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<<実績解除 終わりの始まり>><<実績解除 MEMENTO MORI>><<実績解除 侵略者>>※これは表示されません

<ご利用ありがとうございます>


 誓って無意識だった。精神的に限界だったのは事実だが得体のしれない項目を好奇心でタップするほど間抜けではない。そんなことをしたのは一度だけだ、最初にこの『スマホっぽいもの』を操作したときだけ。それだってあのときはまだ意思があった。


 床、壁、天井もコンクリート色から光沢のある黒に変わっていく。水面から波ひとつ立てずスルリと静かに浮かび上がるような変化だった。


「なんやこれ、何したんや」


 ろくろちゃんが姿勢を低くしてあちこちに視線をやっている。周囲の変化に驚いたというより、それに乗じる害意への警戒心のほうがはるかに強いようだ。手長様は肩の上で無言、足長様だけはのん気に目を輝かせて床をペタペタ叩いている。


《WCS     世 権限      統合       代行       TEMPORARY PASSWORD?》


 この空中に出た表示はなんだ? テンポラリー? たしか一時的って意味だったか、パスワードはまんまとして『一時的なパスワード』仮パスってことか。さながらSFのようだ。


<All the world’s a stage,And all the men and women merely players.>


 いつもまにか『スマホっぽいもの』に仮パスらしき一文が表示されている。すまない、英語はさっぱりなんだ。

 ええと、おーるざわーるどずあすてーじあんどおーるざま、ああもう。男も女も世界のプレイヤーって感じか? しかしゲームとは一文も書いてないし、プレイヤーって他にどう訳すんだっけ。というか仮パスにしちゃ長いぞオイ。


<10:15:58 ポイント戻りまえん>


 追い打ちをかけてきよる。そもそもポイントを払いはしたけど何なのか分からないモノを相手にどうすればいいのか。砦攻めの軍資金的に頂いた虎の子の1000ポイントが一発で(カラ)になってしまった。泣きそうなほど恐くても自動防御を我慢したというのに。


「にいやんっ、どうなっとる!? 教えんか!」


 遠くでろくろちゃんの声が聞こえているのは分かっている、ただそこから何かしようという気にならない。まずは仮パスを打ち込ん


 手長様に顔をピシャピシャ叩かれて我に返った。


「きつねの覗き窓でも見たのかぃ? あれはうっかりやったら『良くないモノ』に(すが)られるよ」





 どこか思考がおかしくなってる、事情説明と合わせ一度外に出て情報を整理することにした。手長様にはまたおかしい雰囲気になったら殴ってほしいと伝えておく。


 情報交換して分かった事として、壁などの変化は全員が目撃したのに対して空中に表示された文字は屏風(コレ)しか見えていなかったと分かった。人間だからか、あるいは『スマホっぽいもの』を持っていたからか。おそらく後者だろう、空中の一文が『スマホっぽいもの』にも来たし。もちろん幻覚の可能性もゼロではないが。


「幻術か瞳術の類かねぃ。術によるけど、見せただけで惚けさせたり不安にさせたりはできるよ」


 術と聞いて和製魔法的なものかと思ったら、話を聞く限りファンタジーな代物ではなく視線誘導などに代表される心理学に近い技術のようだ。


 相手を『見て』術にかけるのではなく、相手に『見せて』精神的に誘導する。過去にサブリミナルのような極端な影響は否定されているが、人が見聞きしたことが精神に影響するのは今も昔も誰でも同じ。

 術と言われると途端に胡散臭くなるけど、確かに突き詰めれば心理テクニックとして成立するかもしれない。手品師や昔の宗教家なんかはこの技術を使っている職種のひとつだろう。


 前者は知ってしまうとつまらなくなり、後者はうっかり口にするとうるさいことになる。人生幸せに生きたいなら余計な事に気付かないほうがいいのだ。弁当の上げ底とかな。


 けどそんなささやかな影響(モノ)じゃなかったという反論も浮かぶ。まるでマインドコントロールでもされたかのようだった。己の行動が知らず大胆になるというか、疑問が頭を過っても気にならなくなるというか。つい仮パスを入れてから考えればい


 痛ったッ!?


「まだ憑かれてるねぃ。その板かな」


 さっきより強く叩かれて顔がヒリヒリする。けどおかげで頭に残っていた(もや)みたいなものが晴れた。どうも中庭でとばり殿に顔を叩かれて以来、顔をピシャリと叩かれると意識がハッキリする変なスイッチが出来てしまった。変態かな?


