2on2
「ナディア、僕の後ろに……」
「はい……」
サーベルの切っ先をこちらへと向けるエルナンから庇うように、僕はナディアの前に立つ。
「アハハ、なにそれ。あのドナトの脳筋なんかに婚約破棄されたような、そんな女が好きなワケ? 趣味悪いなー」
「……まあ、貴様のような才能の欠片もない、無能な貴族子息にはお似合いだがな」
二人が僕達を見ながら、侮辱する発言をした。
「ぷっ、ははっ」
そんな二人に対し、僕のほうも小馬鹿にするように嗤う。
「……貴様、何がおかしい」
「何がおかしいかって、気づいてないのか? あのアリアなんていう尻の軽い最低女を追いかけ回しているオマエ達が、自分のことを棚に上げてそんなことを言うからだよ」
「はあ!? 何言っちゃってるのさ!」
「……取り消せ!」
はは、お子様なチコはともかく、エルナンも沸点が低いな。
まあ、本当のことを言われたりしたら、恥ずかしくなって怒り出すのも仕方ないか。
だけど……怒っているのは僕のほうだ。
僕は、ナディアを侮辱したコイツ等を絶対に許さない。
「事実を取り消すも何もないだろう。それより、僕達を殺すと言っているオマエ達を、ただで済ませると思っているのか」
低い声でそう告げると、僕は両手をかざす。
「さあ……始めようか。」
「「っ!?」」
その言葉と共に、僕は土属性魔法により生成した、長細い金属の円筒を束ねたものを出現させた。
「食らえ、【ガトリング】」
僕の言葉を合図に、火属性魔法によって円筒の束から圧縮された大量の魔法の弾丸が射出された。
「っ! エルナン! ボクの後ろに! 【アンキーレ】!」
チコも負けじと、魔法で二人の全身を覆うほどの大盾を展開し、弾丸を防ぐ。
まあ、【ガトリング】は高速で攻撃をするには向いているけど、威力はそれほどではないから、防がれてしまうのは仕方がない。
それでも、人間や下級の魔物を殺害するには十分すぎる威力ではあるんだけど。
とはいえ。
「防いだのはいいが、そこからどうするつもりだ? その魔法の盾を解除した瞬間、オマエ達は挽肉になるぞ?」
「クソッ! あの雑魚がこんな見たこともない魔法を使えるなんて、聞いてないよ!」
けたたましく高速で回転する円筒から放たれる弾丸が魔法の盾にぶつかる音が、迷宮内で激しく鳴り響く。
まあ、僕のほうは平凡な魔法使いの十倍の魔力量に加え、特異な魔力回復力があるから、半永久的に【ガトリング】を放ち続けることはできる。
だが、チコ……オマエはどうかな?
「ああもう! 普通ならとっくに魔力切れを起こしてるはずだろ! なんで攻撃が止まないんだよ!」
「……どうするんだ? このままでは、その盾も維持できなくなってしまうが」
「分かってるよ! そんなこと言うなら、アイツが攻撃している隙に何とかしてよ!」
はは。あの二人、揉めているよ。
とはいえ、これからアイツ等が何かをしようとしたところで、結果は見えてるんだけどね……って。
「ん?」
チコの奴が、魔法の盾を徐々に壁に寄せている。
おそらく、このまま曲がり角まで引き下がり、態勢を立て直すつもりなんだろう。
まあ、好きにすればいい。
それよりも。
「ナディア、後ろをお願いしてもいいですか?」
「はい」
僕の言葉に、ナディアは小さな声で返事をしてくれた後、そっとささやく。
もう、これで盤石だ。
「あはは! さあ、さっさと終わらせようか!」
じりじりと下がるチコに向け、僕は高らかに嗤いながら一歩ずつ前に進む。
チコとしては、何とか一瞬の隙を突いて起死回生の攻撃を仕掛けたいところだろう。
だけど、そのためには魔法の盾を維持している魔力を回さなければならず、その瞬間、盾はうち破られ、チコは蜂の巣のように全身が穴だらけになってしまう。
つまり……もはやあの二人は、死ぬ運命にあるということだ。
なのに。
「ププ」
「?」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
突然、チコが狂ったように大声で嗤い出した。
「……何がおかしい」
「アハハハハ! おかしいに決まってるよ! 確かにオマエは予想外だったよ! それは認める! だけど、もう一人のパートナーで失敗したねー!」
「パートナー? まさか、ナディアのことを言っているのか?」
「ご明察♪」
そんなチコのはしゃぐ声が聞こえたかと思うと。
「……終わりだ」
突然、背後からエルナンの低い声が聞こえた。
……本当に、馬鹿な連中だ。
「……ガアッ!?」
「ふふ……確かにあなたの言うとおり、終わりでしたね」
ナディアのクスクスと嗤う声と共に、エルナンの悲鳴が上がった。
「ガ、フ……ど、どういうこと、だ……どこに、こんな魔獣が……!?」
「【グラシャ=ラボラス】……この召喚獣は、姿を消すことができますので」
うん……まさに夢と同じ結果になったね。
チコが盾で背後を隠している隙に、エルナンは通路を迂回して僕達の背後に回ると、そこから襲い掛かってくる。
何より。
「そもそも、ナディアを舐めすぎだよ。チコ……オマエが稀代の魔法使いになると期待されているように、彼女もまた、学院で……いや、帝国内でも並ぶ者がいないほどの、召喚術の使い手なんだ」
魔獣を召喚する際も、その魔法の盾で視界が遮断されてしまっていることも裏目に出たな。
加えて、僕の【ガトリング】による激しい音のせいで、小さく呟くナディアの声も聞こえなかったことも敗因の一つだ。
「そういうことだから、後は気兼ねなく死んでくれ」
「クソ! クソ! クソオオオオオオオオオオオオッッッ!」
それから、チコは十五分程度粘っていたけど。
「アッ!? ギ、ギ、ギャ、ア、ガガガ……ッ!」
とうとうチコの魔力が底を尽き、全身に受けた無数の弾丸によって、その身体が文字どおり挽肉と化した。
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