表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/48

繰り返される悪夢

新連載はじめました。

 僕がこの夢(・・・)を幾百、幾千と見るようになってから、もう十年を迎える。


 “アストリア帝国”にある貴族の一つ、“エスコバル”伯爵家の長男として生まれた僕は、何不自由なくすくすくと育ってきた。

 両親も僕にとても優しく、妹である“ノエミ”は天使のように可愛い。

 使用人達も、そんな僕達をいつも温かく見守ってくれている。


 そんな、どこにでもいる幸せな貴族子息だった。


 でも……八歳の誕生日を迎え、その日の夜に僕は夢を見た。


 十八歳に成長した僕も参加した、帝立学院の卒業記念パーティー。

 そんな記念すべき場所で、あろうことか帝国の皇太子、“エミリオ=デ=アストリア”が、婚約者である公爵令嬢、“カリナ=オリベイラ”に対し婚約破棄をしたんだ。


 さらに、その婚約者に対して次々と貴族家の子息達が皇太子の(そば)に来て、公爵令嬢を……彼女の周りにいる、現れた子息達の婚約者を糾弾する。


 そんな様子を、皇太子の腕に抱かれながら、一人の男爵令嬢……“アリア=モレノ”が怯えるような仕草をしつつ、時折ほくそ笑んで眺めていた。


 僕? 僕はただの傍観者だったよ。

 そんな大衆向けの物語の一幕のような光景を眺めているだけの、その他大勢の傍観者。


 すると、今度は皇帝陛下がこの場に現れた。

 公爵令嬢達の婚約破棄に関わった者達を、絶望へと叩き落とすために。


 皇帝陛下は告げる。


『皇太子をはじめ、婚約破棄に関連した者全てを、アストリア帝国に混乱を招いた罪で“迷宮刑”に処す』


 “迷宮刑” ――アストリア帝国で、死刑に代わって行われる最も重い刑。

 建国当時から帝国の地下にあるという、深く昏い迷宮へと堕とされる刑。


 堕とされた罪人が赦されるには、その迷宮の最下層に封印されている“エレンスゲ”と呼ばれる伝説の竜を縫い留めている、“ティソーナ”と呼ばれる剣を持ち帰ること。


 生きて還った者など、ただ一人としていないというのに。


 迷宮刑を宣告された皇太子達は、当然動揺を隠せず、泣いて懇願する者、混乱して叫び出す者、呆然と立ち尽くす者、反応は様々だった。

 しかも、赦されるための条件となる“ティソーナ”はたったの一振りしかない。


 でも、皇太子達は挑むしかない。


 ――その生存率〇パーセントの迷宮に。


 結果は……誰一人として迷宮から戻ってくる者はいなかった。


 そして僕は目を覚ます。

 全ての者の死を、見届けた後に。


 最初はただの悪夢だと思い、子どもらしく女神シベレスにお祈りをした。

 だけど、それからの僕は、毎日同じ夢を見るようになってしまった。


 昨日も、今日も、そして明日も。


 怖くなってしまった僕は、もう夢を見ないようにと、一切寝ないようにした。

 でも、二日も徹夜すれば疲れ果て、どうしても眠ってしまう。


 そしてまた、僕は同じ夢を見るのだ。


 そんな毎日を繰り返していると、さすがに僕も慣れてしまい、ただ無為にその様子を眺めているだけになった。


 だけど……僕は、つい好奇心を(のぞ)かせてしまった。

 所詮は夢なんだから、僕が皇帝陛下の断罪をぶち壊してしまったらどうなるんだろう、と。


 早速その日の夜、あの夢の中で婚約破棄を妨害してみた。

 それも、目に見えて分かるような形で。


 するとどうだろう。

 僕は騎士達に取り押さえられ、皇太子達と一緒に“迷宮刑”に処されることになったじゃないか。


 そして、皇太子達と一緒に迷宮の中に堕とされる羽目になってしまった。


 でも……僕は、くだらない好奇心のためにこんな真似をしてしまったことを、心の底から後悔した。


 何故なら。


「貴様! その食糧を寄こせ!」

「嫌よ! これは私のよ!」

「うるさい! だったらこの場で死ね!」

「ティソーナを手に入れ、迷宮を出るのはこの私だけだ!」


 迷宮の中で繰り広げられていたのは、放り込まれた者達による食糧の……生命の奪い合いだった。

 あの皇太子も、公爵令嬢も、その他の子息令嬢も、醜く顔を歪めながら奪い合い、殺し合う。


 だから僕は、他の者達に食糧を奪われないように……殺されないようにと、必死に逃げた。

 でも……僕を襲ってくる敵は皇太子達だけじゃなかったんだ。


 この迷宮には、たくさんの魔物や罠が仕掛けられていたのだから。


「助けて……助けて……っ」


 魔物……“ヘルハウンド”を前に、夢の中であるにもかかわらず、僕は迷宮に入る前に支給された剣のことも忘れて、恐怖で後ずさる。

 だ、だって、僕は夢の中では十八歳だけど、本当はまだ八歳なんだよ!?


 でも、目の前のヘルハウンドはそんなの待ってはくれない。

 その牙を剥き出しにし、今まさに僕の身体を噛みちぎろうと……っ!?


「が……ふ……っ」


 一人の女性が僕を庇うように覆い被さり、その細い首元を噛まれた。

 そして、僕はこの女性を知っている。


 公爵令嬢を糾弾していた令息の一人、“ハイメス”辺境伯家の長男である“ドナト=ハイメス”の婚約者であり、“ジュステ”子爵家の令嬢。


 ――“ナディア=ジェステ”。


「ど、どうして……?」


 僕を庇ってくれた理由が分からず、ただ困惑しながら尋ねる。

 だけど、彼女はニコリ、と微笑み、僕を強く抱きしめた。


 ヘルハウンドに、噛まれ、ちぎられ、身体を血で染めようとも。


 すると……いつの間にかヘルハウンドが取り囲んでいて、一斉に襲い掛かってきた。

 もちろん、守られていたこの僕にも。


 はは……せっかく、彼女が僕を助けてくれようとしたけど、僕も死ぬんだな……。


 そんなことを考えながら……でも、彼女にまだ少し残っていた温もりを感じながら、目の前が真っ暗になった。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