最低女の末路
「あ……ああ……」
「ふふ……これでもう、あなたは死霊達を呼ぶことができなくなりましたが、どうしますか?」
声を失う最低女へ向け、ナディアはクスリ、と微笑んだ。
それにしても、さすがはナディアの使役する最上級召喚獣は破格の能力だ。
その中の一柱である【ネビロス】は、地獄の少将にして全ての死霊達の長。
あの【ネビロス】の前では、死霊使いは一切の能力を封じられ、逆に使役していたはずの死霊達によって食い尽くされ、死霊へと堕とされる。
今回は最低女の能力のみを封じただけに留めたみたいだけど、ナディアがその気になれば、アイツは死霊と化していた。
「ナディア……やはり君は、すごい女性です」
「ふふ、ありがとうございます。ですがこれは、あなたが私に指し示してくださったからです。この私の価値を……この私の、可能性を」
そう言って、ナディアは蕩けるような笑顔を見せてくれた。
その時。
「あああああ! ち、違うの! 私はこんなつもりじゃなかったの! ちょっとだけ意地悪しようと思っただけで、あなた達を傷つけようなんて思ってもいないから!」
突然、手のひらを返して取るに足らない言い訳を、大声で矢継ぎ早に話す最低女。
あれだけ宣ったというのにその変わり身の早さ、ある意味すごいな……。
でも、それと同時にここから逃れようと、僕達の様子を窺いながら少しずつ部屋の出入口との距離を縮めているし。
まあ、逃しはしないけど。
「【ミルユニット】」
「っ!?」
僕が【ミルユニット】で出入口を塞いだ瞬間、最低女が膝から崩れ落ちる。
もう死霊を召喚できないアイツは、ただ死を待つだけの虫けらと同じだけど、僕は聞かなければならないことがある。
「おい」
「ヒッ!?」
声をかけた途端、最低女は軽く悲鳴を上げて後ずさりをする。
「さっきオマエは、『毎晩夢を見続けた』、そう言ったな」
「そ、そうだけど……」
「その夢というのを詳しく話せ」
「は、はいい……」
最低女は顔を恐怖で引きつらせながら、夢の内容について説明した。
モレノ男爵に引き取られたその日から、毎日同じ夢を見るようになったこと。
夢の中で目標が達成されると、また次の夢に移行すること。
帝立学院に入学した日から、夢は婚約破棄から迷宮に堕とされる夢へと変わったこと。
「……そ、それで、夢の中で私は自分が死霊使いの能力があることを知って、実際にやってみたら普通に召喚できて……それに、ほら、私って天才だったから、魔力は無限にあったし」
「そんなことはどうでもいい。それで、オマエの夢の結末はどうなっているんだ?」
「は、はい! この第一階層でセルヒオ以外の全員を殺して、私達は最下層を目指すの! そしたら、第二階層を攻略中に別の連中……というか、“迷宮刑”にされた犯罪者達がやって来て、一緒に攻略することになるの!」
「その犯罪者達というのは、何者なんだ?」
「そ、その……“カルロス”という男とその手下達なんだけど……」
アリアはおそるおそる僕の反応を窺いながら、そう告げた。
“カルロス”……アストリア帝国内で名を轟かせた、“ブリガンティ盗賊団”の首領の名前だ。
現在は部下共々帝国に捕縛され、地下牢につながれている。
そして、僕の夢の中にも現れ、執拗に僕……ではなく、ナディアを狙ってきた。
「他には?」
「え? ほ、他は……」
それから、アリアは夢に現れた者達を次々と告げていく。
その全てが、僕の夢に登場した者達と合致していた。
「こ、これで全部よ……」
「…………………………」
アリアの夢の話を全て聞き終え、口元を押さえながら思案する。
僕が八歳の頃から毎日見続けていた夢……それをどうして、この女も見ることができたんだ……?
しかも、僕はその夢しか見ることがなかったのに対し、この女は段階を追って夢を見ている。
……ひょっとしたら、僕やこの女以外にも、同じように夢を見ている者がいるかもしれない。
だが、一体どうしてこんなことが起きる?
僕一人が予知夢を見るだけでもあり得ないのに、まさかもう一人……いや、ひょっとしたら他にも……って。
気づくと、あの最低女は僕達から離れ、この部屋の出入口へと一気に駆けていた。
「っ! ……イヴァン、どうしますか?」
「まあ、放っておいてもいいと思います」
あの女からは、聞きたい情報は全て聞けた。
これ以上、あの女に用はない。
そして。
「あははははははははははははは! 馬鹿ね! 私の能力はその部屋では封じられちゃったけど、部屋から出れば使えるわ!」
「……やめておけ」
「は? やめておけ? 馬鹿じゃないの? やめるわけないでしょ! 私をこんな目に遭わせておいて、しかも、アンタ達に下の階層に行かれたら、私が死んじゃうのよ!」
僕が低い声で忠告するも、最低女は捲し立てるように言い放つ。
……僕は、確かに忠告したぞ?
「あはははははははは! ……ハア、本当に目障り。しかも、まだ分かってないみたいだし」
「分かってない、だと?」
「ええそうよ。私のスケルトンドラゴンがこの部屋全体に攻撃を仕掛けたら、どうなると思う?」
そう言うと、アリアはニタア、と口の端を吊り上げた。
「アンタ達の身体に、直接教えてあげる! スケルトンドラゴン! 出てくるの……っ」
――ドン。
一度の炸裂音と共に、アリア=モレノの腰から上が吹き飛んだ。
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