自称、従軍記者の反省会
いつも誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
最近歯科に通っているのですが、歯茎に刺す麻酔はまだしも、その後のかぎ針で歯をゴリゴリされるのがいつまで経っても慣れません(泣)
ああ緊張した。あれだけの妖怪たちを前に報告会とか、何を喋ったかあまり覚えていない。室内とはいえやたら広いから拡声器無しではいらん声を張り上げなきゃいけなかったわ。おかげで地味に喉が痛い。
せめて報告書とかの準備くらいはさせてほしかった。近いものがあればプロジェクターにマイクも欲しい。
まあ実際そういう資料作れと言われたら、それはそれでひたすら面倒に感じるけど。
一通りの報告の後は上座から聞こえた鈴の音に合わせて一旦お開きとなり、この後は夕飯を兼ねた宴に突入する模様。
大広間に揃っていた何割かはまだ仕事、もしくは早番なので全員参加はしないがほとんどの妖怪は残るようだ。
襖ひとつ向こうで次々と運ばれてくるお膳の上のカチャカチャと揺れる食器の鳴る音や、オフモードになった妖怪たちの談笑が聞こえてくる。やっぱオネェいるな、オッサンの。
「屏風よ、貴様はなんというか」
締まらんなぁ、そうしんみり呟いた立花様に無性に申し訳ない気分になる。ここまでじっとりと残念な生き物を見る目でため息をつかれては言い訳する気力も湧かない。
宴の前に別室に呼び出された屏風覗きは立花様の前で再び正座中。改めて詰問を受けております。内容はふたつ、ひとつは『お伽衆の屏風覗き』が求められた成果の行き違いについて。
何のことはない、白ノ国は最初っから屏風覗きに槍働きなんぞ求めていなかったのだ。要するに従軍記者というか見聞きしたことを『お伽衆』として演説するだけで十分。ろくろちゃんや手長足長様の活躍を語ったあとは物語を締めればそれで終わり、めでたしめでたしのはずだったというね。
それなのに活躍の無い事に焦って見栄張って、ええカッコしいがポイント献上なんて言い出したからさあ大変。これが特に大きい問題、献上したポイントについて。
大見栄切って5000と言ったはいいけど、実質の内訳は非常に残念なものになっているせいだ。
元より屏風覗きと白ノ国の契約として、手に入れたポイントは7割を国に渡す約束になっている。
幽世へ戻る際に実績解除で5000ポイントを手に入れたことに気が付いたのでそれをまるっと渡した形だが、これでは計算が合わないのだ。契約上、実績解除分の5000から7割で3500は初めから白ノ国の物になるのだから。
つまり屏風覗きから個人の献金ならぬ献ポイントで渡せるのは、こちらの取り分からの1500だけ。
踏破で得た分も加えればもう少しマシになるものの、あの場でみみっちく端数を言うのも憚られるので切りよく言った次第。ちなみに踏破分は『要塞?』の中をウロウロした分も加わったのか累計272ポイントで端数が出てしまっていた。
今日の開始は130で272ということは本日の踏破分は142ポイント。142の7割は99.4ポイントで、端数はこちら分なので99ポイントをお渡しして残42.6、つまり取り分は端数0.4を差し戻して43となる。
合計130+43+1500で屏風覗きの総ポイントは1673ポイント。あー、めんどうくさーい。
つまり実質的に屏風覗きの財布から献上できるポイントは報告でぶち上げた5000とは比べるべくもない、たった3割程度しかないという話。あ、最初の軍資金として頂いた分は勘定にいれなくていいそうです。これまで返すとなったらいよいよ雀の涙だった。
「まあ、出した軍資金から考えれば増えたとも言えるがな」
庶民からすれば1000ポイントでも一財産、しかし大きな砦を落としたにしては少ないんじゃね? とモヤっと感じる微妙すぎな成果に立花様も困惑するしかないようだ。最初から計算して1500と言っておけばよかった。
