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貴人警報発令中。総員、対フリーダム防御!

誤字脱字のご指摘をいつもありがとうございます。


たまに道路に落ちてるホイールカバーを見ますが、あれって走行中の風圧とかで落ちるんでしょうかね? そういえば前にこの前書きで落ちてる軍手の謎について教えてもらった事がありました、その節はありがとうございました( 'ω')

「ふーん、まあまあ洒落(しゃれ)てるじゃない」


 お祭りでいつも以上に賑やかになっている南町の往来で実に尊大に、対して実につつましい胸を張りつつ町並みをそう評価する『旅芸者の茜ちゃん』様。


 自慢のフローティング駕籠を使わずここまで自分の足で歩いてきた彼女は、意外に健脚で疲れた様子は無い。


 ただ妖怪()の行き来の邪魔だから道のど真ん中で立ち止まるのよしなさい。


 どうしても色町としての印象が強い南町。しかし本番はあくまで日が暮れてから。日中はむしろ芸能の町として活気があり、商売町の西ともまた違った華やかさのある地域である。


 あちこちに突き立てた祭りのぼりの柄も実に色彩豊かで、春風にハタハタと(なび)く様は眺めているだけでも気持ちが上がってくる。


「芝居に歌舞伎、絵草子に玩具売り。どこも盛況さ。祭りでなくても昼からは賑やかなものだよ。ひの――――おっと、茜殿もここで一芸を披露しては如何かな?」


 屏風(これ)の肩に乗った手長様が緋の方、つまり猩々緋(しょうじょうひ)さま扮する芸者の茜に観光案内をしてくださる。

 なお肩車ではなく片方に座っていらっしゃるから地味に肩と腰が辛いです。筋肉を見せつけるようなポーズで腕を上げておかないと、手長様の小さなお尻でもズリ落ちてしまう。


(わえ)の芸は路傍でやるほど安くないわよ」


 手長様のちょっと皮肉混じりの言葉にツーンとそっぽを向く茜ちゃん様。


 そうは言っても芸者っぽい恰好をして三味線まで背負ってるせいか、意外なほど南町に馴染んでいる。やはりお三方の中では一番庶民くさ、親しみやすいからだろうか。


「だぁれが庶民臭いかぁっ! 誰がぁーっ!」


 白昼の往来で突然キレたあげく、白く細い腕で組みついてくるのはやめていただきたい。体格的にこっちが小さい子に圧し掛かってるようで、その見た目がすでに事案であるからして。


「しゃがみなさいクソ屏風ぅ! この()を見下ろすな!」


 間に合わせの安いぽっくり下駄でローキックをかましてくるのも地味に痛いからやめて。それと今のあなたは旅芸者の茜ちゃんです。

 つまり跪く理由皆無。もっと庶民らしく小市民の屏風覗きともフリンドリーにしてどうぞ。


 きぃぃぃぃぃ、という悔し気な奇声が下から聞こえてくるが、これはこの世を忍ぶ姿で外に出たいと仰った時からの約束だ。


 芸者の茜として城の外に出るならお持ちの権威を振りかざさず、白の町妖怪(町人)たちに迷惑をかけない事。これを守るというから護衛の黒鬼、弥彦様とひょうとくさんから外出OKが出たのである。


 まったく。お城から出たばかりの奥周りの段階からこんな調子なので、こうしてずっとリードみたいに手を繋いでいないといけなかったのだ。


 それでも中周りまで来るとさすがに勝手が分かってきたかなと、安心したら途端にコレである。いやまあ、手長様と一緒にからかったのは悪かったけどさ。


 それでも大人しく楽しまれるなら向こうで足長様と店を回っているフリーダム×2のように、ご自分で好きに回ってもいいと言っているのに。何かと言うとすぐ小型犬のようにキャンキャン騒ぐのでさっきから手が離せないわ。


 外出にあたりさすがに本格花魁ファッションは動き辛いということで、もはや痴女、もといだいぶラフな花魁になった飛目(ヒメ)ちゃん様はヘソ出しルックで町妖怪(町人)たちを驚かせている。


 これまでの事から式神コンビにさえ慣れている南の商人(あきんど)が『ファッ?』という顔をするのは、その正体を見抜いたからばかりではあるまい。春とはいえ寒くないのかね。


「いしちゃんいしちゃん、この飴買って! 食べるとすごいムラムラするんだって」


 おい待てハーフ花魁ギャル。どこからそんな怪しい飴ちゃん見つけてきた。そりゃ南だからソッチ系の商品も売ってるけどさ、祭りの期間はこういう商品を表通りには置かない取り決めのはずなのに。


