徒然生きて
徒然生きて行く人よ
あなたは何故日々歩くのか
幾十年と渡るにも
この世はどうにも塩辛く
産まれ落ちいたその日より
大海原にひとりぼち
徒然生きて行く人よ
今日も何故何故歩くのか
得るもの僅かに失せ物多く
愛だ恋だにその身を焼べど
やがてその火は心を焼き切る
徒然生きて行く人よ
それでもあなたは歩くのか
終生住み処は舞台袖
ついぞ光は当たらねど
それでもあなたは歩くのか
ならば私は此処にて祈ろう
あなたの前途に微かでも
望みの灯りが立つように
徒然生きて行く人よ
ふむ。このような感じはどうだろう。実にぽい。ぽいでないか。
よし、詩人になろう。日々己が人生を恥ずかしげもなく垂れ流すクソ垂れ私小説作家よりよほど性に合っている気がする。うむ。そうしよう。さすればこの忌々しき締め切り地獄ともおさらばできよう。なに還暦とはいえまだまだ人生中途だ。いちから事を始めるに遅すぎるということはない。
…………などという戯言をもう何度心に誓っただろう。そして私はまた決まりの結論に辿り着く。どれだけ言葉を飾り立てても結局のところ現実からは逃げおおせないのだ。至極具体的に申せばもうこれ以上原稿を待ってもらうことはできない。書くしかない。締め切りは五日も過ぎている。きっともうじきあの鬼女子がやってくる。書かなければまた白菜も買えない日々が私を襲う。前を向いて紙に向かおう。この徒然を今日も歩いてみせよう。
気を奮わせた私が、その気の冷えてしまわぬうちに迅速に尻を拭きあげ迅速に履物をあげ迅速に排泄物を流し、誰にともなく勇ましい鼻歌などを披露しながら錠を上げドアノブを捻ったその時である。私の聡明な脳内に稲妻が駆ける。
嗚呼、やってしまった……。
完結です。最後まで読んでくださった読者様、本当にありがとうございました。
またこういった感じで様々なジャンルの短期連載を今後もちょこちょこやれたらと思っています。
どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
繰り返しになりますが本当にありがとうございました!