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プロローグ:始まりの声

『みんな、遊ぼうよ!』


 世界でも一部の人間の頭に、初めてそんな声が響いたのは、今から十五年ほど前のことだった。

 その日のことを何と呼ぶかは、国によって違いがあるが。


 とかく日本では、神話に登場する神になぞらえて、こう名付けられた。

“ロキが降りた日”と。

 国民の祝日となった。



- - - - - - - - - - - - - - - - - -


 

「はぁっー!!」


「ブギャー!?」


 青空の下、見晴らしのいい草原で、僕はモンスターと戦っていた。


 とどめのつもりで安物の剣を振り下ろし、切るというよりは引っ張たいて、何とか目の前のゴブリンを倒すことに成功する。


『レベルが3に上がりました!』


『チュートリアルクエストの“何でも五体、モンスターをしばこう”をクリアしました! 報酬として“300神宝石”をプレゼントします!』


 頭の中に響く声を聞きながら、肩で息を整える。

 目の前のゴブリンが完全に動かなくなったことを確認して、ようやく一息ついた。


「ふぅー」


「なんじゃ、わっぱ。たかがゴブリンごときに苦労しているようでは、この先が思いやられるぞ」


 後ろで僕のぎこちない戦いを観戦していた相棒のよろずさんは、そんな茶々を入れてきた。


「……しょうがないじゃん。今までモンスターなんかと戦ったことなんてなかったんだから」


 これでも最初にモンスターと相対した時よりかは、上達しているはずだ。

 初めは、モンスターを見つけても逃げるだけだったしね。


 勇気を出して、一体目のモンスターを傷つきながらも倒して、ようやくまともに戦えるようになったんだ。

 身体の傷の痛みやモンスターに攻撃した時のあまりにリアルな感触に、思わず吐きそうになってしまったのだけど、それも最初だけだった。

 他のプレイヤーも同じ感じなのかな。


 僕は目の前に転がったまま動かないゴブリンを見下ろした。

 ……ゲームって謳っているのにモンスターの死体も残るんだもんな。


 やっぱり、この世界をゲームだと認識するのは危険だと、モンスターと戦って改めて実感した。


「ふっ。モンスター相手にも、その言い訳が通用するといいな」


「……というか、よろずさんは手伝ってくれないの?」


「なんじゃ? 神であるわしに、直接モンスターと戦えと言うのか?」


「そうじゃなくて、なんかこう、よろずさんの力で僕のステータスを強化してくれるとか。いや分かんないけどね」


 僕のレベルでは、まだまだ相棒の能力を引き出すことは出来ないし。

 そもそもよろずさんにそんな力が備わっているかも分かりません。


 それはともかく、レベルが上がった声を聞いたので、僕は自分のステータスを確認することにした。


“プレイヤーメニュー”。


 頭の中で念じると、もう見慣れた半透明の板が、目の前に浮かんだ。



- - - - - - - - - - - - - - - - - -



メニューを選択してください!


▶︎ステータス


▶︎アイテム(インベントリ:8/12)


▶︎クエスト


▶︎パーティーメンバー


▶︎クランメンバー


▶︎マップ


▶︎視聴者情報


▶︎プレゼントBOX(1)



- - - - - - - - - - - - - - - - - -



“ステータス”。


 僕はそこからステータス画面を開いた。



- - - - - - - - - - - - - - - - - -



▶︎基本ステータス


  ▷名前:ともい じん


  ▷性 別:男


  ▷年 齢:15


  ▷種 別:人間


  ▷職 業:つくもし レベル1

    ◯補正:HPを+10

    ◯特性:全ての武器と防具を装備出来る。装備した武器と防具のステータスが1/5となる。

    ◯次のレベルまで:50

    ◯職業スキル:まだ覚えていません


  ▷通 貨:600ガル


  ▷神宝石:0


  ▷ランキング:圏外


  ▷ランク:G



▶︎戦闘ステータス


  ▷レベル:3

    ◯次のレベルまで:50


  ▷H P:33/50(+10)


