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お金(あめ)の使い道

前倒し2話目。連休の方は良い休日を

 翌日、黒い頭巾の猫(初日に城内を案内してくれた尻尾無しの子)経由で立花様からのお呼出し。


 六畳ほどの広さの控えの間で待っていると、襖の向こうの廊下から物騒な会話が聞こえてきた。赤ノ国との騒動で仲裁をしていた黄ノ国がサジを投げたらしい。残念ながら通りすがりの誰かの会話だったのですぐ聞こえなくなった。


 交渉を拒むということは、どうやら赤ノ国は完全に敵対の道を選んだようだ。白ノ国からどんな要求を突き付けたのかなど詳しい内容は分からないが、仲裁役にもうダメと諦められるのでは平和的解決はもう不可能だろう。

 このまま断交して硬化するのか、あるいはさらに攻撃的になるのか。他の国の立ち位置が気になるところだ。特に名前こそ知っているがほとんど話に出てこない藍ノ国の動向が気になる。


 そもそも赤の戦力は白に対していかほどなのだろう。国力と兵力は密接にかかわっているとはいえイコールではない、仮に武力に偏重していた場合は国が疲弊していても短期決戦なら十分戦えるかもしれない。白の国力を落とすための工作をしてくるあたり、赤は間違いなく開戦も視野に入れているだろう。


 妖怪でも集団の規模が大きくなれば人間のように争うのか。集団の小競り合い程度ならともかく、戦争は人間の専売特許と思っていたよ。




 通された一室は入城初日に査問を受けた部屋だった。あの時は室内を見回す余裕もなかったが、今日はいたって平穏に調度品やらを眺めることができる。達筆すぎる草書の掛け軸や金魚の描かれた絵皿なんてさっぱり価値は分からないけど。


 今回は立花様のみとお目通り。いつもの紋付袴かと思いきや、今日は袖のない肩衣で幾分ラフな出で立ち。

 見ての通りの厳格な方のはずなのに、どちらかといえば格式ばった恰好よりも多少崩した気安い姿というか、こんなちょっとワイルドな姿のほうがシックリくる気がする。武器の付喪神だからだろうか。


 まあ最近暑いしね、格下相手にいちいち着込みたくないのだろう。とばり殿との雑談で聞いた話では今は文月らしい。幽世の暦をそのまま現世の旧暦に当て嵌めていいものか分からないが、体感的にまんま7月あたりと思われる。現代の7月よりはずっと涼しいけど。特に夜は熱帯夜とは無縁でいたって快適だ。地理的に寒い地方の可能性もあるが。


 挨拶もそこそこに手に入ったポイントをお渡しする。

 3000ポイントから7割で2100ポイント。こんな風に数千単位で渡せるのも未解除の実績が多い最初のうちだけだろう。ごく近い将来、踏破だけのみみっちい稼ぎで糊口を凌ぐことになりそうだ。いっそジョギングでも始めて少しでも歩ける距離を増やそうか。いや、それだと下界でも幽世でも四六時中歩いてることになるな。忙しないってレベルではない、鍛える前に足がイカれそうだ。


 立花様へポイントをお渡ししたさい、次から1週間毎でよいと言われた。ある程度信用を得られたのか、もしくは赤との関係が決定的に悪化したことで戦力として数えられたのか、たぶん後者だろう。屏風覗き自身はまるで戦力にはならないが、スマホっぽいものから呼び出せるキューブはポイントが潤沢なら大量虐殺も可能なのだ。立花様からすれば銃の弾込め程度の感覚と思われる。


 そして今回働いた褒美として金銭を頂いた。きつねやで最初に立花様にお会いしたときと同様、黒頭巾の猫(茶虎、たぶん二度目のご対面)が膳に乗せた白い最中みたいな塊を持ってきた。


 20両。うわぁ、小判、うわぁ、そんな感想しか出てこない。白い紙に草書で何か書かれていて、ひと包み10枚の小判。庶民には無意識に変な汗が出来るほどの大金だ。

 小判5枚で400万円、つまりこのひと包みで800万円である。それがふたつで1600万円。どこぞの富豪なら一瞥もない金額だろうが、小市民なら一桁小さくてもポンと出されたら挙動不審になるだろう。


「御前の期待を裏切るなよ」


 そう締め括った立花様は、これは我からだと言ってもうひと包みを放って寄越した。


 計3200万円、怖い。大げさでなくマジで怖い、何なのコレ、こんなん持ってられるか。


 半分恐慌状態のままとある事を思い出し、立花様が退室する前にひなわ嬢の事を聞いてみる。白金氏の話を信用しないわけではないが、やはり安否は気になっていた。もし治療や出費で金銭的に困っているならこのお金でなんとかなるかもしれない。


