違和感
橘さん宅には、彼女の他には優香ちゃんしかいなかった。夕飯を食べ終えた後だったようで、満腹だったことが影響してか、優香ちゃんはリビングのソファで眠ってしまっていた。
橘さんは優香ちゃんにタオルケットをかけてあげていた。
「そう言えばあんた、夕飯は食べたの?」
「え、ああ……そう言えばまだだ」
「そう。じゃあ、後で食べなよ」
「ありがとう」
友人宅で食事をするというのに、随分とスムーズに話が進んだ。
橘さんとのこうしたやり取りも、最早珍しいものでもなくなった。一体、どれだけ彼女に救われてきたか。こうした一幕を見ても、見て取れて仕方がない。
俺は橘さんの後に続いて、彼女の部屋に入った。
この前と同様、整理整頓された部屋。
唯一見つけた変化点は、本棚の中身。自己啓発本。少女漫画。小説。バラエティに富んだ橘さんの本棚に、目新しいエリアが形成されていた。
そこには、新聞や情報雑誌などが並んでいた。恐らく、あれが彼女がさっき言っていた、バス事故に関する資料なのだろう。
「読んでいい?」
「当たり前」
あそこに、バス事故の真実がある。
俺は生唾を飲み込んで、本棚に近寄った。
橘さんの用意した資料は、本当にバラエティに富んでいた。
誰もが見たこともあるような情報雑誌から、デマ情報を流すことで有名な新聞。勿論、正統派の有名企業の新聞、雑誌はおおよそそこに保管されていた。
「よく、これだけ集めたね」
「色んな視野から情報を集めないと、何が正しいかなんてわからないでしょ」
「そうじゃなくて、財布は大丈夫?」
「……あー。まあ。バイトして返すことにしたから」
「バイト?」
「そう。萌奈美姉の古書店で。所謂、縁故採用」
淡々と驚き発言を繰り返す橘さんに、俺は呆気に取られていた。
「誰かさんの無断欠勤、ちゃんとフォローしておいたから。来週、一緒に謝りに行くよ」
「……はい」
橘さんに言われて、俺は今更古書店のバイトを二週間の間サボってしまったことに気付いた。
確かにそれは、謝罪案件だ。
隣に橘さんがいてくれるのは、話もスムーズに進むだろうし助かる限りだ。
「さ、とにかく読んで」
橘さんの声で、俺はここにいる理由を思い出した。
橘さんの用意した資料を、俺はしばらく読み耽った。おおよそ一時間後、俺はざっとそれらを読み終えた。
「……どう?」
橘さんに問われた。
「……やっぱり」
橘さんのおかげで、一つの答えが見えた気がした。
でも、それは直前までの話と食い違いがあり……どうも俺は、釈然としなかった。
「やっぱり、このバス事故……○○製作所は無関係なんじゃないかって思う」
弁明しておくなら、自分の身可愛さでそうした結論を俺が出したわけではない。
ただ、これらの資料を読み耽った結果、俺が勤めた企業以上に疑わざるを得ない部分があっただけだ。
「このバス事故は、△△重工の設計ミスにより起きたんじゃないだろうか?」
……言い切ってから、俺は橘さんを見据えた。
正直、俺はこれらの資料を完全に理解し、読み進めたわけではない。掻い摘んで読んだ結果、そうした結論を出したに過ぎない。
橘さんは、どう思っているのか?
俺よりもこれらを読み耽り、恐らく何かの結論を出したらしい橘さんは。
橘さんは……、
「あたしも、そう思う」
俺の話に頷きながら、静かに答えた。
短い!ごめん!
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