死霊使い、アリア①
「それで、こうなったらこの私が直接殺してやることにしたの。だから……死んで?」
そう言うと、最低女……アリア=モレノは、口の端を三日月のように吊り上げた。
だが、僕の夢の中では、この最低女は常に誰かに守られていて、戦っていた印象が一切ない。
学院生活においても、常にエミリオや取り巻き達にちやほやされるばかりで、その成績や能力で目立ったこともなかったはず。
だとしたら、一体どうやって僕達を倒すつもりだろうか。
「……まあいいよ。あのセルヒオとの戦いを見た上でそんなことが言えるんだ。ただし、僕は一切容赦しない」
「ウフフ、バーカ。それはコッチの台詞よ!」
そう言うと、最低女が両手をかざし、魔法陣を展開する。
だが、これは……?
「知ってる? 私って可愛い上に天才だから、こんなことができちゃうの。来なさい! 私の可愛いペット達!」
すると魔法陣が黒く輝き、そこから次々と甲冑を身にまとった骸骨の兵士が現れた。
「……まさか、オマエが“死霊使い”だったとはね……」
「どう? 驚いた?」
できる限り余裕の表情を浮かべているが、僕は内心ではかなり驚いている。
そして、そんな僕の胸の内を見透かしているかのように、最低女は愉快そうに笑った。
「なら僕は、この骸骨の兵士達を殲滅してあげるよ。【バタリング・ラム】」
僕は土属性魔法で圧縮を重ねた金属を生成し、一本の円柱を生成すると、それを別に作った円筒に納める。
あとは……これを放つのみ。
「さあ、行くよ」
その言葉と共に圧縮された円柱が火属性魔法による爆発で射出され、一気に骸骨の兵士へと襲い掛かった。
「「「「「ッ!?」」」」」
射線上にいた骸骨の兵士は、全てその身体(骨)を砕かれ、円柱は一番奥の壁にめり込んだ。
「次弾装填! 発射!」
その後も僕は円柱を生成しては次々と射出し、骸骨の兵士は瞬く間に破壊されていく。
はは、こんなに密集していれば、躱すこともできないだろう。そう考えながら、僕は口の端を持ち上げた……って。
――ガシャン。
「イヴァン、油断しないでください」
「ナディア……助かった」
僕の【バタリング・ラム】をかいくぐり、迫っていた骸骨の兵士を、ナディアの召喚獣【アモン】がその太く強靭な腕で破壊してくれた。
本当に、ナディアは頼りになる。
「さて……どうやら骸骨の兵士はいなくなったけど、まさかこれで終わりってわけじゃないよね?」
「…………………………」
僕は余裕の表情を浮かべながら煽るようにそう言うと、最低女は忌々しげに僕を睨んだ。
でも、それは一瞬のことで、すぐに元の下卑た笑みへと変わる。
「うふふ、まさか。大体、たったあれだけの数なわけないでしょ」
最低女の言葉どおり、黒の魔法陣から次々と骸骨の兵士が現れ、同じように迫って……っ!? あれは!
「リッチか!」
不死系の魔物でも、魔法を得意とするリッチが骸骨の兵士の後ろに控え、魔法を展開している。
「【リアクティブアーマー】! 【バタリング・ラム】!」
僕は魔法防御のための壁を展開するとともに、骸骨の兵士をひたすら破壊する。
とりあえず、このまま根比べをして最低女の魔力が尽きるまで待っていてもいいけど、そんな無駄な時間を費やしている余裕もない。
早く、あの連中から離れるようにしないと……。
すると。
「ああ、そうそう。このまま耐えて私の魔力が尽きるのを待とうとしても駄目よ? 私の魔力、無限にあるもの」
「「っ!?」」
不意に告げた最低女の言葉に、僕とナディアは声を失った。
魔力が無限に、だと……?
「うふふ、信じられない? でも、本当なのよね。確かに私の今の実力じゃ、骸骨の兵士とリッチ、あとは精々スケルトンドラゴンくらいしか呼び出せないけど、アンタ達が死ぬまで出し続けるから」
「…………………………」
さて、困ったぞ。
骸骨の兵士やリッチは大したことはないが、スケルトンドラゴンを使役できるとなると面倒だな。
しかも、魔力が無限ということは、そのスケルトンドラゴンですら数に制限がないということだろうし。
何より、僕は夢の中で一度もこの女と戦ったことがない。
「……やっぱり、倒すならあの最低女ごと一斉に消し去るしかないな……」
本当は、これまであの最低女がしでかしたことを分からせた上で、絶望の中で殺害してやりたかったんだけど……。
「ハア……このままアンタ達の魔力が尽きるまでこれを繰り返していてもいいんだけど、それだとあの時のお返しができないし……どうしようかなあ……」
最低女が呑気な声でそんなことを宣いながら、僕……ではなくてナディアを見た。
それにしても、あの時のお返しとは一体……。
「ふふ……まさか、あのお返しですか? ただの事実なのに、思ったとおり狭量でつまらない人ですね」
「っ! ……本当にムカツクわよね。何? その男がそんなにいいワケ? 趣味悪いわね」
「あら、あなたに言われたくありませんね。まるでコレクションのように男を侍らせていい気になる。しかも、まともな男が一人もいないのですから、下品極まりないかと」
顔を歪めながら煽る最低女に、それを微笑みながら皮肉で返すナディア。
正直、目の前の骸骨の騎士やリッチなんかより、よっぽど恐ろしいんだけど。
「……まあいいわ。だったらアンタが言った、『幸せへの踏み台になってくれてありがとう』って言葉、そっくりそのまま返してあげる。私がアンタ達を潰して、この迷宮から出て幸せになるための踏み台になれ!」
「残念。あなたの望みは永遠に叶いませんから。だって」
ナディアが僕の顔を見て、ニコリ、と微笑むと。
「この私が、あなたをここで踏みつぶしますから」
そう言って、ニタア、と口の端を吊り上げて嗤った。
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