異質だった、取り巻きの二人
“エルナン=レデスマ”と“チコ=マルケス”、この二人は帝立学院の生徒の中でも異質だった。
まず、エルナンという男は“氷の宰相”との異名を持つ父親の性格を色濃く受け継いでおり、学院内においても他者を労わることなく、ただ己の利益だけを追求するような男だった。
しかも、質が悪いことに能力も父親譲りで、水面下での根回しが上手く、やることなすこと抜かりがない。
そんなエルナンの唯一の失敗こそが、あの最低女を好きになってしまったことだろう。
次に、チコはといえば良くも悪くも子どもだ。
魔法に関しては歴代の魔法師団長と比較しても、それを上回るほどの才能であると自他ともに認めており、実際、魔法の威力や使える魔法属性の数は学院トップだ。
このまま成長を続けていけば、稀代の魔法使いになることも夢じゃなかっただろう。
だけど、性格が幼稚なせいで他者と関わることが極端に苦手な上、あのドナトよりも我儘が酷い。
時には癇癪を起こし、その得意な魔法で人を攻撃することもしばしば。
なので、基本的にチコはアリアの言うことしか聞かなかった。
その二人が今、目の前でエミリオを追い込んでいる。
「……これも、痴情のもつれというものでしょうか」
三人の光景を眺めながら、ナディアが眉根を寄せながらポツリ、と呟く。
その藍色の瞳に、嫌悪と侮蔑をにじませながら。
「そうですね。ですが、あの最低女がエミリオの傍にいないことが原因のようですよ。とにかく、少し近づいて様子を見てみましょう」
僕とナディアは気づかれないように近づき、聞き耳を立ててみる。
「……言え。アリアをどこへやった」
「早くしてくれないかなー」
「わ、私は知らない! 気がついたら、いつの間にかいなくなっていたんだ! 信じてくれ!」
低い声ですごむ二人に、エミリオが必死に弁明する。
それより、あの二人の荷物は……うん、ちゃんと持っているな。
「……本当に愚かな。か弱いアリアがこんな迷宮に独りでいれば、どうなるか分かっているだろう」
「アハハ、もしアリアに何かあったら、どうなるか分かってるよね?」
エルナンが顔をしかめながらかぶりを振り、チコはおどけながら凄む。
そんな二人を交互に見ながら、エミリオは今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「あーもう、こんな奴放っておいて、アリアを探しに行こうよー」
「……待て。その前にこんな真似をしでかした、この男を捨て置くこともないだろう」
「あはは、それもそうだねー」
その言葉を皮切りに、エルナンがサーベルを抜き、チコは右手に【ファイアボール】、左手に【アクアバレット】を発動させた。
どうやらここで、エミリオを殺すつもりのようだ。
その時。
――カラン。
僕はわざと、小石を蹴飛ばした。
「っ!? ……何者だ」
こちらを見て、エミリオが低い声で尋ねる。
「ナディア……これは僕のミスです。あなたはここで隠れていてください」
「いいえ、私も一緒に行きます」
気づかれたのは僕の仕業だし、ナディアには極力人殺しをしてほしくなかったので、離れて待っていてもらおうとしたけど、どうやら彼女にそのつもりはないらしい。
しかもこれは、絶対に引き下がらないって瞳だ。
……本当に、ナディアって意外と頑固というか、折れないというか……。
「あははっ」
もちろん、そんな彼女が僕は大好きなんだけど。
「分かりました。では、一緒に行きましょう」
「はい!」
僕はナディアと手を繋ぎ、二人であの連中の前に出た。
「……なんだ、貴様等か」
「へえー、まだ生きてたんだ。意外だなー」
僕達を見た瞬間、興味を失ったエミリオと、対照的に好奇な視線を向けるチコ。
共通していることは、僕達がまだ生きていることだろう。
才能ある二人からすれば、目立たない僕やナディアなんて、取るに足らない存在でしかないだろうから。
「それにしても……二人はこのエミリオの従者として仕えていたんじゃないのか? なのに、この状況はどういうことなんだ?」
分かっているのに、あえて僕は二人に尋ねる。
この二人が本性を見せて、ナディアが罪悪感を抱かなくて済むようにするために。
「……最初から、このような愚図に仕えた覚えはない。そもそも、こんな男にアリアは不釣り合いだったのだ」
「ホントそうだよねー。ボクのほうが、絶対にいいのに」
そんなことを言っているが、僕からすればこの二人とエミリオに違いなんてない。
どちらもあの最低女に入れ上げた、どうしようもない愚者だ。
「そんなことよりさー。君達、まだ食糧って持ってる?」
……きたな。
「そんなこと、どうしてオマエ達に答えなきゃいけないんだ?」
「……口の利き方に気をつけろ。貴様等は問われたことだけ答えればいい」
「「…………………………」」
エルナンの傲慢な態度に、僕は無言で睨みつける。
もちろん、それは隣にいるナディアも。
「アハハ、エルナンもバカだなあ。そんなの、殺して奪えば手っ取り早いのに」
「……そうだな。そこの愚図を始末するついでに、食糧調達をするとしよう」
そう言うと、二人は口の端を持ち上げた。
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