表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/48

最低女の末路

「あ……ああ……」

「ふふ……これでもう、あなたは死霊達を呼ぶことができなくなりましたが、どうしますか?」


 声を失う最低女へ向け、ナディアはクスリ、と微笑んだ。

 それにしても、さすがはナディアの使役する最上級召喚獣は破格の能力だ。


 その中の一柱である【ネビロス】は、地獄の少将にして全ての死霊達の長。

 あの【ネビロス】の前では、死霊使いは一切の能力を封じられ、逆に使役していたはずの死霊達によって食い尽くされ、死霊へと堕とされる。


 今回は最低女の能力のみを封じただけに留めたみたいだけど、ナディアがその気になれば、アイツは死霊と化していた。


「ナディア……やはり君は、すごい女性(ひと)です」

「ふふ、ありがとうございます。ですがこれは、あなたが私に指し示してくださったからです。この私の価値を……この私の、可能性を」


 そう言って、ナディアは蕩けるような笑顔を見せてくれた。


 その時。


「あああああ! ち、違うの! 私はこんなつもりじゃなかったの! ちょっとだけ意地悪しようと思っただけで、あなた達を傷つけようなんて思ってもいないから!」


 突然、手のひらを返して取るに足らない言い訳を、大声で矢継ぎ早に話す最低女。

 あれだけ(のたま)ったというのにその変わり身の早さ、ある意味すごいな……。


 でも、それと同時にここから逃れようと、僕達の様子を(うかが)いながら少しずつ部屋の出入口との距離を縮めているし。


 まあ、逃しはしないけど。


「【ミルユニット】」

「っ!?」


 僕が【ミルユニット】で出入口を塞いだ瞬間、最低女が膝から崩れ落ちる。

 もう死霊を召喚できないアイツは、ただ死を待つだけの虫けらと同じだけど、僕は聞かなければならないことがある。


「おい」

「ヒッ!?」


 声をかけた途端、最低女は軽く悲鳴を上げて後ずさりをする。


「さっきオマエは、『毎晩夢を見続けた』、そう言ったな」

「そ、そうだけど……」

「その夢というのを詳しく話せ」

「は、はいい……」


 最低女は顔を恐怖で引きつらせながら、夢の内容について説明した。


 モレノ男爵に引き取られたその日から、毎日同じ夢を見るようになったこと。

 夢の中で目標が達成されると、また次の夢に移行すること。

 帝立学院に入学した日から、夢は婚約破棄から迷宮に堕とされる夢へと変わったこと。


「……そ、それで、夢の中で私は自分が死霊使いの能力があることを知って、実際にやってみたら普通に召喚できて……それに、ほら、私って天才だったから、魔力は無限にあったし」

「そんなことはどうでもいい。それで、オマエの夢の結末はどうなっているんだ?」

「は、はい! この第一階層でセルヒオ以外の全員を殺して、私達は最下層を目指すの! そしたら、第二階層を攻略中に別の連中……というか、“迷宮刑”にされた犯罪者達がやって来て、一緒に攻略することになるの!」

「その犯罪者達というのは、何者なんだ?」

「そ、その……“カルロス”という男とその手下達なんだけど……」


 アリアはおそるおそる僕の反応を(うかが)いながら、そう告げた。

 “カルロス”……アストリア帝国内で名を轟かせた、“ブリガンティ盗賊団”の首領の名前だ。

 現在は部下共々帝国に捕縛され、地下牢につながれている。


 そして、僕の夢の中にも現れ、執拗に僕……ではなく、ナディアを狙ってきた。


「他には?」

「え? ほ、他は……」


 それから、アリアは夢に現れた者達を次々と告げていく。

 その全てが、僕の夢に登場した者達と合致していた。


「こ、これで全部よ……」

「…………………………」


 アリアの夢の話を全て聞き終え、口元を押さえながら思案する。

 僕が八歳の頃から毎日見続けていた夢……それをどうして、この女も見ることができたんだ……?


 しかも、僕はその夢しか見ることがなかったのに対し、この女は段階を追って夢を見ている。

 ……ひょっとしたら、僕やこの女以外にも、同じように夢を見ている者がいるかもしれない。


 だが、一体どうしてこんなことが起きる?

 僕一人が予知夢を見るだけでもあり得ないのに、まさかもう一人……いや、ひょっとしたら他にも……って。


 気づくと、あの最低女は僕達から離れ、この部屋の出入口へと一気に駆けていた。


「っ! ……イヴァン、どうしますか?」

「まあ、放っておいてもいいと思います」


 あの女からは、聞きたい情報は全て聞けた。

 これ以上、あの女に用はない。


 そして。


「あははははははははははははは! 馬鹿ね! 私の能力はその部屋では封じられちゃったけど、部屋から出れば使えるわ!」

「……やめておけ」

「は? やめておけ? 馬鹿じゃないの? やめるわけないでしょ! 私をこんな目に遭わせておいて、しかも、アンタ達に下の階層に行かれたら、私が死んじゃうのよ!」


 僕が低い声で忠告するも、最低女は捲し立てるように言い放つ。

 ……僕は、確かに忠告したぞ?


「あはははははははは! ……ハア、本当に目障り。しかも、まだ分かってないみたいだし」

「分かってない、だと?」

「ええそうよ。私のスケルトンドラゴンがこの部屋全体に攻撃を仕掛けたら、どうなると思う?」


 そう言うと、アリアはニタア、と口の端を吊り上げた。


「アンタ達の身体に、直接教えてあげる! スケルトンドラゴン! 出てくるの……っ」


 ――ドン。


 一度の炸裂音と共に、アリア=モレノの腰から上が吹き飛んだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