スマホっぽいもの『03』の出どころ?
懲りない誤字脱字のご指摘、いつもありがとうございます。
ある方からとばりのファンアートを頂きました。なにぶん初めての事で気持ちの着地点が行方不明レベル。心から感謝いたします( ´ᵕ`* )
鴉天狗の桔梗。
元は黒曜一族の占拠していた陣馬山(天狗山のほうが俗称。天狗だらけであることを皮肉った呼び方らしい)に属していた女だ。
白の軍に捕らえられてからは己の助命を条件に、天狗山の首魁・大天狗黒曜亡き後も山に立てこもっている黒曜一派の残党へ投降勧告をする役目を担っている。
もっとも説得は失敗してしまい、彼女は黒曜の残した呪い術の生贄として残党たちに殺されかけてしまったが。
それでも悪運だけは強いほうらしく、初めは白に、次に味方だった相手に殺す前提で捕らえられてもこうして生き延びている。
災難を受けても悪運でなんとかなってるあたり、ちょっとシンパシーを感じるな。
「遅ればせながら。尊き御方より直々に白石の名を授かりました事、誠におめでとうございます」
名を頂いた事を祝われるのは嬉しいけど、相手が相手なのでものすごい違和感があるなぁ。
彼女とは最初に敵として会っているので、どうしてもその印象が強いせいもあるだろう。しかし今の彼女は完全に白に帰順した味方だ。
現在では立花様の口添えで牛坊主様の息が掛かったとある部署に属し、幽世の各地を飛び回り情報を集める役を頂いているらしい。
個妖怪が対立していても国政上はちゃんと協力し合うとか、これこそおふたりの凄いところだろうな。人間の派閥じゃこうはいかない。
そしてお役目に耐えうる体が必要と、捕らえた際に屏風覗きが切断してしまった羽もきれいに治療してもらえたそうな。
「治療には白石様からお口添えがあったと聞いております。本当にありがとうございました」
深く深く下げられた頭に居心地が悪くなり、もういいからと姿勢を戻すように促す。
すっかり客が散ってしまった茶屋での事とはいえ、遠目に様子を伺っている者もいるのだ。他国ではお茶しか飲めない屏風覗きの代わりに甘味でも注文してほしい。
なお客と違って逃げるわけにもいかない茶屋の主人に至っては、注文の品を置いて下がるなり震えて念仏を唱えていた。
お三方が怖いのは分かるけれど、客を悪霊か何かのように扱わないで頂きたい。接客業のプロとしてせめてもう少し取り繕う気概を見せなさいな。
式神コンビだって普段は無邪気なものです。こっちが悪ささえしなければ何も怖くないタイプだ。いっそふたりの魅力が分かるまでしつこく通ってくれよう。
「むや」
「ああ。黄の都で店を出しているにしては味がよくないねぃ。でもこれが普通くらいだろう。白は菓子も飯もとびきりうまい。比べてやるのは酷かもねぃ」
「うや」
「うんうん、足長の言うとおりだ。塩も砂糖もケチり気味なうえ、何より小豆のふかしがいい加減なんだろう。これでは餡子というよりふかし豆だ」
店内で歯に衣を着せず酷評レビューをされていらっしゃるが、誰が何と言おうと無邪気です。店には客の言葉を真摯に受け止めて頂きたい。いちゃもんつけたいだけのモンスタークレーマーとは違うのだ。
ちなみに屏風覗きも生きた人間という、どんな魔よりもはるかに質が悪い存在である。
馬の耳になんとやらじゃないが、邪悪過ぎて逆に念仏唱えても退治できないぞ。お経で苦しむ愛嬌があるだけ悪霊のほうがまだ善良だろう。
強いて念仏が効きそうなのは東名山様くらいかな。もし白ノ国に仕えていなかったらどうなっていたか。
夜中にひとりでに飛び回って惨殺事件を起こす、呪われた刀とか言われてそうで恐い。ゴツい箱にお札ベタベタ張られて厳重に封印されてそう。
いかん、想像するとものすごく似合う。物語なら最初の犠牲者は勝手に開けたおバカさんだろうな。
「我の顔に何か?」
失礼。余計な事を考えただけです。気付かれた視線の意味をお茶をすすって誤魔化す。
