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向き不向き

 無事に入学式を終え、僕達はそれぞれのクラスへと向かう。


 なお、僕とナディアは同じBクラスで、彼女の婚約者であるドナト=ハイメスはAクラスだ。

 これは、皇族をはじめ高位貴族の子息令嬢と、それ以外とを区別するためのもの。


 僕は伯爵家なのでギリギリBクラスというわけなんだけど、そのおかげでナディアと同じクラスになれるのだからむしろ最高の気分だ。

 それに……彼女がドナトの奴から離れられたのが、何よりも嬉しい。


 だって。


「ドナト様、では失礼いたします」

「フン」


 あのドナトという男は、尊大で、傲慢で、ナディアをずっと()のように扱っているから。

 彼女の実家、ジェステ子爵家がハイメス辺境伯家の傘下にある()で、逆らうことができないのをいいことに。


 そんなドナトをジッと睨みつけていると。


「あ……」


 ナディアが僕の視線に気づいたみたいだ。


「……変なところを見られてしまいましたね」

「い、いえ……それよりも、今日から同じクラスですので、どうかよろしくお願いします」


 暗い表情の彼女に気を遣わせまいと、僕は話題を逸らすためにそんな挨拶をした。


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 そう言って、彼女は深々とお辞儀をする。

 その姿がとても控えめで、皇太子の婚約者であるカリナ令嬢と比べれば華がない(・・・・)と思う者もいるかもしれない。

 これから皇太子やその取り巻き、もちろんドナトを含め、多くの子息が心を奪われることになるアリア令嬢と比べれば、可憐さがないという者もいるかもしれない。


 でも、僕は……僕だけは知っている。

 君は、そんな着飾った美しさなんかじゃなくて、もっと心の強さと優しさを(たた)えた、本当の美しさを持った女性(ひと)だということを。


「あ……そ、その、どうなさいました?」

「え? あ、ああいえ……何でもありません。それより、僕達も早く教室に入りましょう」

「は、はい」


 いけないいけない、あまり彼女に見惚れてばかりいたら、変に思われてしまいかねない。

 そんなことでナディアに嫌われたりしたら、それこそシャレにならないからね……。


 僕は平静を装うと、一緒に教室の中に入った。


 ◇


「では、本日はここまでとする。各自、明日には選択する授業を書いて提出するように」


 担任が僕達にそう告げると、教室を出て行った。

 この帝立学院では、それぞれの特性に応じ、必須科目を除き授業を選択する仕組みになっている。


 これは、それぞれの家に応じて帝国内で求められている役割を考慮してのものだ。

 要は、騎士団長や軍を担うような家の者が魔法を習っても仕方ないし、逆に宮廷魔術師の家系が剣術を習っても仕方がないからね。


 ということで。


「ナディアさんはどの授業を受ける予定ですか?」


 僕は彼女の席に行くと、それとなく尋ねてみる。

 もちろん、三年後の時(・・・・・)のために。


「私、ですか? 一応、剣術の授業を受けようと考えておりますが……」


 ナディアが不思議そうな表情を浮かべながら、おずおずと答えた。


「そうなのですか? 失礼ながら、ナディアさんに剣術が向いているようには見えないのですが……」


 実際に、夢の中で彼女の剣術はほぼ役に立っていなかった。

 おそらく、致命的に剣術の才能がないのだろう。


「……それは私も承知しています」


 僕の言葉に、ナディアは悔しそうに唇を噛む。

 そもそも彼女が剣術の授業を選択する一番の理由は、ドナトの実家であるハイメス辺境伯家に配慮してのものだ。


 あの家の領土は隣国との最前線に位置している関係から、常に軍事力を……強さを求められる。

 それは、いずれハイメス家の一員となる、婚約者であろうとも。


 そんなことを、ナディアは夢の中で僕に語ってくれた。

 ただジェステ家のためだけにドナトと婚約をし、不得手である剣術を学び、努力し続けた彼女。


 でも。


「……僕は、不得手なものを学ぶことが、決して()のためになるとは思いません。それならば、その()にないものを持っていることこそが、()のためになると考えます」


 僕は、それが()を指しているかは言及しない。

 でも、僕は彼女から全て(・・)を聞いたんだ。


 しがらみも、苦労も、そのつらさも。

 それでもなお、前を向こうと必死に頑張ってきたことも。


「……本当に、そうでしょうか……?」


 思い悩んだ後、ナディアは僕の顔を(のぞ)き込んで尋ねる。

 まるで、縋るかのように。


「ええ……僕はそう思います。それこそが、あなたが認められる(・・・・・)ための、最も近道であるということも」

「あ……」


 僕の言葉に、彼女が目を見開く。

 その綺麗な藍色の瞳に、涙を(たた)えて。


 そして。


「私……私は……っ!」


 彼女が、大粒の涙を(こぼ)した。


「これから、あなたに何が向いているのか、何ができるなのか……それを見つけるために僕も力になります。ですから、一緒に考えてみましょう」

「はい……はい……!」


 ナディアは涙を流したまま、何度も僕にお辞儀をしてから教室を出て行った。

 そんな彼女を、僕は微笑みながら見送る。


 そして、彼女が見えなくなった後。


「……フザケルナ」


 僕は、彼女をここまで追い詰めているドナトに、ハイメス辺境伯家に、実家であるジェステ子爵家に……その全てに向けての怒りを込め、ポツリ、と呟いた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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