、もう既に・・・・)





 ヤッパシ、モウダメナノネ



 モウダメ?俺が?



 すなわち使えない?いらない?必要ない?

 なぜだ?なぜ今日の壁は俺にとって嫌なことばかりを言う?



 「何で、何で今日のキミは俺を拒絶するんだぁあああああああああああああああ」



 力の限り叫ぶ、こんなに叫んだのは久しぶりだ




 ダンダンダンダン、


 急いで階段を上ってくるような音が聞こえた気がする。


 だがそんな事どうでもいい



 (ひっ・・・・・・・・とりあえず、とりあえず落ち着いて祐人、とにかくここから出る手段を考えましょう)




 ここからでる?



 どうして、どうしてこんな幸せだった世界から出るなんて事言うのか?



 俺達は約束したじゃないか、一生ここにいよう、愛してると


 そう、おれは愛の言葉を言った、君はそれに答えてくれた、それがなぜそんな事を言うんだ

  

 この世界を出るなんて、それでは俺達がした永遠の約束を破る事になる。





 それは不倫で背徳で裏切りだ。




 「ここから出る?何でそんな事言うんだよ!!!!!!!!!!!!!!????????

  俺達は誓い合っただろう!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????

  一生ここにいるって????????????????!!!!!!!!!!!!!!!!!!

  それをなぜえええええええええええええええええええええええええええええええ」








  どうして今日のキミは俺の嫌がる事を言う?


  どうして今日のキミは俺だけを見ようとしない?


  どうして今日のキミは俺と壁の中の少女との永遠の約束を破ろうとする?




 (・・・・・誰と?、誰と誓ったの?前にもここに人がいたの?!)



 前に人?



 

 


 

 


 

 ―――  ・・・・・だから、まあ、なんていうの、話をしてくれて・・・・・・ありがとう・・・・・ごめ、忘れて

      ・・・やっぱ今の無し    ――――



  誰かが言った、俺に本当の本当の誠意を持って、嘘偽りの無い俺に向けた感謝の言葉





  塗り固められた記憶の壁の中、一筋の光となってその記憶は俺に降り注ぐ




 「だ、だれって・・・・君、君とじゃないか、決まってるじゃないか、な、何をいってるんだよ」




 



 ―――   おそいわよ、大丈夫ならもっと早く合図しなさいよ  ―――



 



 楽しかった記憶、対等に話した記憶、本当の意味で「同じ境遇だと信じた少女」が俺だけを心のよりどころにして

 見てくれていた唯一の時間

 




 (・・・・・・・・・・・・・時間がたちすぎたのね・・・いいわ、あなたはここにいなさい、私一人でここから出て

  全てを警察に話して、その後、あなたをここから出してあげる)



 あなたはここにいなさい?


 私一人で?









 ――  私が出たら、すぐに祐人、あなたも助けてあげる、そして憎き、アイツを警察に放り出してやるの ――



                 誰かが言った一言が胸に突き刺さる




                       だが









 君は出て行くと言う、だが出て行ってしまったら、俺を見てくれる人はいなくなる、 


 すなわち、俺を置いていくということは、俺はもう必要ないということだ


 そして、俺を肯定し、俺が望んだ俺のためのこの壁の世界も崩壊する 




 この世界が壊れる、俺を見てくれる人もいない、思ってくれる人もいない、いないいないいない

   

  

 そんなの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌だ




 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁああああああああああああああああああああ」





 ガンガンガンガン



 壁に向かって全力でたたきつける


 


 しかも今回は




        ―――   祐人、さあ、逃げるわよ!!  ――――





 俺を誘いもしない、それほど俺は必要とされていない、見られていないと言う事だ


  

 

 「嫌だ嫌だ、俺を俺を見続けろよおおおおおおおおおおおおおおおおお、出て行くなんていうなぁよおおおおお

  俺だけを見てくれよ、俺のそばにいてくれよおおおおおおおおおおおおおおお、俺は君が必要なんだよおおおおおお

  おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」





 力の限り叫ぶ


 声がかれはてたってかまわない


 自分の思いをただぶつけるだけ




 (ジャア、ナンデワタシヲツキオトシタリシタノ?)




 「えっ?!」


  唐突に聞こえてきた声






             何でワタシを×××××××したの?






 わからない、何を言った?だが、頭では理解していなくても口からなぜか弁明の言葉がでる。



 「俺は、俺はそんな事してない・・・・・・・・・・・」

 


 (どうしたの?どうしていきなり静かになったの?祐人?大丈夫?)




 「俺は、俺は躓いた君を助けようとして手を出して・・・・」



 (テヲ「ツキ」ダシテ、ドウシタノ?)



 「違う突き出したんじゃない、押したんじゃない」



 (祐人?誰と話してるの?祐人?)



 「違う、俺は助けようとしただから手が伸びていたんだ・・・・」



 (ウソ、ウソ、ウソウソウソ、ソレハ)







 ―――――               ウソ           ―――――――――





 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘、嘘なんかじゃない」



 (祐人?祐人?)