 あのときはひなわ嬢にとても助けられた。いくら自動防御で怪我を負わなくなったとしても、連れ去られる危険はあったのだから。思えば彼女が強引に付いてきたのも、あの姉妹に不穏な気配を感じたからかもしれない。なら、あの被害は半分屏風覗きのせいといっても言い過ぎではないだろう。


 立花様にこいつまた変な事を言い出したな、という顔をされたものの、座り直してある程度詳しい話をしてもらえた。どうも使っていた『皮』がダメになってしまい困っているらしい。


「アレも術はからきしでな、姿は皮の出来がすべてだ」


 現在の幽世で『皮』を入手するには『鬼女』という妖怪(人物)から買うくらいしか方法が無い。しかし『良い皮』となると金額は青天井なんだとか。

 そして渡した褒美と私財を合わせても、その金額で手に入る『皮』では不満があるらしく、ひなわ嬢の職務復帰はまだ決まっていないという。


「贅沢を言わなければ何枚でも買える額だ。面倒なやつめ」


 しばらくは静養という名目で待ってやるが、あまり長引くなら叱責するつもりと言われて考える。いや、考えるまでもないな。

 せめて深く頭を下げて、頂きものを突っ返すような行為を謝罪しよう。


 無礼者、切腹とか言われたらどうしよう。




 袖に入った全財産、『文』『朱』『分』に新たな仲間が加わった。名は『両』。幽世の上位通貨で1枚8000文の庶民的な店ではマジで嫌がられる貨幣らしい。高すぎてよほど品物を買わないとお釣りが大変なことになるし、小市民が持っているとちょっと怖くなるほどの価値だからだそうな。

 うん、スゴイ分かります。


 手の中で転がす10両の包み。すまない、ひなわ嬢。いっそ気持ちよく全額といければカッコよかったかもしれないが、生憎屏風覗きはお返しの品やお礼をしなければいけない相手が団子状態なのだ。しかもちょっとタオルやら贈答用のハムでも送ればいいという方ではない妖怪(人物)も混じっている。


順不同で


『将棋盤一式』←見回り組のケツ持ち『蝦蟇がまの牛坊主様』

『碁盤一式A』←頭巾猫衆、イケボキャット白金氏こと『みるく様』

『碁盤一式B』←商人会頭取『織部ころも、きぬ様』

『ちゃぶ台』 ←式神、『手長足長様』

『大量の薪』 ←守衛組一同

『米俵一俵』 ←見回り組一同

『湯飲み一式』←とばり殿


 ナンデ? そう言いたくなる方が混じっております。ナンデ?(二回目)


 最大の問題、牛坊主様と織部様は帰参の挨拶でちょろっとだけ顔を見ただけなのに。組織繋がりで相手に関係なく手配しているのだろうか。こういうのが一番困るぞ、どんなお返ししなきゃいけないのか、相場も作法もまるで分らない。

 誰かに聞ければいいのだが、知り合いでこのクラスの応対を知る妖怪()がいるだろうか。強いて挙げるなら立花様だが、返す相手にその立花様とバチバチらしい牛坊主様がいらっしゃるので聞き辛い。


 そういった困ったとは違うが、白金氏は碁盤が届いた日に初めて名前を知って衝撃を受けた。なんてファンシー。意外と若い方なのかもしれない。この方もこの方で何を送ればいいのやら。


 手長様と足長様から頂けたのもかなり意外だった。チョイスもちゃぶ台と謎である。いただいたのが物なので、お返しを同じく物にするか無難な消え物か、悩ましいところだ。


 守衛と見回りはとばり殿とひなわ嬢繋がりだろう。こちらは数も多いし、手軽な消え物あたりで大丈夫だろうか。


 そしてある意味、一番難しいのがあの子。

 幽世で初めての友人で、小さく大きく何度も助けてくれている恩人。優しいお節介焼きへの贈り物。

 考えてみたら出会ってそこまで時間も経っていない、けれどとても大きな存在になった小さな守衛さん。さて、どんなものを喜んでくれるやら。

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― 新着の感想 ―
[一言] 手長足長姉妹は自分達が入り浸るためにちゃぶ台を持ってきた説。 とばり殿へのプレゼントは難しそう。 なんでも喜んでくれそうだけど、高くても低くてもなー。
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