単純な四則演算で引っかかる屏風覗きは、数舜で難解な数式をゴリゴリ解ける数学強いマンには一生なれそうもない。
「いいじゃないか、命じられたお役目は果たしたんだ。身の程を弁えず手柄に逸る輩より良い」
そう擁護してくれたのは手長様。どうやら挨拶の最初からこの別室で待機していたようで、これから始まる宴より一足早く湯を張った桶にゴッチャリ用意された熱燗とっくりを口に咥えては、クイッと天井を仰ぐことで手を使わずに中身を飲んでいる。
漂ってくる香りからするとかなり強いお酒のようだ。正体を知っていても幼児が熱い物を触って、さらにお酒を飲むという絵面に衝動的に止めたくなる。
相方の足長様は自分の前に山と積まれた蒸篭から熱々の蒸し饅頭を手長様に手すがら食べさせてもらっていて、間を置かずむっちゃむっちゃ口を動かしご満悦。こちらも平気と分かっているが火傷や喉に詰まらせないか心配になる。
この場には立花様、手長様、足長様、ろくろちゃん、何故か付いてきたとばり殿、屏風覗きが同席している。ただ今のところ発言しているのは立花様と屏風覗きだけで、今ので手長様がようやく加わったくらい。
保護者のように付いてきたとばり殿は立花様からジロリと一睨みされたものの、特に何も言われなかった。ただし立場を弁えてかそのまま無言で控えている。たしかに今回の件に関係無いので発言を許されない限り口を開けないのはしかたないだろう。
一方ろくろちゃんが何か不貞腐れた感じに黙っているのは意外だ。砦攻めで起きた出来事や、ろくろちゃんの手柄兼責任で持ち帰った地図の事など、何かしら話が飛んでくるかと思っていた。
あるいはとっくに報告して判断待ちか、思ったより成果として渋く褒めてもらえなかったかのかもしれない。ドンマイ。
「では、この話はこれまで」
次は額面通りのポイントを揃えて見せよ、と釘を刺されて1500ポイントを渡して『査問?』は終了。なんとかギリセーフ判定を頂けたようだ。ポイント誤魔化したら処刑って言われてたから内心戦々恐々だったよ。どのあたりで温情を受けることができたのだろう。
簡単な足し算引き算も怪しい、怒る気にもなれないアホだからか? 手長様かろくろちゃんが庇ってくれた可能性もあるな、アイツ頭弱いから勘違いしてるんだとか。想像するだけで情けない。
今晩はひとまず城の一室に泊まれるように取り計らって頂けるとの事で、深夜に宿を求めて彷徨う必要はなさそうだ。他に明日からの数日も下界に向かわず、まず住まいを整えろと命じられた。
今日も色々あって本当疲れた。退室際にトテトテと寄ってきた足長様からとっくり1本と、ホカホカと湯気の立つ饅頭を1個もらったのが疲弊した精神にとても嬉しかった。
とっくりはクソ熱で落としそうになったが。和服は袖に余裕があるから熱い物を持ちやすくて助かる。
「今宵はそれ以外の酒は飲むな。潰れても介抱なんてしてやらんぞ」
終始黙っていたとばりが廊下でようやく口を開いてくれた。曰く、宴では無礼講という名の『常識で弁えろ』状態になるとのことで混乱が予想されるらしい。
幸い今回はやっかいなお方が残らんから運がよかったなと、上下に真面目なとばり殿に言われてしまうなんてどんな酒癖の悪い方がいらっしゃるのだろう。
「一応、私とひなわで周りを固めてやるが、知らん者から酒を進められるかもしれん。なるべく穏便に断れ」
高難度ミッションを言い渡されてしまった。アルハラなんて言葉は幽世に無いだろうしどう断ればいいのやら。第一、こういう席で新米が酒を断るって出来るものなのだろうか。
それとほんの一瞬、今出てきた部屋を襖越しに睨みつけていたように感じたのはなんだったのだろう。蒸し饅頭なら半分コしますよ?