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死霊使い、アリア②

「この私が、あなたをここで踏みつぶしますから」


 ナディアはそう言って、ニタア、と口の端を吊り上げて(わら)った。


「うふふ、あなたみたいな地味で冴えない女に何ができるの? それも、そんな田舎の伯爵子息の背中に隠れて守られるだけの、役立たずな女(・・・・・・)が」

「っ! 今の言葉、取り消せ!」


 クスクスと(わら)う最低女の言葉に、僕は思わず声を荒げた。

 ナディアのことを何も知らないくせに、勝手なことを!


「ふふ、大丈夫ですイヴァン」

「だけど!」

「本当の私は、あなたが全部知っていてくれるから……本当の私は、あなただけが見てくれているから……だからあんな女の言葉、私には一切響かない」


 そう言うと、ナディアはただ最低女を見据えた。


「アリアさん……あなたが使役できる魔物はたったの三種類、ですか……それでは無限の魔力もただの持ち腐れですね」

「……へえ、言うじゃない。そこにいるアンタの召喚獣、確かにそこそこ(・・・・)強いようだけど、それでもせいぜいスケルトンドラゴンと互角。なら」


 最低女が口の端を持ち上げると、両手をかざして黒の魔法陣を展開する。

 そこからスケルトンドラゴンが現れ、巨体によって天井を削った。

 ここは守護者の部屋だから、天井の高さが十メートル以上はあるにもかかわらず、だ。


「うふふ、どう? 可愛いでしょ? しかもこの子、ドラゴンだから竜骨でできてるの」


 最低女はスケルトンドラゴンの身体を撫でながら、うっとりとした表情を見せる。

 だけど僕には、その姿に見惚れる要素は何一つないと思うが……。


「そうですか、私は興味ありません。それより……始めましょうか」

「うふふ、いいわよ」


 互いのその言葉を合図に、スケルトンドラゴンとナディアの召喚獣、【アモン】が対峙する。


「行きなさい! 【アモン】!」

「スケルトンドラゴン! 踏み潰してしまえ!」


 まずはスケルトンドラゴンが、その巨体を活かして巨大な足で踏み潰しにかかった。


 ――ズウン……ッ!


 地響きと共に、【アモン】がいた場所に足形ができる。


 だけど。


「っ! ……へえ、まさか受け止める(・・・・・)なんて思わなかったわ」

「ふふ、そうですか? 【アモン】なら余裕です」


 目を見開く最低女に対し、ナディアは微笑みながら少し胸を張った。

 そんな彼女の仕草を、こんな時に可愛いと思ってしまったのは不謹慎かもしれないが、とにかく尊くて可愛い……って。


「おっと、その前に。【バタリング・ラム】」


 僕は今も押し寄せてくる骸骨の兵士を破壊し、その奥で魔法を放っているリッチも屠る。

 でも、スケルトンドラゴンを使役しながらも、骸骨の兵士達が湯水のように溢れ出ているところを見ると、どうやらあの黒の魔法陣から自動的に召喚される仕組みのようだな。


 なら。


「それは全部止めさせてもらうよ。【ミルユニット】」


 黒の魔法陣を囲い込むように、土属性魔法で生成した薄い鉄の板の間に大量の土で固める。

 その土を水属性魔法で湿らせれば完成の、お手軽な合成魔法だ。


 だけど、こと防御に関して言えばこれ以上シンプルかつ有効なものはない。

 さあ……これで骸骨の兵士とリッチは出口を失った。無理に出てこようものなら、自分達の圧力で勝手に自滅することになるぞ。


「っ! 別にもっとたくさんの魔法陣を作ればいいだけよ!」


 僕の意図に気づいた最低女は、次々と黒の魔法陣を展開する。

 それを負けじと、僕は【ミルユニット】で塞いで……っ!?


 どうやら展開した黒の魔法陣は、全てスケルトンドラゴンのものだったらしい。

 さすがにこの巨大な竜種の魔物が相手だと、【ミルユニット】じゃ防ぎ切れないか……。


「うふふ……あははははははははははははは! どうするの? ねえ、どうするの? アンタが余計なことしたせいで、この部屋がスケルトンドラゴンだらけになっちゃうんだけど!」


 勝ち誇ったように(のたま)う最低女。

 あの女の言うとおり、確かにこのままじゃナディアに迷惑をかけてしまう。


 でも。


「ふふ……このような骨だけの竜が何体出てこようが、結果は同じです。では、そろそろ終わりにしましょうか」


 口の端を持ち上げ、ナディアは右手人差し指で素早く魔法陣を描く。

 ということは……いよいよ召喚するのか。


 最上級召喚獣――“偉大なる王国の六柱“を。


「来てください……【ネビロス】」


 彼女がその名を告げた瞬間、描かれた魔法陣が獄炎に包まれる。

 その中からゆっくりと、軍服を着た青白い顔の男が現れた。


「お呼びでしょうか、主よ」

「目の前のスケルトンドラゴンと、その者達の通る魔法陣を、この部屋から消し去っていただけますか?」

「お安い御用です」


【ネビロス】は恭しく一礼すると、目の前にいる数体のスケルトンドラゴンを一瞥(いちべつ)し、指をパチン、と鳴らす。


 その瞬間。


「っ!? なんで!?」


 スケルトンドラゴンも、死霊を送り込んでいた黒の魔法陣も、全てこの部屋から消え去ってしまった。


「ふむ……主よ、どうやらあの者が地獄とこの部屋を繋げておりましたので、私のほうで二度と繋がらないよう、封鎖しておきました」

「ありがとうございます、【ネビロス】」

「もったいなきお言葉」


 ナディアの前でかしづき、(こうべ)を垂れると、役目を終えた【ネビロス】はこの部屋から消え去った。


「あ……ああ……」

「ふふ……これでもう、あなたは死霊達を呼ぶことができなくなりましたが、どうしますか?」


 声を失う最低女へ向け、ナディアはクスリ、と微笑んだ。

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