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白猫城・その1

誤字脱字のご指摘いつもありがとうございます。

とある新作ゲームが気になっているのですが、アクション系はノーマル以下じゃないとクリアできません。だいたい物理で殴れ信仰者です

 城内とは思えない高さの天井が広がる大広間に何妖怪(何人)もの妖怪()が集っている。ほとんどが人間かほぼ人間の容姿をしていて8割方が若い女性、というか女の子に見える。

 一方で先ほどお店でチラッと見た、ボーリング玉ふたつ分くらいの大きさの蜘蛛の腹に薄く笑う老婆の顔が張り付いた悪夢のようなビジュアルの妖怪もカサカサしていらっしゃる。怖い。


 残りの2割には男性、あるいは男性? と思しき姿が全体にチラホラ混じっている。特に目を引いたのは厳つい体格の中年男性で顔がツルツルで目も鼻も口も無い。妖怪名は間違いなく『のっぺらぽう』に違いない。


 それぞれ序列の取り決めの通りに部屋の左右に分かれこうして座っているわけだが、小さな声で談笑している集団もいれば押し黙っている者、今の時点で平伏している者もいて待ちかたは様々だ。チラッと野太いオネエ口調が聞こえてきたような気がするが、新米が後ろをキョロキョロ見回すのも(はばか)られるので屏風覗きは通された場所でお行儀よく座っている次第。


 ええ、わりと前の方なんですわ。周辺の見知らぬ先輩(妖怪)から、なんだコイツって感じでジロジロ見られて居心地が悪いったらない。


 時折、ニンゲン臭い? という疑問の声が断片的に聞こえてくるのがまた恐い。横に知り合い、とばり殿あたりが居てくれればまだ気が楽なんだけど、残念ながらあの子は屏風覗きから数えて右横2列向こうだ。列の間が広いので直線距離で8、9メートルは先である。むしろ1列後ろのひなわ嬢のほうがまだ近い。


 ひなわ嬢の着物姿は初めて見たな。周囲の妖怪()が微妙に嫌そうな顔で口元を覆っていたが、張り切って香水でも付け過ぎたのかもしれない。屏風覗きも借り受けた着物から発する樟脳(しょうのう)のにおいでスゴイことになっている。せっかくの匂い袋のほのかな花の香りも塗り潰されて香ってこない。こちらの周囲もさぞ迷惑だろう、すみませんね。


 ろくろちゃんの姿はこの辺りには見えない。何せ彼女は傘の付喪神で御前のお持ち物だし、後から入室するくらいの側近なのかもしれない。同じく姿の見えない手長様や足長様は式神なのでどの立ち位置なのか不明。イケボキャットの白金氏達はわりと側近ぽい。猫だし。


 どうも側近以外の妖怪(人材)は階位の順は関係なく、与えられている役目やそれに伴う功績なんかで席順が決まっているように感じる。成果主義は年功序列に比べて競争意欲は湧くが、古い国では仲間内でのしがらみが多く現実的ではないし舵取りが難しい。新興の白ノ国ならではの革新的な方針なのだろう。


 ところで畳敷きに正座はボチボチ足がヤバイんですが、まだかかる感じです?





 城内に入って早々に手長様足長様は頭巾猫たちの持ってきた戸板でわっせわっせと運搬されていき、ろくろちゃんはまた後でなと人型になってあっさり去っていった。ちょっと寂しい。

 日本の城とは思えない只っ広い玄関口でポツリと残された屏風覗きがひとり途方に暮れていると、何妖怪()もの同年代っぽい女の子を連れたとばり殿が乱れた髪や着物を直しながらバタバタとやって来た。オイオイ何やってたんだこのイケメン。


「遅いッ、何をしていたッ?」


「おとなしくしてくださいませ」「髪の乱れが」「お召し物を整えてからに」「髪飾りはこちらでようございましょうか、フヒッ」


 甲斐甲斐しくお世話される姿はどうもイケメンというよりお人形扱いくさい。かわいい男の子とか女の子からしたらオモチャみたいなものということか。ウラヤマシイ、ウラヤマシクナイ。最後の子がちょっと不穏な気がする。『腐』な子だろうか。


 前回の白い着物も可愛かったが、今回も墨色の着物で見事に着飾っていて可愛い。この子は目力が強いのでやや極妻っぽいけど。黒というとつい葬式を連想してしまうものの、この着物はシックな中にも華やかな扇柄で美しい。そういえば扇柄は立花様の部屋でも見たな、幽世で人気の柄なのかしれない。


「そう、か。たしかに白こそ最高の品だが、黒もまあ悪くはないだろう。黒も良い色だ」


 疲れていたせいか、ついポロッと素の感想を口にしてしまった。以前に失敗しているのになんという迂闊。


 阿保の垂れ流した言葉にギッという音が聞こえてきそうなほど固まったとばり殿は、例によって怒りや羞恥を我慢しているようで耳が真っ赤になりながら精一杯の皮肉を絞り出してきた。女の子に遊ばれているところを知り合いに見られた上に、まるで女の子相手みたいな褒め方されたら腹も立つというものだろう。このくらいの年頃の男の子って過剰に女の子を避けたりするしね、何故か無性に恥ずかしいのだ。


 なお屏風覗きはイケメンの周りで髪に櫛を入れたり着物の乱れを直していた禿(かむろ)めいた格好の女の子たちから、なんだコイツという変態を見る目で見られている。違うんです、イエスショタノータッチ。


「ってそうじゃない、すぐ身支度を整えるぞ。配下一同で御前様へご挨拶せねばならん。おまえがいつまでたっても来んから時間が無くなったわ」


「まだ身支度が終わっておりませぬ」「帯は今少し鮮やかなものにいたしましょう」「本日こそ紅をお引きいたします」「ああ、足袋に汚れが。すぐお取替えを、フヒッ」


 ええいッ、お役目だ散れ散れッ、と癇癪をおこしたとばり殿はキャーキャー言う女の子たちを押し退け、ボケっとしていた屏風覗きの袖を引っ掴んでズンズン進んでいく。彼女たちもお役目と言われると無理ができないようで、こちらをそのまま見送っていた。何人かこっちを殺すような目で見ていたのが不安材料でしょうがない。恋路の邪魔をした気は毛頭無いんです、信じて。


「おまえのせいで散々雀共に遊ばれたぞ」


 新米の身支度を整えさせるために待っていたのに、いつまで経っても入城しない誰かさんのせいで普段は逃げ回っている取り巻きに捕まって大変だったらしい。本職の守衛の仕事も帰ってきたばかりではすぐシフトに入れるわけではないので、今日のところは城の右も左も分からない屏風覗きの世話をするよう言われたのだろう。


 待っている間に動くわけにもいかず、やれこの着物が良い、いやこっちの帯にしましょうと好き勝手されたと、イケメンらしいなんとも贅沢な理由でご立腹である。


「今朝着ていた物と違うのは何故だ? 怪我、はしていないようだが」


 半ば引き摺り込むように板張りの質素な一室に連れ込まれて体中を調べられそうな勢いでちょっと引く。守衛として日夜不審者とか捕まえてはひん剥いているからだろう、脱衣させるのに躊躇が無い。事情を説明する間にほぼ全裸にされてしまった。もちろん代わりの着物を用意しての事なので衆道的なアレでは断じてない。


「おい、着物の背中の辺りが濡れていて臭いぞ。なんだこれは」


 よだれです。

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― 新着の感想 ―
[一言] (こいつ無自覚に口説いてるぞ……。よくある鈍感主人公かな?)
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