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共に、堕ちる② ※ナディア=ジェステ視点

■ナディア=ジェステ視点


 そして、いよいよ迎えた卒業の日。


 私は意を決し、イヴァンに卒業記念パーティーへのエスコートをお願いした。


 ドナトがあの男爵令嬢と一緒にパーティーに参加することは分かり切っていたし、何より明日からはイヴァンに逢えなくなってしまうから……。


 もちろん、私だって理不尽な婚約に抵抗しようと考えていた。

 ドナトの学院での行いをできる限り記録し、それを元に婚約破棄するように働きかける。

 その見返りとして、この学院で身につけた召喚術を駆使して貢献することを条件に。


 でも、その結果を得るにはかなりの時間を要してしまう。

 それまでの間、イヴァンとは離ればなれになってしまうことを考えたら、居ても立っても居られなかった。


 そんな私のお願いに、イヴァンは私の体裁を気にして何度も断る。

 でも、それでもと涙を流しながらお願いし続けたら、彼は誘ったのはイヴァンだということにすることを条件に折れてくれた。


 彼の優しさを利用して涙を見せるなんて卑怯な真似をしたことは、私も理解している。

 だけど、そうしてでも私はイヴァンと一緒にパーティーを過ごしたかった。


 イヴァンと向かったパーティーの会場である帝立ホール。

 中に入るなり、私は突然お父様に腕をつかまれ、連れて行かれてしまった。


 おそらくは、私がドナトではなくイヴァンと一緒にいることに、怒っているのだろう。

 そう考えていたけど。


「ナディア……あのような男と婚約させてしまったこと、本当にすまない。領地に戻り次第、ハイメス閣下と協議の上、速やかに婚約を破棄する」

「っ!? お父様!?」

「心配はいらない。ドナト君の学院での行いは、私もハイメス閣下も知っている。だから、お前はもう気にしなくてもいいんだ。お前はあの彼との過ごすパーティーを、目一杯楽しんできなさい」


 夢かと思った。

 私が、自分の想いを我慢しなくてもいいなんて……イヴァンを……大好きな彼を、諦めなくてもいいなんて……っ!


 気づけば、私は駆け出していた。

 彼に……誰よりも大好きな、イヴァンに向かって。


「イヴァン!」


 彼の胸に初めて飛び込み、私は頬ずりをする。

 ああ……イヴァン! イヴァン! イヴァン!


 事情を説明すると、最初は困惑していた彼が私を抱え上げ、ホールの中央でくるくると回り出した。


「あはははは! ナディア! ナディア!」

「ふふ! イヴァン! イヴァン!」


 本当に……心から嬉しそうに、最高の笑顔を見せながら。

 もちろん、私だって彼に負けないくらい笑いました。


 それから皇帝陛下からお言葉をいただいた後、パーティーが始まった。


 もう誰にも遠慮する必要がない私とイヴァンは、ずっと寄り添い合い、ダンスだって踊った。

 こんな最高の夜を、彼と一緒に迎えることができるなんて……。


 イヴァンの横顔を眺めながら、私は決意する。

 パーティーが終わったら、私は伝えよう。


 この……私の想いを。


 だけど、そんな私の決意は無残に打ち砕かれた。

 皇太子とドナトを含めたその取り巻き、あの男爵令嬢、カリナ令嬢達による暴挙を発端とした、皇帝陛下の迷宮刑の宣告によって。


 それを聞いた瞬間、自分の耳を疑った。

 何より、私のせいでイヴァンを巻き込んでしまったことによるどうしようもない罪悪感と、そんな愚かな私への許せなさで気が狂いそうだった。


 でも、こうなってしまっては私にはどうすることもできない。


 周囲の声も一切聞こえず、イヴァン以外の全てが見えず、気づけば私は謝罪していた。

 彼に向かって、何度も、何度も、何度も。


 なのに、イヴァンは私を慰め、逆に自分を責めるばかり。

 本当に……私は不甲斐ない……っ。


 それから私達は、個別に地下牢へと放り込まれる。

 次の日の正午、刑が執行されるまでの間。


 泣き言を言い続けている、醜い連中。

 この連中がいなければ、イヴァンは刑に処されることなんてなかったのに。


 ――私は、今すぐこの連中を殺してやりたかった。


 ◇


 迎えた正午、私達は迷宮の扉の前に連行された。


 いよいよ、刑が執行される。


「では、一人ずつ迷宮へと入れ! エミリオ=デ=アストリア!」

「…………………………」


 憔悴した様子の元皇太子が、引きずられるようにして迷宮の中へと文字どおり堕とされた(・・・・・)


「次! ドナト=ハイメス!」

「くそ……くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ……」


 ブツブツと呟きながら、ドナトもエミリオと同様に迷宮の中へと堕とされる姿を見て、私の胸に憎悪が渦巻く。


 この男さえいなければ、と。


 その後も次々と迷宮の中へと堕とされていった。

 泣こうが喚こうが、地面や壁などにしがみついても無理やりに。


 そして……次はとうとうイヴァンの番。


「ナディア……向こうで(・・・・)待っています(・・・・・・)


 他の連中と違い、イヴァンはただ微笑んだ。

 私を心配させまいと……今まさに、迷宮に堕ちるというのに。


「イ、イヴァン……ッ! はい……はい……っ!」


 そんな彼に応えるように、私はたとえ涙で(まみ)れようとも、必死で笑顔を作って見送る。

 そして……彼は、迷宮へと堕ちた。


「次! ナディア=ジェステ!」

「はい」


 私は涙を拭い、背筋を伸ばして迷宮の扉へと歩み寄る。

 彼が、私に見せてくれたように。


 イヴァン……私達の結末は、この迷宮の中でした。

 ですが、この中であれば、もう私達が添い遂げることを邪魔する者はおりません。


 だから。


「イヴァン……愛しています……」


 決して伝わることのない告白を闇に向かって告げた後、私は彼に(なら)い自ら迷宮に堕ちた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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