  ▷M P:12/12


  ▷攻撃力:18(+1)

    ◯武器:ただの剣(攻撃力:5)


  ▷防御力:17(+2)

    ◯防具:ただの鎧(防御力:5)、ただの盾(防御力:5)


  ▷戦闘勘:7


  ▷総合力:120


  ▷※※ :※※※※※※※※※



▶︎相棒ステータス


  ▷名 前:八百万の神 


  ▷レア度:C


  ▷レベル:1

    ・次のレベルまで:50


  ▷戦 力:10


  ▷権 能:不明(解放条件:不明)



- - - - - - - - - - - - - - - - - -



 レベルが上がって、また少しだけステータスが伸びたみたいだ。

 相変わらず“つくもし”のデメリットが痛すぎるけど、こればかりはどうしようもない。

 コツコツ神宝石を貯めて、転職するしかないだろう。

 見れないステータスはなんなんだろうか。


 相棒のよろずさんはレベルが上がっていない。

 戦闘に参加してくれないと、経験値が入らないのだ。


「ふ。わしに力を貸して欲しければ、それなりの強さを示すんじゃな」


「……何それ。そんなのどうすりゃいいのさ」


「さあの。この世界で生き残っていくつもりなら、自分で考えることじゃ」 


「……えぇ」


 僕は肩をガックリさせた。

 それなりの強さって。

 もっと具体的に言ってくれないと困るよ。


 どうして一人で、こんなに苦戦してるんだか。


 いや、分かりきってる。

 チュートリアルガチャでよろずさんを引いたあの日から、こうなることはすでに決まっていたのだ。

 まあ、みんなの前で相棒のことをハズレ宣言されれば、そりゃパーティーを組みたがる人もいないよね、っていう話だ。


 憂鬱さでため息が吐き出そうになるのをぐっと堪え、地面に転がったゴブリンの討伐証明部位である右耳を切り取ってインベントリに入れる。

 死体はこのままにしておく。

 プレイヤーが周りからいなくなってしばらくすると、いつの間にか自然消滅するのだ。

 そういうところはゲームっぽいよね。


 手持ちの回復薬が残り一個となったので、これ以上探索はせず、よろずさんと一緒にリックスの街へと戻ることにした。


 草原を歩いて、街へと続く街道を目指す。

 見晴らしが良い草原なだけに、他のプレイヤーたちがモンスターと戦っている様子も、チラホラと視界に映る。

 彼らの国籍は多種多様なのだけど、その多くは僕と同年代の感じ。

 ここでゴブリンを相手にしているということは、僕と同じくゲームを始めたばかりなのだろう。

 中には僕が見知ったプレイヤーもいた。

 同じ会場でチュートリアルガチャを引いた子たちだ。


「うげっ」


 街道近くになった所で、モンスターとの戦闘を終えて休憩していたパーティーの近くを通り過ぎようとした時、あまり会いたくない人物を発見してしまう。

 運が悪いことに、他のプレイヤーが陰になってて気づかなかった。

 思わず呻き声を出してしまったのが耳に入ったのか、一人のプレイヤーがこちらに目を向ける。

 彼は僕に気づくと、その顔をニタニタ笑いに変えて近づいてくる。

 同じパーティーのメンバーなのだろう二人の女の子ともう一人の男、彼らの相棒も後に続く。

 モンスターとの戦闘を終え、彼らの相棒は皆、“お手玉モード”になっている。

 手のひらに収まるくらいのサイズなので、僕が勝手に呼んでいるだけなんだけど。

 パーティーを組んで大所帯になっている時は、便利なモードだ。

 僕は一人だから必要ないけどね、はは。


 彼らの相棒は、全て動物の見た目をしている。

 まあチュートリアルガチャでは、神様やら精霊やら神秘的な存在が出てくるので、見た目通りではないはずだ。

 遠くから見ても、僕が苦労して倒しているゴブリンを物ともせずに戦っていた。

 羨ましい限りだ。

 モンスターと戦ってくれない僕の相棒にも見習って欲しい。


「おやぁ? ハズレを引いた友井君じゃないかぁ。パーティーメンバーも連れずにこんな所に1人でいるなんて、随分余裕があるんだねぇ」


 ぐぬぬ。

 彼は事情を知っているくせに、鼻で笑いながらそんなことを言ってきた。

 嗜虐的で嫌らしい顔をしている。

 君の可愛らしい相棒を見習って欲しい。

 つぶらな瞳で僕を見つめているよ?


