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開店前・閉店後なのに常連ヅラしてねじ込んでくる迷惑客に、内心殺意がわく店員は多い

誤字脱字のご指摘、いつもありがとうございます。


ファ〇通で連載しているエルデ〇リングがやっぱりおもしろい。特に今週号の主人公はカッコよくて草(麻痺)。こういう敵味方ごちゃ混ぜでコメディしていくストーリー大好き

 例の宿は『旅籠の杜鵑(ホトトギス)』と言ったらしい。


 今更ながらに聞いてしまった屋号に、なんだかなぁという気持ちが沸き上がる。

 なにせもう別の妖怪()に買われて、近日中に新しい旅籠『(つばめ)屋』として店を開くと聞いてしまったからだ。


 まあ新しいと言っても罪妖怪(罪人)だった経営者とその手下の古参従業員が入れ替わるだけで、後は屋号の入った障子の張替えくらいしかしないようだが。ほぼ再利用である。


 この辺は商売が盛んな黄ノ国らしいと言えるかもしれない。事故物件みたいなところでもまずは『安い』という感覚が先に来て、ここで何があったかなんて気にしないようだ。


 むしろ宿の客が出払うまではと、お給金も出ないのに残っていた新米従業員の皆様がすぐ再就職出来てよかったかもしれない。


「白ノ国の皆様には前任の者が大変ご迷惑をおかけいたしました」


 新米の従業員たちと共に新しく経営者となった方(人型だが着物が羽のようにしゅっとして鳥っぽい。屋号からしてツバメの経立?)から挨拶を受ける。


 開店前の店ということで、まずどう取っ掛かりを作ろうかと悩んでいたが向こうから挨拶をしてくれた。それに甘えて団体客の受け入れを交渉させてもらう。


 加えて取り潰し直前に目玉しゃぶりをねじ込んだせいで、新米たちの辞める日程をズレ込ませてしまった件もあるので軽くお礼とお祝いを渡しておく。


 決して新装開店前なのに小煩いのを団体で泊まらせるからひとつよろしく、という意味では無い。ええ、決して。


「とんでもない! そのおかげで冬に職を探して彷徨わずに済みましたんで。商いも人情を忘れてはいけませんなぁ」


 迷惑なはずの追加の客、目玉しゃぶりを受け入れたことで彼女らの事態は好転した。


 この時間差で店を引き払う前に新しい経営者と面通しする機会が生まれ、店こそミソがついたが残った従業員は責任感のある者たちだと評価されて再就職までトントンだったのである。


 そういえば現世で経営者が夜逃げした塾の講師が、生徒がかわいそうだからと講師を続けたみたいな話があったなぁ。あっちの結末はどうなったのだっけ?


 ともかく心づけが効いたのか、幸いにして燕屋の皆様はフライングの客を受けて入れてくれた。


 さすが金がものを言う黄ノ国。


 いや、今のは失礼な発想だな。お金を渡そうと迷惑をかけているのは事実なのだから。店と客の関係は金を払えばいいというものではない。


 従業員だって人の子。礼節大事。う、頭が。


「おお、こんな良い宿に泊まれるとは。白石様には何から何までご迷惑をおかけいたします」


 ことさら明るい声で場を整えようと奮戦しているのはこの団体、浦風一座の座長である設樂氏。オーバーリアクションで黒と黄色のちゃんちゃんこを揺らして喜んでくれている。


「こらすごいわぁ。風呂もあるんやね。旅芸人してた頃は風呂のある宿なんて泊ったことがあれへんで」


 同じく設樂氏のフォローをするお栄さん。抜け首らしく頭をふわふわと飛ばし、軽く宿を見回ってきた彼女はお風呂があるのが嬉しいようだ。

 首が飛ぶのが売りの妖怪に失礼な話かもしれないが、飛んでる首より脱着のシーンが一番怖いかもしれない。首だけで飛んでいるならただのホラー映像・怪奇現象だが、脱着の瞬間はただの人間の首チョンパに見えるからかな?


 他の者たちも案内された部屋で荷物を置いたあとは、好奇心に任せて思い思いに動き回っている。


 すでにやかましくなっている一団に一抹の不安を覚える。大抵の芸人なんて半分は無頼みたいなものだからなぁ。


 一応注意だけはしておこう、彼らが何かしたら連れてきた屏風覗きにも責任が出てしまう。


 本営業中じゃないんだから変なところを覗かないように。片付いていない場所があっても見ないふりをすること。無理を言ってるのはこっちなんだから、従業員さんにおかしな要求はしないように。


 特に最後が超大事。うう、また頭が。


 へーい、という気安い返事をしてくる一座に苦笑しつつ、後の事をお栄さんにお願いする。ああ、店主。こいつらバカな事をしたら蹴り出していいので。連絡を頂ければ拾いに来ます。


