最悪の盗賊とその末路
「やあ、カルロス。君の相手は、この僕だよ」
僕はカルロスの前に立ち、不敵な笑みを浮かべながらそう告げる。
「ん? なんでテメエが俺の名前を知ってやがるんだ? ……って、まあそりゃそうか。一応俺も、この国じゃ有名人だもんな」
そう言って、ヘラヘラと嗤いながらカルロスは頭を掻いた。
「ああ、僕はオマエのことをよく知っているよ。何せ、僕とオマエはもう何百回と遭っているからね」
はは……そうとも。
そして僕はそのたびに、ナディアをメチャクチャにされた怒りで気が狂いそうだったよ。
一対一でならオマエを確実に倒せるようになったのだって、ほんの一年前だったんだから。
「それにしても……現実のオマエは、腐臭はしないんだな?」
「っ!? ……オイ、それはどういう意味だ?」
「分からないか? エルダーリッチのカルロス」
僕はカルロスの正体を晒し、口の端を持ち上げた。
はは、カルロスの奴、ヘラヘラしていたくせに急に真面目な顔になったよ。
とはいえ、それも作り物の顔だけどね。
「……テメエ、一体何者だ?」
「僕? 僕はただの帝立学院の卒業生だよ。オマエと同じ“迷宮刑”に処せられた、ね」
まあ、カルロスと違う点を挙げるとすれば、僕は人間で、カルロスは魔物だということ。
それと、カルロスの場合は望んで迷宮に堕ちたというところかな。
「そんなことより、僕はオマエをすぐに倒して、ナディアの加勢に行かないといけないんだ。ここで無駄話をしている暇はないんだよ」
「へえ……やけに強気だな? ひょっとして、さっきの珍しい魔法が使えるからって、調子こいてんじゃねえのか?」
「だったらどうするんだ?」
「ヘッ! 決まってる! 勘違いしたガキに、絶望を味わわせてやるんだよ! つーことでオッサン! その女は殺すな! この俺が、直々に壊してやるからよ!」
「……やれやれ、しょうがない奴だ」
カルロスの言葉に、グレイマンが苦笑しながらかぶりを振った。
つまりグレイマンは、ナディアを生け捕りにすることに了承したわけだ。
はは、僕の思いどおりになった。
カルロスはエルダーリッチで帝国内では最強の魔法使いではあるけれど、短気で馬鹿なとろころがあるから扱いやすい。
それに、カルロスは人を壊れるまでいたぶる趣味の持ち主だからね。
これで少なくとも、今はまだナディアが殺されてしまうことはない。
「んじゃ、始めるとすっか。ええと? テメエが使った魔法ってのはこれでいいんだっけ?」
「っ!?」
カルロスは、いとも簡単に僕の合成魔法、【ハープーン】を使う。
……本当に、この男は人真似が得意だな。
「それじゃ、テメエは自分の魔法でくたばりやがれ」
そう言うと、カルロスの【ハープーン】が僕目がけて放たれた。
さて……【ハープーン】自体を防ぐことは簡単だけど、そうするとカルロスにも僕の防御魔法を真似されてしまう。
となると。
「【ミルユニット】!」
僕は前面に大量の【ミルユニット】を設置し、【ハープーン】に備える。
確かに防御面ではほぼ期待できないけど、それでも僕なら半永久的に【ミルユニット】を生成できるし、何よりこの合成魔法はカルロスにも見せており、模写されても一切困らない。
「おー、さっき俺達を妨害しやがった魔法か。だがこれじゃ、【ハープーン】の威力に耐えられねえだろ。テメエ、馬鹿か?」
「…………………………」
カルロスの言葉を無視し、僕は【ミルユニット】を生成しながら、その裏で次の合成魔法に取りかかる。
夢の中でカルロスを仕留めた、この魔法を。
これが二対一だった時は、その準備をしていてもグレイマンに看破されてしまい、防がれてしまった。
でも今は、【ミルユニット】の陰で行っている僕の動きに気づいている者はいない。
そして。
――ドオオオオオオオオオオオンンン……ッッッ!
「グウッ!?」
カルロスが放った【ハープーン】の爆風とその熱量により、展開していた【ミルユニット】が全て破壊され、その陰にいた僕も被害を受ける。
だけど……今、だ……っ!
「ハハハハハ! どうしたよ? あれだけ威勢のいいこと言っときながら、くたばっちまったのかあ…………………………は?」
――ドン。
あまりの弾速に、カルロスの腹がはじけ飛んで上半身が宙を舞った直後に、凄まじい発射音が遅れて通路に響いた。
――合成魔法、【レールガン】。
土属性魔法で強固に圧縮した金属の円筒に、雷属性魔法を螺旋状に通電させ、同じくその速度に耐えうるよう、土属性魔法で圧縮に圧縮を重ねて生成した弾丸を超々高速で射出する。
この魔法こそが僕の切り札だけど、弾丸と円筒の生成にはかなりの時間を要する。
弾丸に関しては、最低女を倒してからずっと圧縮を繰り返してきたから、何とか用意が間に合った。
円筒に関しては発射されるまで保てればよかったから、発射後に壊れても問題はない。
ただ……カルロスに【リアクティブアーマー】を使われたくなかったから、【ハープーン】によってかなり火傷を負ってしまった。
そうじゃないと、僕の渾身の【レールガン】が防がれてしまったから、仕方ない。
僕は痛む身体を無理やり起こし、ゆっくりとカルロスの上半身の転がるところへと向かう。
「ウ……グ……チキ、ショウ……ッ」
人間の仮面が外れたカルロスが、その骸骨の顎をカタカタと震わせながら、怨嗟の声を漏らしていた。
「黙れよ。オマエだってこれまで、散々いたぶってきたんだろう? 大人しく死んでろ」
――グシャ。
そんな最悪の盗賊は、僕に右脚で踏みつぶされて最後を迎えた。
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