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天才との攻防

「そう……なら、力づくで(・・・・)奪うまでだ(・・・・・)


 そう言い放つと、セルヒオは腰にある剣を抜いた。

 まあ、遅かれ早かれ(・・・・・・)、こうなることは分かっていたんだ。


 なら、別にどうということはない。


 僕は、セルヒオに向けて両手をかざすと。


「おっと。言っておくが、アリアを人質にしようだなんて考えないことだぞ。もしそんな真似をしたら、死んだほうがましだと思えるほどの苦痛を、そこにいるナディアに与えるからな」

「……面白いことを言うな」

「っ!?」


 セルヒオの不用意な発言によって、僕の中で怒りが頂点に達する。

 だけど、そうなればなるほど、僕の頭の中は冷たく、まるで何一つ不純物が混じっていない氷のように澄んでいった。


 ああ……この感覚、まるで夢の中に戻って来たかのようだ。

 あの、ただ苦痛と絶望と、慟哭に(まみ)れた世界へ。


 そんな僕の変化に気づいたのか、セルヒオは一気に僕から距離を取った。


「へえ……そんな実力を隠していたなんて、気づかなかったな……」

「そうか」


 セルヒオの軽口も相手にせず、僕は土属性魔法で全長一メートルの長細い金属の円筒を生成すると、その中に数種類の火属性魔法を注入する。


 そして。


「【ヴィジラント】」


 そう唱えた瞬間、円筒の最後尾から勢いよく青白い炎が噴き出し、勢いよく射出された。

 もちろん、セルヒオへと向けて。


「ハハ! そんなこけおどし、この僕に通用する……っ!?」


 剣で【ヴィジラント】を斬ろうとしたセルヒオだったが、咄嗟に剣を引き、逃げるように距離を取ろうとする。


 だけど。


「っ!? 追ってくるだって!?」


 僕が放った【ヴィジラント】が、まるで意思を持つかのようにセルヒオの向かう方向へと向かっていく。

 そう……この【ヴィジラント】は、土属性魔法により先端部分に磁力を発生させ、セルヒオの持つ金属の剣に反応して追尾するようにしてある。


 さあ、どうする?

 オマエが僕達を殺すための剣を手放さないかぎり、その【ヴィジラント】は半永久的に追いかけるぞ?


 しかも、仮にその長細い胴体を剣で斬りつけでもしたら、その瞬間オマエは炎と爆風に包まれるのだからな。


 僕は仕掛けを施しながら、口の端を持ち上げながらセルヒオを眺める。


 すると。


「ハハ……確かに、これは凶悪な魔法みたいだ。こんなことができるなんて、実に惜しい」


 薄ら笑いを浮かべ、セルヒオが軽やかに【ヴィジラント】を(かわ)す。

 でも、そんなことを繰り返しても、それ(・・)は追いかけるのを止めない……っ!?


 なんと、セルヒオは器用にも【ヴィジラント】の先端部分だけを斬り落とした。

 セルヒオの剣に反応する、磁石部分を。


 目標を見失ってしまった【ヴィジラント】が、彷徨いながら迷宮の通路を進んでいくと……壁に衝突し、爆発した。


「……よく先端部分に追跡するための仕掛けがあると分かったな」

「ハハ、偶然だよ。でも、普通は目があるとすれば、それは()じゃない?」


 セルヒオが、おどけながら同意を求める。

 だが……やはり、この男は帝立学院最強の男。


 その無駄に働く勘も含め、やはり油断できない。


 とはいえ。


「それで、この後はどうするんだ?」

「どうするって? 決まっているよ。君と君の後ろにいるナディア令嬢にできる限りの苦痛を与えて殺し、僕とアリアは迷宮攻略をするだけだ」

「セルヒオ、オマエにそれができるとでも?」


 そう言うと、僕は口の端を持ち上げる。


「……どういうことだい?」

「オマエが【ヴィジラント】から逃げ回っている間、この僕がただ眺めていただけだと思っているのか?」

「……いいや、思わないね。おそらくだけど、ドナトを殺した時と同じように床に何かを仕掛けているんじゃないか?」


 そう……僕はドナトを殺害した時と同様、床一面に【ランドマイン】を仕掛けてある。

 そのまま普通に僕達に向かってきたら、その瞬間に吹き飛ぶように。


 そして、セルヒオが僕の能力を把握していることも知っている。

 ドナトが僕達を襲撃するためにアリアの(そば)から離れた時、気づかれないように後を尾けていたと、この男自身が夢の中で語っていたからな。


「ふうん……何だ、驚かないのか。せっかく僕が君の罠を看破してみせたっていうのに」

「それはそうだろう。それを知ったところで、剣で攻撃するほかに(すべ)がないオマエは、僕達に近づくことすらできないんだから」


 そう言ってはみたものの、実はセルヒオには遠距離への攻撃手段はある。

 何せこの男、本当は剣術だけでなく、魔法に(・・・)関しても(・・・・)学院最強なのだから。


 ただし、それを知っているのは、セルヒオの父である騎士団長のみ。

 これも、夢の中で僕が死ぬ間際に語った、セルヒオの真実だ。


「じゃあ、試してみようじゃないか! 【ライトニングスピア】!」


 セルヒオがこちらへと剣の切っ先を向けると、雷で形成された八本の槍が出現し、超高速で襲い掛かる。

 しかも(たち)の悪いことに、雷の槍が放出する稲妻の影響で【ランドマイン】が次々と誘爆しながら。


 これじゃ、せっかく床に(・・)仕掛けた罠が全部無駄になってしまう。


「チッ! 【リアクティブアーマー】!」


 僕はカリナ令嬢との戦闘で見せた防御壁を展開し、【ライトニングスピア】を全弾防いだ。

 それで、セルヒオは……っ!?


「ハハ! 隙ありだよ!」


 僕が【リアクティブアーマー】で視界を遮られていた間に、【ランドマイン】が敷き詰められていた床を疾走し、こちらへ肉薄していた。

 近接戦闘になってしまったら、いくら夢の中で鍛え抜いた僕でも、この男の相手にならない。


 そうなれば、だけど。


 ――タン。


「え……?」


 乾いた音と同時に、セルヒオの右脚が付け根から綺麗に吹き飛んだ。

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