実際、付喪神が飲み食いする姿をたまに不思議に思ったりはする。
人化術の種類にもよるんだろうが、ろくろちゃんのようなタイプの場合、消化器官とか再現されているんだろうか? 物を食べるって何気に擬態の難度が高そうに思う。
「白石様には二度も助けて頂きました。この御恩、必ずやお返ししたします」
ちょっと徹夜明けのテンションを引き摺ってふわついているこちらと違い、桔梗のお礼はどこまでも堅苦しい。
そういうのはあまり重く考えず、ありがとうくらいで十分だ。
不義理な物言いかもしれないが、ずっと感謝するのはしんどいし感謝される側だって意外としんどいんじゃないかなと、屏風なんかは思う。
少なくとも屏風覗きはどちらの立場であっても、『ずっと』は無理だ。適当に区切りをつけて関係をフラットに戻したくなる。
こんな性根だから不義理とか不人情とか、陰口を叩かれるのだろうなぁ。
お城でたまに妖怪とすれ違うときとか、ボソッと言われたりするんだよね。どこそこの誰が陰口を叩いておりましたよ、とか。
そんなのいちいち聞きたくないです。
聞かれないように言うのが陰口なんだから、それをチクられても困るといいましょうか。
第一、証拠も無いし。本当にその方が言っていた事かも分からない。あと言われてる事はだいたい合ってるので二の句が継げなかったり。
下手な太鼓持ち。茶の心得の無い茶坊主。中身の無い腰巾着。この辺りは自覚がある。
ただし女たらしの悪口だけは断固として否定する。たらした事なんてこれまで一度も無いわい。
関わった女性から受ける反応はラブじゃなくライクか、あるいは敵意ばっかりだ。ああ、愛が欲しい。
「お気遣いありがたく。しかし嘘偽りは申しませぬ。妖怪の端くれとして、受けた恩は返させてくださいませ」
つい脳内でまだ見ぬ愛を求めて彷徨っていると、再び頭を深く下げられてしまう。こっちの不真面目さとの温度差が激しくて風邪を引きそうだ。
うーん、天狗って頑固な性格が多いのだろうか。どこかのちっちゃい守衛さんが思い浮かぶなぁ。
その知り合いのカラスの守衛さんから飛べない鳥の苦しみを聞かされたことで、こんなやつでも罪悪感が募ったというだけだったのに。
桔梗に負わせた怪我は敵対していた時のもの。別にそこまで申し訳なく思っていたわけではない。
しかし感謝をいちいち否定するのもおかしい話か。律儀な彼女のお礼にありがとうと思えば済む話だ。
変な拘りを持っても時間ばかり取られる。式神コンビが大福を食べ切る前に要件を済ませるとしよう。足長様は片栗粉でお口が真っ白である。
「はっ。長々と申し訳ありませぬ。ご報告いたします」
桔梗がわざわざ屏風覗きの下を訪れたのは、過去に助けられた事のお礼を言うためではない。
彼女は赤ノ国に属していた経歴上、白側の妖怪の中で比較的あの国に詳しい妖怪物だ。そのため牛坊主様より命令を受け、『黒曜の生前の足取り』を追う役目を申し付かっている。
あの大天狗が山で拾ったという、スマホっぽいものの出所を探るために。
過去にいずれ調べるとは聞かされていたが、もう実行に移していたのか。そして多少なりと報告できる事が見つかったらしい。
「まだ日時は定かではないのですが―――――黒曜の潜んでいたかの山にて、『藍から来た商人が荷物を落とした』という話がありました」
小さく囁かれたその情報に、これまで桔梗を視線に入れなかった手長様と東名山様が初めてまともに桔梗を見る。
「ごまっ」
真っ赤な舌で口の餡子と片栗粉を拭った足長様がお行儀よくご馳走様をしたので、その口をてぬぐいで拭いながらぼんやりと考える。
もしかしたらこの不思議で不気味な板は、屏風覗きが思うよりずっと前から、この幽世という世界に放たれていたのかもしれない。
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