とある歌の「弓をひいて矢をつけて」という歌詞は手順が逆ではと訝しむ。なお石弓の場合は正しい
いつも誤字脱字のご指摘をありがとうございます。
免許更新に行ってきました。ゴールドなので30分で済むのですが、会員も自動で5年縛りなのがモヤ。
センターは土地の開けた田舎にあるので、この季節は緑や田んぼのにおいの乗った風が吹いて気持ちよかったです
このまま浦風一座の寄席を観ていくのかと思ったらお暇は意外に早かった。
まあ話題になった一座の演目はつい先日に全て観てしまっているので、改めて楽しむにしてもある程度は期間を置くのが妥当だろう。
「せっかくの祭りなのよ? 芝居を観るからって小屋に引き籠ってたら城にいるのと変わらないじゃない」
芝居は嫌いじゃないけどわざわざ今じゃなくてもいいという、茜ちゃん様の言い分もごもっともである。楽しみ方はそれぞれとはいえ、外でお祭りしているときに映画鑑賞も無いものだ。
そうして再び祭り囃子で賑わう町へ。ただ店を見回り冷やかすばかりもあれなので、どうせなら参加して楽しめるものがいいかと知り合いの出している的屋に向かう。
的の屋と書いて的屋。
縁日なんかの出店や興行全般を指す言葉だが、元を突き詰めるとクジなどで景品を当てるちょっといかがわしい店の事。言うなれば簡単な賭場に近いものである。
現代ならいわゆるゲームセンター。もしくはパチとかスロとか称するやつが近いかな。あれは国の見解では賭博じゃないそうだけどね。
「あらん!? まあまあ団体でようこそいらっしゃいましねぇ、皆様ぁん!」
ムシューというスチームみたいな鼻息を出して出迎えてくれたのは、顔が牛で体が2メートル越えのムキムキマッチョメンという屈強すぎる経立。
的屋元締め、吟牛氏。その体格と筋肉に反して口調と仕草はオネエという情報量過多の御仁だ。
いや、知り合いが商売ってるところと知ってはいたけど、運営のリーダー格として忙しくあちこち見回ってる彼、もとい彼女がいるとは思わなんだ。
「ちわー」
「あーら白雪様ぁん。ご友人たちと祭り巡りですかぁん?」
無駄にクネクネしている牛に気安く声をかける白雪様と、それに臆することなく受け答えする肌の熱量高めのオネエ。世の中は肝の据わった女性とオネエほど度胸のある生物はいないなぁ。
対して思わず硬直したのは茜ちゃん様と飛目ちゃん様。特に赤しゃぐま様は思わずビクゥッ、となったのが手を繋いでいたので丸わかりだった。
うん、ビックリするよねこれは。白はジェンダーフリーにおいても四国の最先端なのだろう。
「むや?」
「そう構える事はないさ。この牛は生き物を取って食ったりはしないよ。酔っていなければねぃ」
平気だよ? みたいな顔で茜ちゃん様の袖をクイクイする足長様と、相方の言いたい事を言語化してやる手長様。
普段は頭も回るし愛想も良いインテリマッチョなのだが、とかく酒癖が悪いのが玉に瑕というバイセクシャルカウ。
昔を知っている知り合いの話だと。泥酔すると暴れる上に本当に力加減が無くなってマジで危険だったらしい。
しかしそれも今や昔。妖怪として誓いを立てて節制しているので、もうそこまで怖がることはない。
妖怪の誓いは人間の言い出す禁酒や禁煙とは訳が違う、妖怪にとって約束とはとても重いものなのだ。
「こ、怖がって無いわよ! 怒った彌彦の方がよっぽど怖いわっ」
そりゃ怒ったあの方と比較されたらだいたいの相手は怖くなくなるでしょうよ。
顔に寸止めで拳なんて振られた日には円形脱毛になるレベルだもの。実体験したもの。毛根へのダメージ甚大だもの。あ、今でも思い出すと手が震えそう。
関係ないけど猩々緋様は親しい相手を略称で呼ぶ傾向があるな。
例えば今みたいに悪鬼頭の彌彦様なら『やひこ』と呼び、手長様を『手』、足長様は『あし』、金毛様は『こん』だ。
ちなみに例外もあり、名前が弥彦の黒鬼さんはそのまま『やひこ』か『黒』呼びである。
前に混同するんじゃないかと思い聞いたところ、『やひことやひこはどっちも一緒みたいなもの』という奇妙な返しをされた。ホワイ?