 時間が経つにつれて表情が暗くなってきたシニョン頭の子は、それとなく頷いてくれたお栄さんに任せるとしよう。


 ――――夜鳥ちゃんはいなかった。宿帳にそれと思しき名前も無いらしい。


 立つ鳥は後を濁さないようだ。






 来たばかりの浦風一座の面々には腰を落ち着けてもらい、こちらは設樂氏と一緒に町の元締めへの挨拶に持っていく手土産を見繕うため外に出た。


「狙ったな、兄やん」


 しばらく歩いたところで、ろくろちゃんが少し不機嫌な声を出してきた。


「最初から決着つけさせる気が無かったやろ? ふざけた振りしてうまいこと時間稼ぎしおってからに」


 さすがサトリ妖怪。バレたか。


 誰がサトリやねんと、体を操ってポコポコ自分を叩かせてくる番傘に降参の意志を示す。馬に乗っているのに脳まで揺れるのは勘弁してほしい。うっかりオエッてしまっては、マイホース松ちゃんに振り落されてしまう。


「御託はいらない(ええ)。訳を言えや」


 分かり切った事だ。いくらなんでもふたりを真剣に戦わせるのはやりすぎだろう。どっちが勝っても負けても全方位に遺恨が残る。


 国の守りである守衛が無頼に負けるわけにはいかないし、かと言って侠を売る山ン本の組長が土を付けられては立つ瀬がない。


 しがらみを捨てた個妖怪(個人)があらゆるものをうっちゃって、一世一代の大勝負をするというならともかく、組織の面子が掛かった勝負をあんな形でやるのは白ノ国にとっても損しか無い。


 競うのはいい。だがせっかくの『魔王・山ン本』というブランド(名刀)に傷をつけてまで戦わせるには不躾が過ぎる。


 白の役人の端くれとして、国の損害となりそうな出来事を回避する方法を模索くらいはさせてもらった。それだけ。


「だから柄にもなく騒いだのか。よく目立つように」


 ここまでずっと無言だったとばり殿が、松の手綱を持ちながら『得心した』と言って見上げてくる。


 ああやって騒いで見世物にすれば、責任のある第三者が関わってくるんじゃないかなと思っただけだ。来るのが役人か民間の誰かかまでは、さすがに予想できなかったけどね。


 やって来たのが的屋の元締めなのは行幸だったと思う。業界妖怪(業界人)が割って入れば役者の浦衛門の説得はしやすい。


「さては河原に向かわせたのは、私にすぐ手裏剣を使わせないためだな?」


 それは往来の方に迷惑をかけないためだが、考えなくは無かった。とばり殿が本気で武器を持って仕掛けたら、浦衛門はあっという間にハリネズミになっていた事だろう。


 元々とばり殿に対して浦衛門の基本戦法は相性が悪いのだ。


 遠間からでも速攻で敵の挙動を潰せる飛び道具巧者に、あの子の風呂敷術は不利が大きい。


 ふたりは同じく物を投げる戦法を使うが、浦衛門の投げる風呂敷はそもそも投げるという行為に向いていないのだ。畳んでいようと軽量すぎて、強く投げても速度は遅い。


 また、風呂敷が効果を発揮するには『広げる』というワンアクションを挟まねばならないのも大きい。


 手数と速度、さらに命中精度で上回るとばり殿の手裏剣が相手では、広がる前に撃ち落されることになる。


 事実、浦衛門の風呂敷は石ころ程度に撃ち落されてまるで役に立たなかった。


 風呂敷術は効果を発揮できれば強い。だがその効果を発揮しようにもとばり殿の対処が早すぎる。


 浦衛門は途中で風呂敷による攻防一体の技を見せてはいた。だが素人目に見ても使い方が慣れていなかったと思う。


 あれは恐らく奥の手というより、その場しのぎの緊急回避に近いのではないだろうか。


「当たりや。辰のやつも、なるべくやらんで済ますべき下策や言うとったで」


 風呂敷術による広範囲攻撃で敵を殲滅するのが山ン本の真骨頂。だが、そこに至るまでのお膳立てこそ術者の妙だとろくろちゃんは言う。


道具()が強いから強いんやない。敵さえ倒せりゃ道具()なんぞ弱くてもかまわん。道具ちゅうんは手助けでしかないでな」


 道具の妖怪。付喪神であるろくろちゃんの言い分は、人間が宣う理屈よりずっと重みがあった。


 なんでも切れる妖刀は確かに強かろう。しかしそれを振るう剣士が素人では意味がない。


 武器がオリハルコンで出来ていようとヒヒイロカネで出来ていようと、剣術の腕も戦いの駆け引きも上達はしない。素人はどこまで行っても素人だ。


 そこらの木刀を握っただけの相手でも、一流の前にはいかなる名刀を持っていようと滅多打ちにされるだけ。


 浦衛門の術は間違いなく名刀だ。だが、彼女自身は喧嘩自慢の素人の域を出ていない。


 確かに浦衛門はとばり殿より強い術を使える。鉄火場の経験もそこそこにあるだろう。下手な雑兵よりずっと強いに違いない。


 それでもまだ、まだまだ温いのだ。あの立花様から薫陶を受けた、この勇ましき(カラス)天狗の前では。


 あの子はとばり殿より間違いなく弱い。その事は浦衛門も今ごろ噛み締めているだろう。


 でなければ弱いどころか愚かだ。性根を叩き直す必要さえある。


「ご安心を。あれは阿呆ですが愚かではありません」


 馬上に同席する設樂氏は、誰を見るでもなくそう言って天を見上げた。


 タヌキらしい円らな瞳からは子供を慈しむような優しさを感じる。それは屏風(これ)のセンチな勘違いではないだろう。


 彼もきっと、あの芝居バカの親代わりをしているひとりなのだから。

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