最悪の二人
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「ふう……ナディア、そちらはどうですか?」
「はい、こちらも片づきました」
第十四階層に降りた僕達は、早速現れた魔物、ケルベロスの群れを撃退した。
さすがに最下層直前の階層だけあって、出現する魔物の強さも桁違いだ。
「イヴァン……今も戦ってみて思いましたが、第一階層の守護者であるザドキエルって、このケルベロス一体の足元にも及ばない強さですよね……」
「ええ……」
それを考えると、守護者の配置のバランスがおかしいように感じる。
これは夢の中でも感じていたけど、まるでこの迷宮への侵入者の成長に合わせているかのような、そんな印象を受ける。
まるで、試練を与えられているかのように。
「まあ、今はそれを考えていても始まりません。とにかく、僕達は守護者のいる部屋へ急ぎましょう」
「はい!」
僕とナディアは、第十四階層を突き進む。
途中現れた魔物達を蹴散らしながら。
「ふふ、スケルトンドラゴンを見ると、逆に安心してしまいますね」
そのスケルトンドラゴンを召喚獣で粉々にしながら、ナディアがクスリ、と笑った。
あはは……本当に、迷宮を進むうちにナディアがここまで成長するとは思わなかった。
彼女は劇的な成長を見せ、とうとう最上級魔獣六体全ての召喚ばかりか、神級魔獣の三体すらも召喚するに至った。
はっきり言って、彼女の才能は想像以上だった。
僕が彼女の才能を褒め称えると。
『それは、イヴァンがいてくださるからです。あなたがいるから、私はどこまでも強くなれる』
微笑みながらそう言ってくれた時、僕は嬉しさのあまり、思わず泣きながら彼女を抱きしめてしまったなあ……。
「? どうしたのですか?」
「え? あ、ああいえ、少し物思いにふけってしまいました……」
「ふふ、そうですか」
僕が苦笑しながら頭を掻くと、ナディアもクスクスと微笑む。
そんな僕と彼女の間にある空気感が、とても心地良くて……。
だけど。
「お、あんなところに人がいやがるぞ?」
「……そうですな」
「「っ!?」」
ああ……嫌な予感が的中してしまった。
僕が絶対に出遭いたくなかった、最低最悪の連中。
“ブリガンティ盗賊団”の首領、“カルロス”。
そして……アストリア帝国最低最悪の殺人狂。
――“満月の屠殺人”、“アルベルト=グレイマン”。
「っ! 【ミルユニット】!」
僕はすぐさま大量の【ミルユニット】で通路を塞ぐと。
「ナディア! 逃げるぞ!」
「は、はい!」
彼女の手を取り、その場から全力で駆け出した。
途中、【ランドマイン】や【クレイモア】などの罠を仕掛けつつ、通路の行き止まりにたどり着いたところで、僕はようやく息を吐いた。
「ハア……ハア……あれが、イヴァンの言っていた……」
「はい……」
僕が夢の中で、絶対に遭いたくなかった人物。
まず、カルロスについてはアストリア帝国のみならず、周辺国にも名を轟かせる盗賊団の首領。
その盗賊団のやり口は非道で、襲撃された街や村は、ただ一人として生存者がいない。
しかもあの男、魔法に関してはアストリア帝国随一の使い手で、襲った住民を魔法の実験台にしてきている。
それもそのはず。
だって、正体はエルダーリッチ……つまり、既に人間ではないのだから。
そして、もう一人の男のアルベルト=グレイマンは、帝国の歴史上最も人を殺し、全てを平らげている。
その数、三千人。
それもそのはず。
この男もまた、人間をやめているのだから。
「それで……どうしますか?」
「もちろんこのまま逃げ続けていても、僕達が不利になるだけです。だから……」
僕は、通路の先に向けて両手をかざす。
「ここで、終わらせる」
その言葉と共に、僕は五発の【ハープーン】を射出した。
通路の奥に姿を現した、あの二人へと向けて。
「おおー! なんかよく分かんねえけど、すげえ魔法だなオイ!」
嬉々とした様子で叫ぶカルロス。
まあ、魔法狂いのオマエなら、そんな反応を示すと思っていたよ。
「ふむ……この魔法の味はどうかな……?」
貴族のような出で立ちの男……グレイマンが一歩前に出ると。
「っ!?」
その口を巨大化させ、五発の【ハープーン】を一気に口の中へと収めた。
それを見たナディアは、あまりの光景に声を失う。
はは……さすがは最上級魔族、“アドバン”へとその身を進化させただけのことはある。
あの巨大な口は、全てのものを飲み込んでしまうからな。
さて……どうする?
正直、僕は夢の中で二人同時に相手取って、倒したことが一度もない。
つまり、ここから先は僕にとって未知の領域だ。
だけど……それは向こう側も同じこと。
それに、もう覚悟は決めてある。
「ナディア……あのグレイマンをお願いできますか?」
「もちろんです。イヴァンもあの軽口の目障りな男に、思い知らせてあげてください」
そう……夢の中ではなかった、この迷宮で完全に開花した、ナディアの召喚術がある。
僕も相手が一人なら、確実に倒せる。
「ナディア……」
「イヴァン……生きて、私達の未来を」
僕とナディアは、互いの手を合わせた後。
「「っ!」」
それぞれの、戦いを始めた。