ツンデレな茜ちゃん様の可愛らしい愛称呼びの話はともかく、皆で射的など楽しみに来たのでお願いしたい。
「く・そ・びょう・ぶぅぅぅぅっ!」
愛称をからかわれたのが嫌だったのか、顔を真っ赤にして弱い力で組み付いてくる猩ちゃんが可愛い。
もうこの子ったら腕四つが好きねぇ。プロレスを教え過ぎたかしら。おっといけない、屏風の精神までオネエワールドに侵食されている。
「畏まりましたぁん。一回で三射、弓はお好きなものをどうぞぉん。どれも弦の張りは一緒よん」
射的屋の店主を差し置いて、まるでベテランの店番みたいに音頭を取る吟牛氏よ。
まあこれは元締めとして正しいフォローだろう。
ニャンコとギャルとチワワと式神コンビ。ぞろぞろと現れる面子に目玉が落ちそうなほど見開かれて、ガチガチに硬直していったのがよく分かったもの。
遊びたくても訪れた初めから『どうしたらいいのか分からない』って顔で、店員にフリーズされてはねぇ。
なおここの店主は顔がふてぶてしいオッサンで体が犬という、いわゆる人面犬である。
幽世に来たばかりに見たら正気度が減っていただろうなぁ。完全な人の姿もとれるそうだが普段はこの半端な姿が一番楽らしい。
「景品はいくらでも用意しますわぁん。たくさん遊んでちょうだいな」
ここの射的は的当て。的に当てた点数の合算でもらえる景品を選べる。当てても絶対に転げ落ちない不正は出来ない良心的なタイプだ。
昔の縁日だと高そうな景品は釘で固定されていて、何発コルク弾を当てようがまるで落ちなかったなぁ。種を知って大人の汚さを学んだ苦い思い出である。
的は3つ並んでいるので3名ずつ遊ぶ事にする。第一陣は飛目ちゃん様、足長様、白雪様だ。
こういうのは一緒に一喜一憂する賑やか担当がいると楽しいもの。トップバッターのお三方を全力で盛り上げて参りましょう。
実際こういう店は客の賑やかし担当がいるのだが、この面子を見た途端に『無理ッス』と言わんばかりに首をブルブル横に振って物陰に隠れてしまった。しょうがないので屏風と吟牛氏で頑張ろう。
「いしちゃぁーん教えてぇ。私弓はやったことないの」
そこに困り顔の飛目ちゃん様が自分の弓をみょんみょんさせながら聞いてこられる。
弓というほど立派なものじゃないのでお遊びとして適当にやっていただければ。
なんて言うわけにもいかないので、屏風で良ければとご指南させて頂きましょうか。
たまに飲兵衛たちと酔い覚ましにやってるのだ。本来の弓術はとても無理だが射的程度なら難しいことはない。
むしろ正式な弓術を修めている方のほうが普段と勝手が違うので戸惑うらしいね。知り合いの話だとあの矢盾さえ射的の弓はわりと下手だそうな。
口頭ではよく分かんないと仰るギャルの背後から、ちょっとした二人羽織みたいな姿勢で弓を引く。体格差があるからこそ出来るモーショントレースによるお手本である。
「うひょう」
飛目ちゃん様はお三方の中では一番身長が高いけど、それでも幽世の人型妖怪は小さいな。ただ少し圧迫してしまったようで変な声を漏らさせてしまった。いや申し訳ない。なるべく体がつかないようにしないと。
さて、射撃で共通するコツはまず打つ姿勢。次に弾の落下を勘定に入れる。そして両眼を開いて狙う事である。byひなわ嬢+矢盾。
特に弓の弾道は曲射に近いので弾道落下は重要だ。ただしこれは本来の弓術の場合であり、お遊びの距離ではほぼ直射と同じなので大事なのは弓の固定と狙いだけ。
目の機能は左右で密接に連動しているので、片目を瞑ると視力が一時的に低下してしまう。そのため両方とも開いていたほうが正確に狙いやすい。
なお余談だが、利き腕の矯正をした人は自分の利き目について一度調べてみたほうがいい。片目を瞑って見えている視界が両目と同じ映像の方が利き目。ズレているならそうでないほうだ。
生まれつき左利きの人はまず間違いなく目や足も左利きなので、手だけ右利きに矯正されると視線の焦点がズレる問題が起きる。これがスポーツをするうえで結構なデメリットになるのだ。特に球技は。
ボールが見えているのに野球でうまくバットに当てられない、ミットでうまく捕れないのはこれが原因だ。矯正されて利き目と利き腕の関係がチグハグになっているから見えていても真芯を捉えられないのだ。
いやまあ、今関係ないけどね。無造作に右で弓を持たれたので。飛目ちゃん様は実は左利き?
「昔はそうだったみたい。もうお箸と筆は右しか使えないんだけどさー。あんまやらない事は左が出るんだ――――あ!」
話をしながらふたりで放った矢は、タンッと小気味いい音を立ててうまいこと的に当たった。玩具とはいえ刺さるという意味では本物と同じ仕様だから、これでなかなか良い音がする。
命中を見て『あたぁぁぁりぃぃぃ』という、客引きを兼ねたよく響く吟牛氏の合いの手が掛けられる。
いやいやよかった、こここまでやって外していたら大笑いだよ。
「――――へえ。クソ屏風、我にも教えなさい」
教えるまでも無く綺麗なフォームでごさいます。あと的は向こうです。
「あらありがと。まあ簡単よね、こんなもの。矢をつがえて弓を引いて、後は助平の頭を狙うだけだもの」
人に向けてはいけません!
《実績解除 Monarch Jealousy 1000ポイント》




