ごきげんよう
――タン。
「え……?」
乾いた音と同時に、セルヒオの右脚が付け根から綺麗に吹き飛んだ。
もちろん、僕の合成魔法による攻撃で。
「あああああああああッッッ!? どうして!? どうしてこの僕の右脚が!?」
――タン、タン。
「あ!? ぎッ!?」
バランスを崩してもんどり打って倒れるセルヒオに、無慈悲にも立て続けに二発の乾いた音が響く。
剣を持っていた右腕、そして左腕も千切れ、吹き飛び、セルヒオは床に這いつくばる。
「あああああ……っ」
「セルヒオ……オマエは、最初から僕の敵じゃなかった」
そう……セルヒオとの格付けは、十歳の時に見た夢の中で既に済んでいる。
あの時以来、僕がこの男に敗れることは、一度たりともないのだから。
なお、セルヒオの胸を打ち抜いたのは、僕の背中越しにある長さ一メートル弱の円筒から放たれた一発の弾丸。
――合成魔法、【カービン】。
円筒から射出される速度により、肉眼で捉えることは不可能。
もし円筒の口を認識していれば、その向きや角度により射線を避けることは可能だけど、【リアクティブアーマー】と僕の身体、そして【ヴィジラント】や【ランドマイン】に気を取られ、オマエは見抜けなかった。
「く……そ……っ……この僕に……誰よりも強い、この僕にこんなことをするなんて……許せない……許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない……っ」
苦痛に顔を歪めながらも、セルヒオは狂ったように怨嗟の声を漏らし続ける。
はは……まあ、オマエはそういう男だったな。
自分だけが頂点にいると勘違いし、それ以外の人間はゴミ以下の存在。
それがたとえ、皇帝や自分の父である騎士団長だったとしても。
「さて……そんなオマエがたった一人だけ存在を認める奴がいたな」
「ヒッ!?」
そう呟き、視線をそちらへと向けると……悲鳴を上げる、最低女の姿があった。
「っ!? ま、待て!? アリアは関係ないだろう!?」
「関係ない? オマエは関係のないナディアに手をかけると言い放っておきながら、自分の愛する女性だけ助けてもらおうなんて、そんな夢みたいなことを考えているのか?」
それに、全ての元凶はこの最低女。
なら、ここまでしでかしておいて生かしておくいわれはない。
「さあ、オマエは特等席で見ている。オマエが愛してやまない、アリア=モレノという女が苦しみでのたうち回る様を……って」
「お、お願い! 助けて!」
最低女が駆け寄ってきて、僕の足に縋りつく。
顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら。
「違うの! 私はあなた達に何かしようだなんて思ってなかった! 本当よ! 信じて!」
「…………………………」
確かにこの最低女は、僕達に直接危害を加えようだなんて考えてはいない。
それは、これまで何千回と繰り返した夢の中でも同じ。
言うなれば、この最低女に勝手に惚れた馬鹿な連中が、勝手に気を利かして、勝手に婚約破棄や危害を加え始めただけだ。
でも。
「オマエは確かに、何かをしようとはしなかった」
「だ、だったら!」
「だけど、オマエはコイツ等に何かをさせるように、いつも誘導していただろう」
ああ、オマエは夢の中で雄弁に語ってくれたよ。
エミリオやその取り巻き達は、面白いくらい踊ってくれたと。
そんなことを、エミリオ達とは違う別の男の腕に抱かれながら、下卑た笑みを浮かべていたっけ。
心が壊れてしまった、ナディアに向かって。
僕は、あの時オマエがナディアに味わわせた屈辱を、絶対に忘れない。
「……ナディア、この女をどうしますか?」
僕は、あえてナディアに判断を委ねた。
この女に一番辛酸を舐めさせられたのは、他の誰でもない、ナディアなのだから。
「ふふ……そうですね。本音を申し上げますと、私は彼女の顔を二度と見たいとは思いません」
「っ!? ま、待って……「ですが」」
ナディアの言葉を聞き、僕から彼女へすり寄り、懇願しようとしたところで、彼女は話を続けた。
「彼女には一点だけ感謝している部分もございますので、二度と私達の前に姿を現さないという条件で、見逃して差し上げてもよろしいかと」
「……そうですか」
まあ、ナディアがそう言うことは分かっていた。
それに、仮にこの女を生かしておいたとしても、結果は変わらないから。
「ではナディア、行きましょうか」
「ふふ……ええ」
僕はナディアの手を取り、お互い強く握る。
まるで、絶対に切れない僕達の絆を表すかのように。
すると。
「ああ、そういえば忘れてしまうところでした」
そう言って、ナディアが床にへたり込んでいる最低女に耳打ちする。
「っ!」
「ふふ……では、ごきげんよう」
そして、今度こそ僕達はその場を後にした。
――忌々し気に睨みつける、最低女とセルヒオを置き去りにして。
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