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悪夢に抗うために

「ハア……ハア……ッ!」


 僕は夢から覚め、ベッドから勢いよく飛び上がる。

 背中に、びっしょりと冷や汗をかきながら。


「僕は……僕は……っ」


 あの迷宮の中で、僕はヘルハウンドに食われて死んだ。

 でも、それ以上に……ただ彼女に……ナディア令嬢に守られるだけだった、この僕自身が許せなかった。


「僕が……僕が、彼女を死なせたんだ……っ!」


 夢の中での出来事だというのに、僕の中で罪悪感と絶望、それに無力な自分への怒りがこみ上げてくる。

 僕がもっと強ければ、彼女を死なせることはなかったんだ。


 そう思い至った僕は、家の書庫に向かってヘルハウンドのことが載っている図鑑を読み漁った。


 今度は、殺されないように。

 今度こそ、彼女を死なせないように。


 その日の夜、僕は夢の中で再びヘルハウンドと対峙した。

 でも、もう昨日の夢の中の僕とは違うんだ。


 だから。


「これでもくらえ!」

「ッ!? ガフッ!?」


 僕はヘルハウンドが素早い動きながらも、真っ直ぐにしか襲い掛かってこない習性を利用し、待ち構えながら冷静に剣で突き刺した。

 今の僕は十八歳なんだ。身体だって大人だし、力だって強い。


「よし! 今だ!」


 ヘルハウンドの群れに囲まれる前にその場を離れた僕は、今度は彼女……ナディア令嬢を探した。


「ハア……ハア……どこだろう……?」


 迷宮の中を走り回り、彼女を探す。

 昨日の夢では、僕を庇ってくれたんだから、絶対にこの近くにいるはず……っ!


「いた!」


 彼女は、スライムから必死で逃げながらこちらへと向かって来ていた。

 そうか……昨日の夢では、動きの遅いスライムから逃げた先に僕がいたのを見て、助けてくれたんだな……。


 なら、今度は僕が助ける番だ!


「ナディアさん! 僕の後ろに!」

「っ! は、はい!」


 僕は彼女を庇うように割って入ると、ゆっくりと襲い掛かるスライムを剣で斬り刻む。

 スライムは二つ、また二つと分かれるけど、その全てをただ剣で一つずつ倒していった。


「ふう……もう大丈夫……っ!?」

「ありがとう……ございます……っ」


 ナディア令嬢は、ぽろぽろと大粒の涙を(こぼ)す。

 そんな彼女に、僕はいつしか見惚れてしまっていた。

 それから、僕はナディア令嬢と一緒に迷宮を探索することにした。


 だけど。


「っ!? く、くそおおおおおおおおッッッ!」


 突然現れた屈強なリザードマンに、僕もナディア令嬢も斬り刻まれ、殺されてしまった。


 ◇


 それからというもの、僕は夢の中でいつもナディア令嬢と行動を共にするようになった。

 もう、この時の僕には、ただの傍観者でいようだなんて考えは、どこかへ行ってしまっていた。


 そして、その人柄や優しさ、ひたむきさ、色々な彼女に触れるたびに、僕は彼女への想いを募らせていった。


「……本物の(・・・)彼女も、あんなに素敵なのかな」


 屋敷の庭で魔法の練習をしながら、僕はポツリ、と呟く。


 藍色に輝く長い髪に、同じく藍色の瞳。

 整った鼻筋に、薄い桜色の唇。

 どこか緊張しておどおどしている仕草や、はにかむと八重歯が見える、そんな可愛らしい彼女。


「あははっ」


 そんな彼女の容姿を思い浮かべながら、僕は思わず苦笑してしまった。

 だって、所詮あれは夢の中での話でしかなくて、実際に存在する皇太子はともかく、本当にナディア令嬢が……他の子息令嬢がいるはずなんてないのに。


「……とにかく、僕はこの現実(・・)で頑張らないと」


 実は、夢の中で迷宮を探索しているうちに、あることに気づいた。

 それは……現実で身につけた技術や能力が、夢の中でも使えるようになるということ。


 それが分かったのは、僕が魔法(・・)を身につけてからだ。

 事前に支給された剣があまり役に立たず、何とか優れた武器や防具がなくても戦う方法がないかと考え抜いた結果、僕は魔法を学ぶことにした。

 だから、両親に必死に頼み込んで魔法の家庭教師をつけてもらった。


 そのおかげで、まだ初級ではあるものの攻撃魔法をいくつか習得することができた。

 しかも、魔法を習得した僕は、その日の夢の中で魔法を駆使できたんだ。


 それが分かってからというもの、僕はとにかく強くなるために努力に努力を重ねた。

 残念ながら剣術の才能があまりないことが分かり、少し落ち込んだりもしたけど、だからといって夢の中の魔物やあの連中(・・・・)は僕とナディアを見逃してはくれない。


 なので、僕はとにかく魔法の訓練を集中的に行った。

 現実の世界では魔力強化や魔法の習得、それと基礎体力の訓練に力を注ぎ、夢の中では魔法による実戦経験をひたすら積む。

 夢の中を含め、普通の人の二倍……いや、それ以上の時間を費やしたおかげで、僕はみるみるうちに強くなっていった。


 そして迎えた、十五歳の春。


 ――僕はいよいよ、帝立学院へ入学することとなった。

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