ゲームスタート⑤
「また城内で煙草を吸われましたね。外で、と強く申し上げたはずですが、こちらは覚えていらっしゃいますか。」
「うげ、何でバレたの?臭いかな。」
「灰がしっかりと廊下に落ちていました。また歩きながら火を点けたのでしょう。」
心からしまったと後悔する魔王。
「あちゃ~、ごめんごめん。戻ったら掃除しておくよ。」
「そうではなくてですね―」
もう呆れるしかない華。掃除は済ませたということを伝え忘れてしまった。
ここで終始ニヤニヤしていた魔王の顔が引き締まった。
「序盤に関しては概ね片付いたけれど、どう?動き出した勇者はいる?」
「ええ、そのご報告に伺ったのですが、3組程。最初の村を出発した模様です。」
それを訊いて納得した魔王。華はつまらないことで自分を訪ねたりはしない。きっかけとして煙草の話題を振ったのだ、多分。
「後から時間あるかな。勇者達の動きを見ながら序盤の調整と確認を一緒にしたいんだけれど。」
「かしこまりました。いつでも構いませんのでお声を掛けて下さい。」
「助かるよ。宜しく、ネ!」
とブイサインを出してポーズを決める魔王を無視して華は身を翻して城内へ戻ってしまった。独り残された魔王はブイサインもそのままに曇天の空を仰ぐ。あれからおよそ3ヶ月。準備期間としては非常に長く感じられた。
屋敷の執事としての華の日常は多忙を極める。本人の為の時間は最小限度も与えられていなかった。そのような要請を現魔王が行うとは考えられず、華自らが課している業務であるようだ。魔族の平均睡眠時間がいかほどのものかは知らないが、少なくとも魔王は華が眠ている姿を見たことはない。無論、寝室を覗くなどという野暮なことをしたことはないが、腐っても魔王、気配位は察知できる。人間族と比較するとずっと短い時間で済ますことが可能なのだろうか。ちなみに魔王はしっかり8時間は眠る。何なら週に2、3度お昼寝する。あと、週に1度は朝寝坊して布団をひっくり返される。加えて、フライパンとお玉を耳元でガンガン叩かれたことも1度や2度ではなかった。