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チュートリアルガチャ

 教科書に載っているようなどこぞの神殿みたいな見た目の建物の中で、僕は一人で順番を待っていた。

 

 建物の中は、子どもが数十人、立って寛げる程度の広さだ。


 床と壁は大理石だか何だか分からないツルツルとした材質のもので、そこには意味があるのかないのか分からない模様が、至る所に刻まれていた。

 

 なんかこう、神秘的で意味深な感じが醸し出されている。

 ような気がする。


 壁の一部分には、謎のモニターが設置してあった。

 そこには「ログアウト不可、入室不可」と表示されている。

 正直、この建物の雰囲気には似合わないと感じる。

 

 そして、奥には幅広い階段があった。


「次は友井さんですね〜」


 中の様子を観察しながら待っていると、女性の優しげで間伸びした声に呼ばれた。

 それを聞いた僕は、奥の階段の方へと足を進める。


 これから何をするのか簡潔に言うと。

 

 “チュートリアルガチャ”なるものを引く。


 周りには、既にガチャを引き終えた人たちがいて、その反応は様々。

 両手を挙げて喜ぶ人もいれば、涙を流して悔しがる人もいる。

 以前TVで見かけた、大学受験の結果発表会場さながらの光景だ。


 そんなことを思いながら階段を登り、指定された位置に立つ。

 目の前には、キラキラと光る台座のようなものがある。

 『託台』と呼ばれるものだ。


 その煌めきは、目が潰れる程まぶしい訳ではない。

 なのに、不思議と瞳を伏せてしまいたくなる。

 そんな神聖さがあるように感じた。


「あまり緊張しないで、肩の力を抜いてくださいね〜」


 甘ったるい声音の主は、教会の人が身にまとっていそうな宗教服を着ている。

 そのお顔は、綺麗よりか可愛らしい、と言った感じ。


 そんな容姿と声に関わらず、視線を下げた先には、服をすごく押し上げている凶悪な胸部があった。

 

 ……目のやり場に困ればいいのか目の保養にすればいいのか、判断しかねるところだ。


 そんなゆるふわな女性に間伸びしたアドバイスを受けて、僕はだらんと両手を下げた。


「お、いいですね〜。それでは目を閉じて、両手を胸の前あたりで組んでください〜」


 言われた通りのポーズを取り、次の指示に備える。


 まさにそれは、神様に祈るような格好だと思った。


「それじゃあ頭の中で、ガチャを回すようなイメージをして下さい〜。あとは自ずと結果が出ますので、それまでじっとしててくださいね〜。あなたに神のご加護があらんことを」


 ガチャ、という今この場にあまり相応しくないと感じる単語。

 それに気が抜けつつ、彼女の言葉に頭の中で従うと。


 何とも言えない浮遊感のようなものが、僕の身に降りかかった。

 そして、頭に浮かんだ文字を見て悟った。


 これが僕の、チュートリアルガチャの結果なのだと。


“C :八百万の神”


 C?

 八百万?

 

「あちゃー、ハズレを引いてしまいましたね〜。コモンの八百万の神々ですか〜」


 ……ん?

 なんか今の言葉に違和感が。


「よしよし」


 という思考は、慰めるつもりなのか、いやに軽いノリで僕の頭をポンポンと撫でてくる女性に中断された。

 ……まあ気のせいかな。

 どうせ外れには違いないだろうし。


 それよりいつまで撫でているのだろうか。

 まるで小さな子どもにでもするような扱いはやめてほしい。

 じゃなきゃ、ママと呼ぶことも辞さない。


 十秒程経つと、満足したのか女性は僕を解放してくれた。

 

 屋内の視線が全部こちらに集まっていて恥ずかしい。


「次は羽根井さんです〜」


 羞恥心とともにほんのちょっぴり気落ちしながら周りの景色の一員になったところで、次の人が呼ばれた。

 その時、辺りがどよっとさわめいた。


「うわ、あの子かわいい」


「綺麗だねー」


「「友達になりてぇー」」


 僕もその子を確認すると、確かに遠目から見ても分かる程、すごく整った顔立ちをしていた。

 騒がしくなるのも無理はないようだ。


 黒髪は背中の真ん中あたりと凛々しい眉毛の上で切り揃えられている。

 パッチリ伸びたまつ毛とくっきりとした二重の瞳は彼女の意思の強さを表しているように感じる。

 透き通った鼻筋と薄くて潤った唇からも、かわいいというより綺麗といった方がしっくりくる。

 引き締まりつつも丸みを帯びたスタイルも相まって、大人びているという言葉がぴったりだ。

 街中で見かけたとしたら、年上のお姉さんだと勘違いするに違いない。


「おい、あの子で間違いないか」


「うん、聞いていた特徴と一致するよ」


「あれが羽根井の一人娘か〜」


「「「友達になりてぇー」」」


 彼女の容姿を褒めちぎる声の中にふと、そのような会話が聞こえた。

 そちらを見れば、育ちが良さそうな男二人と女の子一人の三人組がいた。

 そこらの一般人とは素人目で見ても異なる雰囲気を纏っているような気がするのだけど、そんな彼らが注目するあの子は一体何者なんだろう。


 ガチャを引く際の、祈るかのようなポーズも様になっている。

 託台の光を浴びている彼女は、まるで一枚の絵画のように美しかった。


「おおー。すごいですね〜」


 とにかくそちらを見ていると、僕の頭を撫でた女性が、羽根井さんのガチャの結果を確認して、パチパチと拍手し始めた。

 出来れば是非、その子の頭も撫でてみてほしい。

 どんな反応を示すのか興味がある。


「よければ、あなたのガチャの結果を皆さんに発表してもいいですか?」


 僕の時は特に確認もなく外れだと発言したと思うんですが、そこら辺どうですかね。

 まあ、それ以上に羽根井さんの結果が気になるので、僕は納得することにした。

 果たして、羽根井さんはどう返答するかな。


「構いません」


 容姿に違わず、高すぎず低すぎない風鈴の鳴るような声が、神創殿の中に響く。

 ずっと聞いていたいようなきれいな声だ。


「ありがとうございます〜。羽根井さんは恐らく、ここにいる皆さん、いえ、全国的に見てもプレイヤーの頂点の一人になり得る方です」


 知らずの内に静かになった空間で、誰かの唾を飲み込む音が聞こえた。


「美の女神フレイヤ。彼女のガチャの結果です〜」


 いっそ羽根井さんの美貌に相応しいとさえ言えるガチャの結果に、会場のボルテージと大きな歓声が上がった。

 ミーハーなアイドルファンかのように僕もそこに混じりながら、ガチャという言葉にどうしても、肩の力が抜けてしまうのだった。

拙い文章ですが、ご了承ください。

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