リックスの街
「次ー」
篠田と会った後、十分くらいかけてよろずさんと一緒に街の門まで帰ってきた。
夕方のこの時間帯は、冒険から帰ってきた多くのプレイヤーと“NPC”と呼ばれる人たちで賑わっている。
NPCは神様が用意したこの世界“アースガルド”の住人と言われている。
と言っても、現実の人間であるプレイヤーと見た目は変わらないし、彼らはこの世界で実際に生活している。
なので、プレイヤーと知り合いになったり、中には恋愛関係になる人までいるということだ。
何ならアースガルド内の人間と結婚することを認めている国もあるらしい。
そういったプレイヤーは、こちらの世界に身を置いて、お相手のNPCと生活しているという訳だ。
ちなみに、プレイヤーとNPCはお互いを見分けることができる。
なので、彼らは僕たちをプレイヤーという存在として認識しているのだけど、好意的に受け入れてくれるNPCもいれば、そうでない場合もあるので、トラブルには気をつけろと言われている。
また、プレイヤーの相棒に神様とかそういう類のものがいるということにNPCが気づいているのかという点については、不明だそうだ。
なぜ不明かというと、NPCによってはそれに気づいている人もいるからだ。
そして、それに気づいていないNPCにそのことを確認しようとすると、途端にプレイヤーの言葉が通じなくなるという何ともご都合主義的な設定があるらしい。
あとはさっき確認したことなのだけど、僕たちがプレイヤーとしてこの世界へ来ているということを、よろずさんは理解しているようだった。
アースガルドが、僕らプレイヤーにとってゲームの世界だと認識しているということも。
僕にとっては正直なところ、これだけ色々リアルだとゲームっていう感じがまったくしない。
実際に命もかかっていることだし、僕はこの世界をゲームとしては捉えないようにしている。
でも、プレイヤーによっては、ここをゲームの世界だとしか認識しておらず、好き放題しようとする人もいるみたいだ。
そこら辺の線引きは、正直難しいところみたいなのだけど、仮にNPCの人たちに犯罪まがいのことをした場合、日本では現実の法律と同じように裁かれるそうだ。
“神の視点”と呼ばれる謎の配信システムがある。
プレイヤーの動向が日夜すっぱ抜かれ、インターネットで配信されているのだ。
トイレとか、そういう場面は自動でカットされるというスーパーテクノロジー。
さらに、配信で多くの人に視聴されたプレイヤーは、神様からたまに特典がもらえるみたいだ。
また、有料だけど神の視点はプレイヤーの方でオン・オフが切り替えられる。
特典がもらえる可能性もある神の視点を、わざわざゲーム内の資源を使ってオフにするのは、どうなのかなぁという感じだけど。
そんな訳でゲームの世界だと思って好き放題した人間は、神の視点によって犯罪の証拠が配信されるなんてこともある。
オン・オフの切り替えがあるので、全部が全部ではないようだけど。
まあ神様もプレイヤーの犯罪現場をおさえるために動画を配信しているわけではないだろうしね。
十分ほど経つと門を賑わす大勢の列が捌け、ようやく僕たちの番となった。
「お願いします」
「おう! ぼうずと嬢ちゃんか!」
受付の兵士さんが、笑いながら迎え入れてくれた。
僕たち二人の身分証の代わりでもある冒険者カードを彼に渡す。
受け取った彼は、さっと目を通してすぐに、僕たちに返してくれた。
僕も笑いながらそれを受け取って、よろずさんの分ごとズボンのポケットに入れる。
彼女はこういう荷物を、自分で持ちたがらないので。
「で、どうだったよ? 初めてのモンスターは」
「最初は大変でしたけど、何とかなりました」
「そうか! それは何よりだな」
怪我だけしないよう気をつけろよ。
そう言って、兵士さんは僕たちを街へと通してくれた。
僕たちプレイヤーにも好意的なのが、とてもありがたく感じる。
そして、門を潜り抜けた先にはーーー。
目蓋を照らす世界の光、肌で感じる世界の温度、髪を揺らす世界の風。
そして、多くのプレイヤーと彼らが引き連れている相棒、NPCの人たちが奏でる世界の喧騒。
これが現実だと言われても疑う余地のない確かなリアルさが、これでもかと言わんばかりに僕に訴えかけてくる。
ここは始まりの街“リックス”。
ゲーム内でゲートがある唯一の街で、現実とゲームを繋ぐただ一つの街だ。
ゆえに大きな賑わいを見せている。
空はもうすっかり夕焼け色で、街の大通りで屋台や飯屋を物色する人たちの様子は、地元の商店街を思い出すような活気があって、なんだかワクワクする。
「“冒険者ギルド”に行くのかのう?」
「そうだね。もう遅い時間になってきたし、報告だけしたら今日は戻ろうかな」
「そうか。ならわしはもう引っ込んでおるぞ」
「えっ。自分で還れるの?」
「わしくらいになったら、それくらいお茶の子さいさいよ」
「あっ、ちょっと」
よろずさんはそう言うと、光に包まれ消えていった。
わしくらいになったら、って。
こんな言い方はあれだけど、よろずさんって当たりの部類ではなかったんじゃないのかな。
他のプレイヤーの相棒はどうなんだろう。
分からない。
頭を傾げながら、人の流れが盛んな大通りを進んでいき、突き当たりにある冒険者ギルドに着いた。
アースガルドの世界には、冒険者という仕事がある。
冒険者はいわゆる何でも屋で、お使いからモンスターの討伐まで、その仕事には様々なものがある。
冒険者が利用する場所だから冒険者ギルドという訳だ。
僕たちプレイヤーは基本的にほとんどの人が冒険者に登録するようになる。
また、NPCの人たちの中にも冒険者に就いている人がいて、プレイヤーとパーティーを組むこともあるそうだ。
入り口の押戸を開いて中に入ると、そこは依頼帰りの冒険者たちで溢れかえっていた。
ギルドに入って左手にある食堂は、昼間とは打って変わり酒場と化している。
プレイヤーとNPCが入り乱れた大騒ぎだ。
みんな笑っていて楽しそう。
お酒が飲めるようになったら、あそこに混じる機会があるのかもしれない。
僕は他の冒険者に当たらないよう気をつけながら、さっき冒険者登録した時に受付をしてくれたリミさんの列に並ぶのだった。
拙い文章ですが、ご了承ください
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