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共に、堕ちる① ※ナディア=ジェステ視点

■ナディア=ジェステ視点


 私がハイメス辺境伯家の長男、ドナト=ハイメスと婚約したのは十歳の時。


 ハイメス家が、傘下であるジェステ子爵家との関係強化を図り、帝国内でその勢力を維持するために結ばれたもの。いわゆる政略結婚だった。


 別に貴族の子息令嬢同士の政略結婚なんて当然のことで、私もそのことについて疑問を持つこともなかった。

 だけど……その婚約相手であるドナト=ハイメスという男は、今にして思えば最低の男だった。


「貴様! それでも俺の婚約者か!」

「何をやっている! この愚図め!」

「全く……なんで父上は、このような者を俺の婚約者になどしたのだ!」


 関係を深めるようにと用意された席で、顔を合わせるたびにドナトから浴びせられる罵倒の数々。

 暴力を振るわれることも日常茶飯事だった。


 でも、私はそれに逆らうことなどできず、ただ受け入れるだけ。

 だって……そんなことをお父様やお母様に告げたら、二人は絶対にハイメス家に抗議するから。


 そんなことをしてしまったら、ドナトを溺愛しているハイメス辺境伯が、うちの家に酷いことをすることは目に見えているから。


 だから……私が我慢すればそれでいい。

 私がもっと上手に、ドナトに尽くせばそれでいい。


 そう、考えていた。


 苦痛だけしかなかったドナトとの婚約を結んでから五年、私とドナトは帝国の決まりにより帝立学院に通うこととなった。


 今まではドナトと顔を合わせることが頻繁にあったとしても、四六時中一緒ということはなかった。

 だけど、帝立学院では寮生活となり、常にドナトといることになる。


 私には、耐えることしか選択肢がなかった。


 そして、ドナトと共に帝立学院に入学した日、ドナトに怒鳴られながらその後をついて講堂へと向かっている時。


 ――私は、イヴァンに出逢った。


 だけど、最初に彼を見た時には、本当に驚いた。

 だってイヴァンはこちらを見ながら、何故か号泣していたのだから。


 ドナトも既に私を置いて講堂に行ってしまっていたので、イヴァンに駆け寄り声をかけると。


「あ、ああ……すいません……ちょっと目にごみが入ったみたいです……」


 そう言って制服の袖で涙を拭い、イヴァンが微笑んだ。

 無理をしているんじゃないかとも思ったけど、彼は心から笑っているのだと分かり、私も微笑み返した。


 でも……私は、その時のイヴァンの笑顔が印象的だった。

 彼はつい先程まで号泣していたのに、まるで生き別れた肉親にでも出逢ったかのような、そんな最高の笑顔を見せたのだから。


 それから私達を含めた新入生は講堂で入学式を済ませ、それぞれの教室へと向かう。

 ドナトは辺境伯家のため、私とは違うAクラスだったことは本当に幸運だった。


 もし同じクラスだったら、私の心はすぐに壊れてしまっていただろう。

 ……いえ、同じクラスだったとしても、今にして思えばそれはあり得ないことだった。


 だって、イヴァンがいつも私を見ていてくれたから、気づいてくれたから。

 まるで私のことなんて全てお見通しで、私の欲しい言葉をいつもくれて、気遣ってくれて、寄り添ってくれて……。


 でも、そのせいでドナトに試合と称して木剣で殴りつけられて、地面に横たわっている姿を見た時には、心が張り裂けそうになった。

 私のせいで……私が不甲斐ないせいで、彼が酷い目に遭ってしまって……!


 なのにイヴァンは、何食わぬ顔で大丈夫だと、問題ないとおどけて言うばかり。

 大怪我をしていないことは本当だったけど、だからといって無傷なはずがないのに。


 だけど、そのことを彼に詰め寄ってしまったら、それこそ彼の優しさを無にしてしまうような気がして、私はただ泣くことしかできなかった。


 それからというもの、私はいつもイヴァンの(そば)にいるようになった……いいえ、私は彼の(そば)にいたかった。


 イヴァンも、そんな私を迷惑がらずに受け入れてくれて、毎日が本当に楽しかった。

 特に、ドナトもあの節操のない男爵令嬢に懸想してくれたことも大きい。


 彼に勧められて授業を選択した召喚術も、生き物が好きな私に本当に向いていたようで、おかげで卒業式までに六体の最上級魔獣のうち五体まで使役できるようになった。


 ふふ……召喚術の先生が、卒業したら学院で教師にならないかと、熱心に勧めてくださいましたね。

 イヴァンも、そんな私を見て嬉しそうにしてくださいました。


 彼が喜んでくれたことが、私は何よりも嬉しかった。


 私は……彼が好き。

お読みいただき、ありがとうございました!


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