 ハズレ呼ばわりをされたよろずさんの反応が怖くて、ちらっと目線を向けたのだけど、彼女は興味なさげに腕組みをして、彼らを眺めているだけだった。


「パーティーは組んでないかな」


「あぁ、そういえばパーティーを組んでくれる人がいないんだったねぇ? ハズレ君のことなんて、すっかり忘れてたよ」


 それなら、そのままスルーして欲しいところなんだけど。

 彼のパーティーメンバーはどこか気まずそうな顔をしていた。

 なぜ彼が、こんなに僕を目の敵にするのか分からないのだろう。

 いや、理由はともかくとして、一人は知っている。

 彼と僕の関係性を。


「ねえ篠田君。それくらいにしておいたら?」


「……なんだよ、れいかちゃん。こいつの味方するのか?」


「そういう話じゃなくて。単に揉め事を起こしたくないのよ」


 悩ましげに息を吐いたのは、れいかと呼ばれた女の子。

 茶色かかった黒髪のポニーテールと、中学校を卒業したばかりだとは思えないほど、大人顔負けの抜群なプロポーションを持つ女の子だ。

 おまけに顔も整っている。

 雑誌モデルにスカウトされたけど断ったと、中学の時に彼女に聞いたことがある。


 そう。

 篠田と僕、れいかは、同じ中学の出身だ。


 彼女は僕と篠田の仲の悪さを中学の時から知っている。

 理由までは分からないだろうけど。

 って言うか僕も、人伝で聞いただけで本当かどうかは分からない。


「……絡んでもお互い良いことないからさ。僕を見かけても放っておいてもらえないかな? 僕が変な声を出して、そっちの気を惹いたことは謝るからさ」


 めんごめんご。

 僕の言葉を聞いた篠田は憎々しげに眉間に皺を寄せ、れいかは悲しそうに眉尻を下げた。

 れいかにそんな顔をされると申し訳なく思ってしまうのだけど、まあしょうがない。

 僕も揉め事を起こしたくないし。


「ははっ。確かにわざわざハズレなんかと絡んだってしょうがないよねぇ。それなら、そのしょぼそうな光るだけの球と仲良くやってなよ」


 篠田がよろずさんを一瞥し、そう吐き捨てると、れいかは目を丸くして僕とよろずさんを交互に見た。

 他の二人は不思議そうに首を傾げる。


「それじゃあ、僕は行くよ」


 篠田にというよりは、れいかに向かって声をかけると、僕たちは足早にその場を去った。

 街道に出たところで、よろずさんに謝ることにする。


「ごめんね、よろずさん。ハズレ呼ばわりされたのに、何も言い返さなくて」


「別に気にしとらんよ。幼子の癇癪に腹を立てるほど、気は短くないつもりじゃ」


「そっか。ありがとね」


 よろずさんの懐の広さに感謝してよ、篠田。

 これで彼女の気が長くなかったら、神様パワーが火を吹いたところだ。

 まあそんな力が、よろずさんにあるのかは分からないのだけど。

 

 という少し失礼な思いを悟られないように気をつけながら、夕焼け色に染まった街道を歩いて街へと帰っていく。


「はあ」


「なんじゃ、わっぱ。ため息ついたら幸せが逃げるぞ?」


「はは。そうだね」


 先を思いやられて吐いたため息が、もう出ないように上を向いて、僕はふと、一ヶ月程前に相棒のよろずさんをチュートリアルガチャで引いた時のことを思い出した。

拙い文章ですが、ご了承ください。

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