共に、迷宮のその先へ
「ナディア……」
僕とナディアは、お互いの想いを確かめ合った後、ただ、求め合った。
何度も、それこそ全ての想いを重ね合いながら。
そして今、彼女は僕の腕の中で眠っている。
愛しい……誰よりも愛しい、僕のナディアが。
「すう……すう……」
あはは……本当に、彼女は誰よりも愛おしい。
今も僕に、こんなにも無防備な寝顔を見せてくれている。
そんな彼女の頬に、そっと触れると。
「んう……あ……」
……どうやら、彼女を起こしてしまったようだ。
「すいません……起こすつもりはなかったのですが……」
「ふふ……目を開けたら、そこに世界一大好きな人がいるというのは、こんなにも幸せなことなのですね……」
そう言ってニコリ、と微笑んだナディアは、ゆっくりと顔を近づける。
「ん……ちゅ……」
そして、僕におはようの口づけをしてくれた。
昨日は、あんなにたくさん口づけを交わしたのに、今もまた、その唇の感触で僕の胸は彼女への想いで一杯になる。
「ナディア……」
「ん……ちゅ、ちゅく……ぷあ」
しばらく僕は、ナディアの唇を堪能すると。
「ナディア……これからのこと……僕が夢の中で経験したこと、あなたにお話ししておきますね」
「は、はい……」
僕は、夢の中でどうやって迷宮を攻略したか、その全ての道筋について語った。
もちろん詳細を伝えても理解してもらえないと思うので、要点だけかいつまんで。
「で、では……!」
「はい……夢の中で僕はこの迷宮の攻略に成功し、ナディアは無事にここから脱出しています」
説明を聞き終え、ナディアが希望に満ち溢れた笑顔を見せてくれた。
「ふふ! イヴァン! イヴァン!」
「ナディア……!」
胸の中に飛び込み、嬉しそうに頬ずりするナディアを、僕は抱きしめる。
このナディアの温もりを、その最後の時まで忘れないように。
「そうと決まれば、早く次の階層へ進みましょう! 特に、あなたの言うその連中に追いつかれるわけにはいきませんから!」
「ええ!」
僕は二人の一か月分の食糧が入った荷物を持ち、ナディアの手を握る。
「さあ……では、まいりましょう!」
「ふふ! はい!」
そうして、僕達は次の階層へと繋がる階段に、一歩足を踏み入れた。
◇
それから僕達は、順調に迷宮を攻略していく。
エミリオや取り巻き達、最低女、令嬢達と、僕とナディアの邪魔をする者はいない。
加えて、皇帝が放ったであろう犯罪者達に追いつかれないよう、僕達が最短距離を進んでいることも奏功している。
おかげで、既に第五階層までたどり着いたけど、後発の犯罪者達には遭遇していない。
ということで。
「ふふ! 見てくださいイヴァン! 泉があります!」
第五階層の中央に設置されている泉を見て、ナディアがはしゃぐ。
前回の第二階層にある井戸で補給して以来、三日ぶりだから本当にありがたい。
「ナディア、ここの水は豊富ですし、せっかくですから水浴びをしてはどうですか? その間、僕は隣の部屋にいますので」
「あ……で、でしたら、一緒に水浴びをしませんか……?」
顔を真っ赤にしながら、おずおずとそう提案するナディア。
もちろん、僕に否やはない。
「その……いいんですか?」
とはいえ、そこはちゃんと確認をしておいたほうがいい。
僕は念のため、ナディアに問いかけると。
「はい……」
ナディアがゆっくりと頷く。
ということで。
「ふふ……やっぱり、少し恥ずかしいですね……」
「そうですね……」
僕とナディアは、身体を寄せ合いながら、一緒に泉に浸かっていた。
この泉の水で清められたナディアのその藍色の髪や透き通るような白い肌が、水滴によって輝き、まるで水の女神のように僕の瞳に映っていた。
「あ……あまりそのように見られると、その……」
「すいません……ですが、ナディアがあまりにも綺麗だから……」
「そ、そうですか……」
そう言って、恥ずかしそうに僕の胸に顔をうずめるナディア。
そんな仕草も表情も、その全てが愛おしくて……。
「ん……あん……ふふ、もう……」
「ナディア……」
僕とナディアは、この束の間のひと時を、互いに貪るように求め合った。
◇
「これで終わりだ。【ハープーン】」
エテルナの迷宮、第十三階層の守護者、“ガブリエル”に向け、僕は土属性魔法で生成した細長い円筒を四つ展開し、一斉に射出した。
【ハープーン】が床を這うように高速で進むと、宙に浮かぶガブリエルの下に到達した途端、機首を上に向け、急上昇した。
「ッ!?」
突然の動きに対応できないガブリエルに、【ハープーン】が全弾命中し、その身体を爆散させた。
「イヴァン! やりました!」
「はい!」
僕は満面の笑顔のナディアとハイタッチを交わす。
さあ……残すはあと二つ。
といっても、第十四階層を抜ければ、あとは最下層にある“ティソーナ”を祀った祭壇へ向かうだけ。
何より、最下層は階段から祭壇まで一本道だし、途中、魔物も守護者もいない。
だから、僕達は次の第十四階層にだけ注力すればいい。
あとは。
「……あの連中に、追いつかれさえしなければ」
ここまで僕達は、最短距離で迷宮を攻略している。
それを踏まえれば、僕達とあの連中とは、都合三日のアドバンテージがあるはずだ。
ただし、夢の中と同じならば……って。
「イヴァン……」
気づくと、ナディアが心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
ああ……全く、僕のこの顔に出やすいところ、何とかならないかなあ……。
「大丈夫ですよナディア。僕達が順調であることは保証します」
「私が心配しているのは、そんなことではありません」
彼女を安心させるためにそう告げたのに、少し怒りながらナディアが否定した。
「私は、あなたが一人で抱えてしまっていることを心配しているんです。私は、そんなに頼りないですか?」
「あ……」
そう、か……。
僕はまた、間違えてしまったみたいだ。
「……いいえ、僕はあなたのことを誰よりも信頼しています。それは間違いありません」
「でしたら! ……でしたら、もっと私に素直に頼ってください」
「はい……」
僕はナディアを抱き寄せ、その頬に謝罪の口づけをした。
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