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あいつが勇者で、俺のジョブが道具屋だとⅡ
【第1章 ゲームスタート】
その者、黒き衣を身に纏い、無数の悪魔を召喚す。石を操り土を組み立て、魔族の要塞を錬成す。右の拳で海を割り、左の掌で山を崩す。人間、勇者は言うに及ばず、無に帰すは世界そのもの。その前提と習わしを忘れてはならない。
元は力のある勇者だったから、能力の基礎基本を習得するのに時間はかからなかった。書き換えをするようなもの。紅い炎を黒い炎に、白い光を漆黒の闇に、白銀の鎧を暗黒の衣に。大きな問題ではなかった。特に暴走をする類のものではない。そもそも勇者と面と向かうまでは使う機会もない。ラストバトルなど、魔王業務の一端でしかない。目に見える仕事が派手に映るだけで、そこ意外を切り取ってしまえば孤独で暗いジョブである。