 あっちと指さした先ではすでに店を畳んだ売り子がすげえ速さで逃げて行った。店と言っても路上販売、道に広げた包みを引っ掴めばすぐに商品抱えて逃げられるのである。


 でもまあ、巡回していた見回りと山ン本組の若い衆らが目を血走らせて追いかけて行ったのでほどなく捕まるだろう。たぶん他国から来た流しの商妖怪(商人)だろうな。


 どちらかと言えば見回りに捕まるといいね。南は山ン本の縄張りだ。モグリの商売なんてしたらケジメは大変な事になると思うから。南無。


 いつもなら『待てコラぁ!』以上の強烈な恫喝と共に追いかけていくところだが、お上から『祭りの期間は町に貴人が紛れるやもだからお行儀よくしてね』と事前に通告してあるので口汚い罵声もなく、どちらも無言で追いかけていくのが逆に怖い。


 とにかくその飴ちゃんはナイナイしましょうね。


「えー?」「えー?」「むゅあ」


 はい、同じ袋持ってたキャットもシンクロしないの。怪しいものは買わない、食べない、お薬ダメ絶対。

 足長様はもう『味が微妙』みたいな顔で、モゴモゴと大粒を口にしちゃってるけど、ペッしましょうね。毒も薬も平気だろうけどさ。


「ねえ、それどうすんの?」


 ここで袖ならぬ繋いでいる手をクイクイ引いてくる茜ちゃん。


 食べ物は粗末にしちゃいけないのは当然ですが、それでもどんな薬物で汚染されてるか分からない代物はさすがに食べるわけにはいかない。


 一応、さっきのやつが証拠品を処分した場合に備えて見回りの詰め所にでも放り込んでおくのが妥当でしょう。あと山ン本にも。ちょうど包みがふたつあるしね。


 ――――それを見越して飛目(ヒメ)ちゃん様の他に飴を確保していたとするなら大したニャンコ探偵である。町を守る役人と極道一家、どちらの顔も立てる名采配ここに極まれり。


「じゃあ次はあっちの春画売りに突撃ーっ!」


「いえー」「いえ!」


 そこの仲良しトリオ止まりなさい! あとその店はたぶん春画じゃなくてただの絵草子、つまり絵巻売りさんです。着崩しの美人画がやたら多いけど!


 なんて止めたからとて止まってくれる方々でもないなあ、もう。興味の対象に突っ込んでいく判断の速い事。


 まああの絵売りさんは以前から南で商売している方なので、そこらのチンピラよりよほど肝は据わっているから大丈夫だろうが。


 実際フリーダムムーブをかますツートップ+αが相手でも決して臆すことなく、顔にかいた脂汗をさりげなく拭い、最大限の笑顔を張り付けていらっしゃる。


 ロイヤルな方にお会いした緊張から汗をかいたことはありませんか? そんなときは○○印の油とり紙。とか今ここで実演販売やったら絵より売れそうだ。


「女のクセにやらしいわねぇ――――ねえ、あんたもああいうの好きなんでしょ?」


 知り合いからの酷すぎる先入観で絶望するわ。


 なぜか見知った全員から『屏風覗き(こいつ)はやらしい』という共通認識があって不思議でならない。


 これはきっと下半身の防御力が著しく低いどこかの姉のせいだろう。マナーとしてすぐに視線を逸らすとはいえ、どうしたって目が行くのはしょうがないのでは?


 なお売られている絵はいわゆる浮世絵風なので、正直屏風覗きは普通にピンとこない画風です。

 関係ないけど日本画はあえて女性の顔に個性をつけずに描かれるそうだけど何でだろうね?


「ふーん」


 人にとんでもないことを聞いたクセにどうでもいいような口ぶり。むしろ子供妖怪である赤しゃぐま様の興味の対象は押収物の飴の袋か。


 違法薬物混入の可能性あるのでこれはダメです。もしくは効能を詐称した普通の飴ちゃんかもだが。


 今の赤は日々の食事も粗食で耐えるしかない貧乏所帯。飴ひとつでも貴重な甘味だし、ちょっと惜しいと思っているのかな。


 情けないと言うなかれ。これこそ君主が率先して国難に立ち向かっている何よりの証である。国の財政が傾いているのに自分は贅沢してるようなトップなんて、それこそロクなもんじゃないだろう。


 ああいけない、春の風が運んでくる埃が目に。飴は日持ちもするし、次の贈り物に多く入れときますからね。


「はははっ、いつか餅や飴を撒ける身分に戻れるといいねぃ」


 思わず大げさなジェスチャーで鼻をすすると、肩の上の手長様まで乗っかってくる。


「このっ、いつかなんて夢みたいに言ってんじゃないわよ! 赤は絶対に返り咲いてやるんだからね!」


 ふたりの友にからかわれてプンスコと怒る小さな君主様。そんな諦めることなく怒れる君にも、可能性の春が届きますように。


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― 新着の感想 ―
[一言] 待って!その子は好きな人と手を繋いでお出掛けできてテンション高いだけなの!許してあげて!><
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