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神様の声?

 僕があの声を聞いたのは、物心ついてから少し後のことだった。

 恥ずかしながら、当時は訳も分からず親に泣きついてしまい、ヨシヨシと宥めてもらったのだ。

 だけど、その後の親の様子から、それがどうやら良いことなのだと、朧げながらに感じ取った覚えがある。


 それから小学校に入学して、少し物が分かるようになったタイミングで親から聞いた話は、幼い自分にとっても衝撃的だった。


「前に仁くんが言ってた声のこと、覚えてる?」


「覚えてる」


「あれ、実は神様の声だったらしいのよ」


 僕は親が頭でも打ってしまったのではないかと、子供ながら心配になったのだ。

 そんな考えが僕の顔に出ていたのか、親は少し困ったように眉を寄せ、説明を続けてくれた。


「いや、そうよね、うん。戸惑うのも無理ないわ」


 その隣では僕らに同意するように、おじいちゃんが頷いていた。


「とりあえず話を続けるわね。そっくりそのまま説明すると、神様が突然、声だけでこの世界に顕れて、ソシャゲ? 私も詳しくは分からないのだけど、ゲームのような世界へ遊びに行ける場所を創ったみたいなの」


 正直、僕はものすごく小難しい顔をしていた自信がある。

 それくらい意味が分からないというか無茶苦茶な話だと思ったのだ。


 ただ、それから親に手伝ってもらいながら自分なりに調べたら、本当にその通りの現象が起きていたことが分かった。


 始まりとなったのは、僕が生まれる年のこと。


 目的は不明、種も仕掛けも不明だけど、何か条件があるのか、はたまた神のきまぐれなのか。

 色んな人の頭に声がかかり、時を同じくして、チュートリアルガチャを引いた建物がニョキニョキっと生えたらしい。

 神が創ったということで、日本ではこの建物を“神創殿”と呼んでいる。

 

 それから声は、神創殿でチュートリアルガチャを引いてゲームを始めるよう指示を出したそうだ。

 意味が分からない。


 当然、世界は大パニック。

 マヤの予言が現実に、世界滅亡の危機かッ、という感じで連日あらゆるメディアで取り上げられたみたいだ。

 

 あの声の主は何者なのか、もしかして本物の神様かと議論が白熱したらしい。

 結局、現在に至っても声は自らを神様だとは名乗っていないらしく、結論ははっきりとしていない。 

 まあ、そんなことを出来るのは神様くらいしかいないだろう、という大分フワッとした考えが世論の大半を占めているそうだ。


 ニョキニョキッと、言ってしまえば新種の植物かと言わんばかりに生えた神創殿は当初、各国の政府によって速やかに封鎖された。

 危険はないのか、気候や地殻に影響を与えていないのかなどなど、専門家という名を借りた素人がしばらく調査をする予定がすぐに組まれたみたい。


 ところが、そんな人間の努力を嘲笑うかのように再び声が響いたそうだ。


『みんなありがとう! 早速何人かの子どもたちが、ゲームにログインして遊んでくれたみたいだねー。中にはなんと、チュートリアルクエストをクリアした子もいるみたいだ! ぼく嬉しいや! 特別に! 何人かに特典として外でも使える力をテキトーにあげるよー。他のみんなも頑張ってね!!』


 誰も入れないよう厳重に封鎖していたはずの場所に、もう入っている人がいたそうな。

 しかも、既にゲームを始めていたというのだから驚きだ。


 それからの各国の動きは様々で。

 あの声を聞いた軍隊の人間を高報酬で神創殿に送り込んだ国や少し様子を見る国など対応が分かれたみたいだ。


 その甲斐もあって、ゲームについていくつか分かったことがある。

 

 ガチャを引いたり、自分のレベルを上げてステータスを強化し、神様から出されたクエストやゲームの世界に出現するモンスターを倒すというゲームであること。


 声を聞いた人でないと、神創殿には入れないこと。


 また、最大のメリットとして、ゲームで手に入れたモノの一部が現実でも使えることなどが判明した。


 でも問題もあって、自分自身の体を使ってゲームをプレイしなければならず、モンスターとの戦いなども自らの身でこなす必要があるというのだ。


 さらに、ゲームの中で死ぬと現実の世界に戻れない。

 これが最も大きな問題点として挙げられた。


 ただ、夢のようなアイテムが実際に使えるとあって、リスク以上の莫大な利益をもたらすと判断された結果、各国は本格的にゲームの攻略に乗り出したという訳だ。

 そして、ゲームに参加する人間はいつしか“プレイヤー”と呼ばれるようになった。


 そんな流れに遅れること一年ほど。

 検証を重ね安全を確保できるような実態と体裁を整えて、日本はようやくゲームを開放したそうだ。


 声を聞いた人でなければゲームに参加できず、不平不満や選民思想が溢れかえりそうになったらしいけど、ゲームに関する法律を整備し、表向きは何とかなったみたい。

 ネットで検索したら何十個も法律が並んでいて、目がくらくらした。


 なぜ神様が突然こんなことをしでかしたのか。

 全てが謎に包まれているけど、僕の親はこう言っていた。


「たかが人間が神様に理由を求めるのもしょうがないわよねー」


 うむ、その通りかも。

 やがて、義務教育を終えた僕は、病院のベッドの上で佇む母親に、死なないようにとだけ注意を受けて送り出された。

 ありがたいようなノリが軽いような親の反応に少し困ったのは、ここだけの話である。


 命の危険があるので、声を聞いた人の中ではプレイヤーにならない人も当然いるそうだけど。

 その国益性の高さから、プレイヤーになる人への補助は手厚いし、個人としても有益なものになりうるということで、多くの人がプレイヤーになるというのが現状みたいだ。

 

 ゲーム内で入手でき、現実でも使えるアイテムに“万能薬”というものがある。

 相場だと数千万円はくだらない。


 僕がプレイヤーになる目的は、母さんの病気を治すために万能薬を手に入れることだ。

 すぐにどうにかなる状態ではないみたいだけど、大事を取って半年程前から入院している。

 そんなものはいいと母さんは言っていたのだけど、昔あれだけ元気だった彼女がベッドの上にいるのは、心にくるものがある。

 だから、プレイヤーになれることに僕は感謝している。

 

 そして、もう一つ目的がある。

 僕が生まれてから、まだ一度も目にしたことがないクソ親父を見つけ出し、ぶん殴るのだ。

 そもそも親父が生きているかさえも定かではないのだけど、母さんに苦労をかけさせた分の代償は必ず払ってもらう。

 こんな摩訶不思議なゲーム世界があるくらいだから、人探しだって不可能ではないはずだ。

 プレイヤーとしてお金を稼いで、誰かに依頼したっていい。


 母さんの症状と僕の気持ちの余裕があるうちに、この二つをなんとかしたい。

 そんな思いで挑んだチュートリアルガチャだったんだけどなぁ……。

拙い文章ですが、ご了承ください。

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