SとM
「ウフフ……」
僕の問いかけに対し、カリナ令嬢はニタア、と口の端を吊り上げた。
「……何がおかしいのですか?」
「おかしいに決まっていますわ。だって、ただの田舎の伯爵子息と、ただのハイメス家の子飼いでしかない子息令嬢が、揃いも揃って勘違いしているんですもの」
そう言うと、カリナ令嬢がケタケタと下品に笑う。
あの、学院での気品に満ちた振る舞いとは程遠い姿で。
「……リタ様とローラ様も、カリナ様と同じように考えているのですか?」
「「…………………………」」
ナディアが鋭い視線を向けながら尋ねると、二人は顔を逸らして押し黙る。
もちろん、一人はただのカリナ令嬢の取り巻きに過ぎない。
カリナ令嬢に恐怖する、ただの下僕に。
そんな彼女達三人を見て。
「ははっ」
僕は、思わず鼻で笑った。
「……何がおかしいんですの?」
立場が逆転し、学院一の美貌を持つとの噂のカリナ令嬢が、醜く顔を歪めながら尋ねる。
「いや、だって、僕はどうしてナディアを探していたのかを尋ねているのに、的外れなことを言うからですよ。ひょっとして、カリナ令嬢はまともな会話ができないんですか?」
「っ! 何を!」
「なら、早く答えてください。どうして、ナディアを探していたのか」
「ハア……分かりました」
ようやく本性を現す気になったのか、カリナ令嬢は溜息を吐いたあと、気持ち悪いほどに醜悪な顔で嗤った。
「もちろん、身の程知らずなナディアさんに、この私が直々に躾けて差し上げようと思ったからですわ。自分の立場を分からせるために」
そう告げると、カリナ令嬢が取り出したものは……あれは、馬用の鞭か?
「まさかとは思うけど、それでナディアを叩くつもりか?」
「ええ、そうですけど? 家畜を躾けるのですから、当然でしょう?」
何を言っているんだとばかりに、不思議そうな表情を浮かべながら言い放つカリナ令嬢。
本性を現してから、その性格の壊れっぷりがすごい。
「僕達がそれをみすみすさせると思っているんですか? そもそも、あなたじゃ僕達の相手には……って」
気づけば、取り巻きの一人であるリタ令嬢が、ナディアに向けて魔法を放とうとしていた。
「させない。【ワッドカッター】」
「キャアアアアアッッッ!?」
その前に僕はリタ令嬢の胸を魔法弾で撃ち抜き、リタがもんどり打って床に倒れる。
「あら、使えないわね」
「……仲間なのに、冷たいことを言うんだな」
「ウフフ、何を言っているのかしら。リタは仲間ではなくて家畜よ? 役立たずだったら、捨てるだけじゃない」
……本当に、夢の中のカリナ令嬢から一切ブレないな。
「じゃあ、次はそこにいるローラ殿が僕達と戦うのですか? まあ、そこに転がっているリタ殿のようになりたいのなら、ですが」
「ひ、ひい……っ」
目の前でリタがどうなったかを見ていたローラは、恐怖で顔を引きつらせる。
このまま引き下がってくれればいいんだけど……まあ、無理だろうな。
「何をしているのかしら。早く行きなさい」
「は、はいいい……っ!」
カリナ令嬢にすごまれ、ローラは覚悟を決めてダガーを抜き、僕……ではなくてナディアへと攻撃を仕掛けた。
おそらくは、ナディアを人質に取るつもりなんだろう。ナディアの見た目は弱いように思えるし、人質にすれば僕も攻撃できなくなるからね。
だけど。
「【ファライー】」
「っ!?」
ナディアがそう唱えた瞬間、ローラ令嬢の目の前に光の魔法陣が現れ、仮面を被った骸骨の騎士がゆっくりと迷宮内に顕現する。
「あ……ああ……っ」
その禍々しさと異様な姿に、ローラは腰を抜かして全身を震わせた。
「ふふ……ローラ様、可愛いでしょう? 私の召喚獣は」
「むむ、無理……無理い……」
頭を抱え、うずくまるローラ令嬢。
その時。
――ざく。
「っ!? ああああああああ!? 痛い!? 痛い痛い痛い!?」
「本当にもう……主人の言うことを聞かない家畜は、殺処分しかないんですのよ」
いつの間にか馬用の鞭からフルーレに持ち替えていたカリナ令嬢が、うずくまっていたローラの背中にその切っ先を突き刺していた。
しかも、フルーレの刃をねじり、より痛みを与えながら。
「ギャ!? お願い! やめ……げ……ふ……」
そして、ローラ令嬢は胸まで貫かれ、大量の血を吐きながら息絶えた。
「ハア……この私の手を煩わせることになるなんて……」
「その割に、最高にご機嫌な笑顔を見せているじゃないか。今まで付き従っていた二人に、この仕打ちはどうなんだ?」
「何度も同じことを言わせないでちょうだい。家畜なんだから、こうするのは飼い主の責務なのよ。あなたみたいな田舎の伯爵子息では分からないでしょうが」
「…………………………」
本当に、何度この光景を見ても反吐が出る。
まあいい。なら、夢と同じように壊してやるだけだ。
この、サディスティックで、マゾヒスティックな人形を。
だから。
「じゃあ、やろうか」
「うふふ、ええ」
僕は右手を、カリナはフルーレを、互いに掲げた。
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