 『要塞?』か『スマホっぽいもの』、もしくはその両方が屏風(コレ)を操ってでも仮パスを入力させたいようだ。

 考えてみればどちらも謎だらけの存在、特に『スマホっぽいもの』は明らかに意図的な介入がある。今は亡きパーカーのポケットにいつのまにか突っ込まれていたのだから。


 さて、介入する意志を仮称『A』として、


 Q.『A』はここに誘導したかったのか? 

 A.なんとも言えない、選んだルートは気まぐれとも誘導とも断言できない。

 Q.仮パスを入力させたかったのか?

 A.これはありそう。ポイントをやり取りしたくらいだ、少なくとも関係性はあるだろう。


 ではどうすべきだろう、仮パスを入力するか情報だけ持ち帰るか。


 帰還派は手長様。砦は落とした、占拠しろとまではいわれていない。という言い分。実質的に陥落させたのが式神コンビだけということもあって発言力は強い。


 入力派はろくろちゃん。屏風(コレ)がうっかり1000ポイント使ってしまったと聞いたせいか、何か手土産の一つも持ち帰りたい、という言い分。落としたはいいけど飛び地どころの騒ぎじゃないからね、これで戻ったら大損だ。


 そんなことより遊びたい派は足長様。ひとりと二妖怪(二人)が唸っている間、着々と簡易ローンボウルズの準備をしている。気に入ったらしい。


 結論、白玉御前様のお言葉を額面通りに受け止め『砦を落とす』だけにする。御前も明らかに何か知っているようだし、それでも細かい指示がなかったということは現場判断でよいだろう。最悪は屏風(コレ)の借ポイントにする、新米は特にホウレンソウ大事。


「お大臣やなぁ、にいやん。うち(のき)は貸しても金は貸さへんからな」


 頑張ってるつもりなのに借金が膨れ上がっていく。そのうち地下というか鉱山で穴掘りでもさせられそう。




 表示されていた制限時間を過ぎた。木戸では嫌な予感がしたタイムリミットだが、これはどうなるかはっきり感じられない。


<接続停止ザん年です>


 この表示の後、閉じられていた『要塞?』の門が突然開いたので警戒したものの、そのまましばらく特に何も起きなかった。強烈に嫌だったが確認のため先ほどの部屋に向かうと、黒くなっていた一面はコンクリート色に戻っていた。空中に浮かんでいた文字も無い。そして転がっていた『肉』も『血痕』も無かった。


「足長は喰ってないよ。手長もねぃ」


 残った衣服や装飾品を今一度調べると、人の臭気こそ残っているが付着していた血液等はきれいに無くなっているのが分かった。中身の無くなった衣服や鎧だけが同じ位置にペタリと萎んでいて、それだけが残酷な解体ショーが行われた痕跡をわずかに残している。

 門を動かす壁の仕掛けはいくら叩いても機能しない。前後開きっぱなしのままになってしまった。


 これでよかったのか。頭をチラつく『もしも』に後ろ髪を惹かれながら他の場所も調べることにする。

 帰還前に得られた成果は三つ。ひとつは地図と思わしき絵が何枚かあったこと。もうひとつは壁の上にガマズミの家紋が空中に投影されていたこと。これは元々ろくろちゃんの傘のデザインではなく、白猫御前様の家紋らしい。家紋には表紋と裏紋があり、ろくろちゃんのは裏紋と呼ばれる絵柄が簡略化されたものだという。


「旗を用意せんでええとか楽やけど、どういう絡繰りなんやろか」


 城や砦は誰の物か示すために旗が掲げられる。他の国に落とされれば旗は引き落とされ、落とした集団の印が掲げられるのは多くの国で見られる戦の作法だ。この謎技術を使った『要塞?』は先ほどの仮パス関連の話をうっちゃったにも関わらず、白ノ国の白玉御前様に占領されたと認識したらしい。


 旗まで掲げては誤魔化しようがない、これで完全に他者からの侵略という構図が出来てしまった。


 毒を食らわば皿まで、いっそ踏み込んで仮パスとやらを使ったほうがよかったかもしれないな。まあ後の祭りだ。


「あい」


 最後の成果はちいさな手に持ったおにぎりを屏風(コレ)の口に突っ込んでくる足長様に(ほだ)されて、思ったよりお優しいとトラウマが軽減したことだ。あの猟奇現場を見て何言ってるんだと思わないでもないけど、もしかしたら味方と思い込むことで無意識に精神安定を図っているのかもしれない。


 おにぎりの味はまるで分らなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ワケわからん表示が出たら無闇に触らないで調べるか誰かに聞く。 これ大切。 なにもしてないのに壊れないのだ。
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