二人と、竜と、剣と、幸せと
いよいよ最終回です。
「ナディア……ただいま」
目の前で小さな女の子と一緒にいるナディアに向かって、僕は静かに告げる。
だけど……うん、ナディアだ。
僕の世界一大好きな女性、ナディア=ジェステだ。
すると。
「イヴァン!」
ナディアが僕の胸に飛び込んできた。
「イヴァン! イヴァン! イヴァン! イヴァン! イヴァン!」
「ナディア……逢いたかった……!」
何度も僕の名を呼ぶナディアを強く抱きしめ、そうささやく。
ああ……久しぶりの、ナディアの匂いだ……。
「よかった……イヴァンが、生きていてくれた……!」
「はい……僕は生きています……僕は、あなたと幸せになるために……」
そうやって、泣きじゃくるナディアとしばらく抱き合っていると。
「むうううう! イヴァン! 妾というものがありながら、その女子は誰じゃ! 浮気か!? 浮気なのか!?」
「エル!? 人聞きの悪いこと言わないでくれる!? ……って、ハッ!?」
ナディアから凄まじい殺気を感じ、僕はおそるおそる彼女を覗き込むと……。
「……イヴァン、どういうことか説明してくださいますか?」
「あ……はい……」
と、とにかく、ちゃんと説明しないと、せっかく生きて戻って来たのにここで死ぬことになってしま……「ああああああああ!?」……って、え……?
見ると、ナディアが連れていた小さな女の子が、こちらを指差しながら叫んだ。
「え、ええと……ナディア、あの女の子は誰ですか……?」
「あ、はい。ティソーナです」
「へ……?」
彼女の言葉に、僕は思わず呆けた声を漏らした。
え? え? ティソーナって、剣だったはずじゃ……。
「それよりもイヴァン。あなたこそ、その女の子はどうしたのですか……?」
「えーと……話せば長く……「ど、どうしてアンタがナディアの彼氏といるのよ! しかも、その人間の格好は何!?」」
僕の言葉を遮るように、女の子は捲し立てるように隣のエルに問い詰める。
「なんじゃ、それを言うなら貴様もじゃろう。妾はイヴァンと結ばれたのじゃから、伴侶に合わせてやるのが優しさじゃろうて」
「だから誤解するような言い方をするなよ!」
得意げに女の子に語るエルを、僕はすかさず止めた。
「……イヴァン?」
「はい……」
このままじゃ埒が明かないと感じた僕は、とりあえず言い合いをしているエルと女の子を無視し、ナディアに事情を説明する。
夢の中では、実はナディアを救うところまでしか結末を見出すことができず、僕は毎回エレンスゲに食い殺される結果にしかならなかった。
それが、いよいよ最後の守護者という時の、カルロスに負わされた火傷で眠りについた際、土壇場で僕も迷宮を脱出する結末を手に入れることができたんだ。
その方法というのが、エレンスゲと盟約を結ぶこと。
どうしてその方法を見出せたかというと、夢の中でエレンスゲ自身が叫んだんだ。
『もう、破壊だけの日々は嫌だ』
と。
なので、一か八か僕はエレンスゲと対話をしてみることにした。
するとどうだろう、エレンスゲは僕の言葉に耳を傾け、受け入れてくれたじゃないか。
そして、これからの人生……いや、竜だから竜生か。それを僕と共に歩むと。
なので、僕はエレンスゲ……エルと、盟約を結んだ。
これからは、ただこの世界を謳歌する、と。
「……そして、僕とエルは迷宮を出てこの世界に戻って来たんです」
「そう、だったんですね……」
僕の説明を聞き終え、ナディアがようやく理解してくれた。
「僕も、盟約を結ぶ時にエルにはちゃんとナディアのことも話したんですが……あの時のエル、浮かれていたので聞き逃したのかもしれません……」
「そうですか……まあ、エレンスゲ……エルさんも子どもですから仕方ないですね」
そう言うと、ナディアがクスリ、と微笑んだ。
「あ――――――! 貴様! 妾のイヴァンから離れろ!」
「何言ってんのよ! この男はナディアの彼氏なの!」
「ふふ……面白いことを言いますね、エルさんは」
う、うわあ……まさか、こんな面倒なことになるだなんて思ってもみなかった……。
と、とにかく!
「「あっ」」
「ナディア! 一緒に逃げましょう!」
「あ……ふふ! はい!」
僕はナディアの手を取り、このカルリトスの街を駆ける。
振り向けば、愛するナディアが笑顔で僕を見つめてくれている。
追いかけてくるエルとティソーナも、どこか楽しげだ。
もう夢を見ることもないため、あの絶望の迷宮を乗り越えた僕達の未来がどうなるのか、それは分からない。
だけど……これだけは分かる。
――僕は、この世界一大好きなナディアと共に、これからも幸せに歩いて行くのだと。
◇
アストリア帝国で月食があった日から三日後。
時の皇帝、“残酷帝”フルエラ=デ=アストリアが崩御した。
死因については、未だ明かされていない。
だが、帝都の者達は口を揃えて言う。
――その日、帝都の夜空に、巨大な竜の上に立つ、一振りの剣を携えた男女の姿を見た、と。
お読みいただき、ありがとうございました!
この物語はこれにて一旦終了となります。
一応、この後も迷宮の謎、エレンスゲ封印の理由、ティソーナ誕生秘話、そして次の予知夢へと、構想自体はいくらでもあるので、気が向いたら続きを書くかもしれません。
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
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