  

 「俺はいつも本当の事しか見てないし考えてない・・言ってもいない」



 (ソレモウソ、ウソウソウソ)



 「違う」


 (落ち着いて祐人!!)


 「違う!!」


 (チガワナイ、アナタハ、ワタシヲ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)





 ――――――    コロシタ     ――――――




 「殺して・・・・無い」



 (何・・・殺しって何の話?)



 「殺して・・・・無いんだ・・・・・」



 (ソレホドシテモマモリタカッタンデショ?アナタノシアワセナジカンヲ?アナタダケヲミテクレルソンザイヲ)


 「ううううう、欲しいんだよ、俺を見て欲しいんだ、ダメかよぉおおおおおおおおおおお」



 そうだ、俺は俺だけを見てくれる存在を欲していたんだ。



 自らを肯定する、その瞬間今まで否定を繰り返していたその声も・・・



 (ダメジャナイ)



 俺を肯定した。

 「えっ?」

 

 (祐人、えっ?!、ちょっと何をするのよ、ヤメ、く、くるしい、はなして・・・・・・・・・・・い、いやぁ・・)


  バタン、人一人が倒れる音が聞こえた気がした



  

 (ダメじゃないわ、あなたはあなたの世界を守りたかったのでしょ?例え私が死んだとしても、いいのよ、

  それであなたの世界が保たれるなら私は喜んで犠牲になりましょう)

  



  彼女は・・俺を許してくれたのか?



  「俺を・・・・・・許してくれるのか?」



  「祐君?祐君、大丈夫?」


  扉の外から誰かの声が聞こえる


  だが、もうそんなものどうだっていい



  (許す?何を言っているの?あなたは何も悪い事はしてないわ、ウソよ、ウソ、アナタは私を押してなんかいない

   もしかして本当に自分が私を殺した・・・なんて思っちゃった?まさか、あなたにそんな度胸無いでしょ、

   じゃあなんでそんな事言ったかって?私はアナタを試していたのよ、アナタが本当に欲したものは何なのか、

   望むものは何なのかをね、極端に追い詰められた状況での本心が聞きたかったの、でも・・・これで安心したわ)






   ―――  アナタはあなただけを見てくれる存在を欲した  ―――

  




   ―――  そしてその願いを叶えられるのは私だけ     ―――  

     




        アナタの望みを叶えれるのは私だけ



                だから



        あなたはアナタの願いを叶え続けるためこの壁の世界わたしを捨てる事をしない

        

        タトエ、モウソノスガタガソンザイシナクテモ

        タトエ、ナンニンモノギセイヲフヤシタトシテモ


                 

        アナタは私を求め続ける、そして求め続ける限り私はアナタの世界で存在する事ができる。

  

   




   だから・・・・・・・・・・・・・・安心した


   

   自分のことを許してもらえる、認めてもらえる存在がいる事(作る事)で
















   私(俺)を安心させた。

 

  

  

  

  そして、思った、この世界を絶対に壊したくないっと


  彼女以外に俺は何も要らないと 



  だから俺は俺と彼女以外の全てに壁を作る。  

   


  ガチャ、扉が開く音が聞こえたような気がする。



  「祐君、祐君大丈夫、祐君?」



  誰かが俺の肩をもって揺さぶっている、顔を見るが思い出せない、まるでその顔が何か泥でも塗り固められた壁である

  かのように認識できない。



   


  (さあ・・・・私の近くにおいで、私が暖めてあげる、もっと安心させてあげる)



  壁から手が生えている様に見えた、灰色の手だ。

  

  その手は俺をやさしく包み込み、俺は壁に寄り添うようにし語りかける。


  「暖かいよ、もう離れない、この世界は僕らだけの物だ」


  「祐君目を覚まして、祐君」


   なんだかうるさいものがまわりにいる、


  「あんた、もしかして俺達の邪魔をするの?」


  俺はそいつに確かな悪意をもって接する。

 

  答えようによっては・・・・邪魔をするのならソイツも



  「祐君・・・私は・・・私は・・・・」




  そうか、こいつも俺達の邪魔をするのか


  だったら・・・・・・・



  俺はそいつの首元に手をかける、そして力を入れる



  グググググ



  「あ、あ、あ、ゆ、ゆうく・・・ん」



  もう一歩そう思った瞬間





  (だめよ、そいつは殺しちゃダメ、そいつを殺しちゃたら、食事はどうするの?生きているあなた

   には食事が必要でしょ、そいつは生かしておかなきゃ)


  壁の少女が優しく俺に語り掛けた



  「たしかにそうだね、それにたぶんコイツは俺達の邪魔はしないし」



  俺は壁少女と意思疎通をとり、手を離した、バタンといってそれは倒れる



  

  「ゴホ、ゴホ、ゆ、ゆうくん・・・・」



   

  無視




  そんな事より、さあ、ゆっくりと二人だけで話し合おう、今度こそ邪魔者はいない、もしいたら

  ・・・・・・・・・・その時は



  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

  


  俺は無言のまま、また壁に寄り添い、目を閉じゆっくりと暖かな灰色に塗られた壁とキスを交わした。











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