譲れない願い
「セルヒオ……これはどういうことだ?」
「どういうことって?」
僕が睨みながら問い質しても、セルヒオは薄ら笑いを浮かべるばかりで、答えようとはしない。
だけど……エミリオをスライムに食わせたのは、コイツの仕業で間違いないだろう。
「……聞き方が悪かったな。セルヒオ、どうしてこんな真似をした?」
「ああ……そんなの、決まっているじゃないか。僕はね、僕よりも無能な奴に仕えたり、友達面する奴とは付き合いたくないんだよ」
臆面もなく、そう言い放つセルヒオ。
だけど、夢の中の時もそんな理由だったか?
あの時は、最低女にそそのかされた、自分の意思なんてものが感じられない、ただ戦うだけの操り人形だった印象しかない。
なのに目の前のセルヒオは、明らかに自分の意思でこんな真似をしたことが窺えた。
それは、コイツの瞳を見ればよく分かる。
「ええと……名前はイヴァンだっけ? 君だってそうじゃないのか?」
「……何がだ?」
「僕はね、自分のことを理解してくれて、受け入れてくれて、支えてくれる存在に巡り合えたんだ。その女性のためなら、何だってできる。僕はアリアに出逢って、それがよく分かったんだ。今まで、僕のことを誰も見ていてくれていなかったんだって」
嬉しそうに微笑みながら、僕を見て語るセルヒオ。
ああ……そうか……。
セルヒオ……僕にとってのナディアは、オマエにとってのアリアだった。そういうことなんだな。
「僕は……騎士団長の息子だからって勝手に期待され、望まない婚約を受け入れ、そこの無能な皇太子の従者にさせられ、ただ魔法が得意なだけの子どもと辺境伯の長男だからと身の程を弁えない男、優秀だと錯覚しているクールを気取った男達が同僚、うんざりだったよ」
「…………………………」
「だからさ、僕はそんな自分の人生を終わらせることにしたんだ。その無能を、そそのかしてさ」
…………………………は?
コイツ、今何て言った。
「そしたら、案の定調子に乗ってさ。この無能だけでなく、馬鹿な従者達もね。アリアは、この僕しか見ていないというのに」
「待て。つまりそれは、オマエがエミリオに婚約破棄をするようにそそのかした……そういうことか?」
「そのとおりだよ! もちろん、あの皇帝のジジイが僕達を“迷宮刑”に処することも織り込み済みでね!」
高らかに宣うと、セルヒオはケタケタと愉快そうに嗤い出す。
悪戯に成功した、小さな子どものように無邪気に。
「……だが、オマエだって迷宮に堕とされるんだぞ? そればかりか、オマエがそんなに大切にしている、そこの女もな」
「そんなことは分かってるよ。だけど君、忘れちゃいないか?」
「何をだ?」
「この僕が、“セルヒオ=ディアス”だということを!」
両手を掲げ、ただ自分自身を讃えるセルヒオ。
これまで築き上げてきた、類まれなる才能に裏打ちされた実力とその自尊心こそが、この男をこのようにしたのだろう。
本当に、救えない。
「それで、僕は君の質問に答えたんだから、次は君の番だ。僕達と協力して迷宮攻略に挑むのか、それとも、ここで袂を分かつのか」
セルヒオに改めて問われ、僕は無意識に隣のナディアを見た。
すると彼女は、ニコリ、と微笑みながら僕を見つめ、ただ頷く。
どうやら、彼女も僕と同じみたいだ。
「決めたよ、セルヒオ」
「そうかい! いやあ、君なら賢明な判断をしてくれると思ったよ! 何せ、この僕が認めた唯一の男だからね!」
セルヒオは破顔し、僕の元へと歩み寄ってきた。
でも。
「何を勘違いしている。僕達は、オマエ達を拒絶する」
僕は右手を突き出して制止を促し、静かにそう告げる。
「っ!? ……どうしてだい?」
予想外だったセルヒオは、一瞬だけ目を見開いた後、低い声で尋ねた。
どうしてって? そんなもの、決まっている。
「オマエは、オマエだけの都合で婚約破棄なんて馬鹿な真似をするようにエミリオをそそのかした。それによって、関係なかったナディアを巻き込んで」
「何を言っているんだ。そこの彼女を巻き込んだのは、僕ではなくてドナトの屑だよ。それは分かっているだろう?」
「ああ、直接的に巻き込んだのはあの馬鹿だ。だけど、そもそも婚約破棄がなければ、ドナトもわざわざあの場で婚約破棄をすることもなかったはずだ」
「それは結果論だよ」
僕の言葉に対し、セルヒオが吐き捨てるようにそう言った。
確かにオマエの言うとおり、結果論なのかもしれない。
だけど、その結果がナディアをこんな目に遭わせた。
ならば僕は、オマエを絶対に許さない。
「ハア……どうやら決意は変わらないみたいだね」
「…………………………」
「なら仕方ない。君達が持っている食糧を全部差し出すということで手を打とう」
「何を言っている?」
「君達こそ何を勘違いしている。その食糧は、僕とアリアが迷宮を攻略するために必要なもの。なら、それを差し出すことこそが君達に残された義務だ」
セルヒオが、平然とそんなことを言ってのける。
最低女も最低女で、さも当然とばかりに頷いていた。
「そうか……だが、これは僕とナディアが生き抜くために必要なもの。オマエ達には絶対に譲れない」
「そう……なら、力ずくで奪うまでだ」
そう言い放つと、セルヒオは腰にある剣を抜いた。
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