表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/880

従業員一同、犠せお客様を心よりお待ちしていますッ

 窓の障子が朝日を受けてゆっくり白く浮かび上がっていく。ショボショボする目を擦って何度目か分からないあくびをした。あまり寝付けなかったな、日が昇る前に目が覚めてしまったし。起きたあとも眠いのに眠れない状態で困る。


 昨夜のケンカはどうなったんだろう、それが気になってしかたない。あの後は立花様が収拾をつけたようだけど、さすがにこれはうっかり聞くわけにもいかない。どうして知ってるとか突っ込まれたら下の風呂を覗いちゃいましたと自白する流れになってしまう。違うんです親分さんッ、銃声が聞こえて思わずそっちを見ただけなんです。それに暗くてよく見えなかったんです。いやホントですってッ。


 それとなく第三者の誰かに、騒ぎがあったみたいですがどうしました? とか聞けたら楽なのに。結界とやらの効果で向こうから来ない限り誰とも会えないし、現場に行きたくても変にウロウロすると結界パワーで迷う可能性大。動きたいときに受動的にならざるを得ないってストレス。ああもう、誰かが来てくれるまで待つしかない。



 今日は朝食はいつ頃になるんだろう。きつねやがこれまでの起床時刻を参考にしてくれた場合はまだまだ後になる。それまでぼんやりするにしても本当にぼけっとしているのはさすがに辛い。現代人が暇を潰すとしたらスマホなんだけど、残念ながらこのスマホっぽいものはネットなんて御大層な物には繋がっていない。記事も動画もソシャゲも何ひとつ利用出来やしないのだ。

 それでも生命線だから弄るけどさ。この機会を利用してじっくりカタログでも見てみようか。


 あ、宿泊系で購入できそうなカタログ商品増えてる。


<キャンプコテージ『KILLER』 YES/農 拝借20ポイント>


<廃墟風ホテル『CANNIBAL』家ES/NO 拝借20ポイント>


<B&B『死霊』YES/ノウ 拝借20ポイント>


 店名が不吉ってレベルじゃねぇ。悪魔の服飾店と同じく残らず禍々しい赤枠だし。このスマホっぽいもので利用できるカタログの店名、雰囲気出すための単なるブラックジョーク的なものとは限らないから注意が必要だ。事実狐には襲われたし。好きな人は大好きなジャンルなんだろうけど当方は完全にノーセンキュー。さすがにマジで襲われるならファンでも嫌だろう。これで殺されるなら本望というコアな人もいるかもしれないけどさ。

 ある意味で倫理観無視したニーズに応えるシステムというのは贅沢使用と呼べなくもない。使わないけど。あと誤表記はもう突っ込まない。今後の表記は脳内で修正してくれる。

 

<カタログの購入にはポイントを消費します YES/nう 拝借500ポイント>


<悪魔の服飾店 100ポイント 90パーセントOっFF>


 そういえばこっちは拝借と書かれていない。何か違いがあるんだろうか。ジャンルは服飾系のカタログで、購入前に通常表示されているのはこれひとつだけ。きつねの隠れ宿は宿泊施設のカタログ購入したあとに表示されたのに。なぜ悪魔の服飾店は買う前からアピールされているのだろう。怪しい広告記事みたいなものだろうか。商品からカタログのジャンルが分かるのはありがたいんだけどさ。


 分かりにくいので現在分かっている事をザックリまとめると


 1.購入できるカタログが明るい表示だと買える。条件は不明。

 2.買うとそのカタログジャンルで選べる商品が同じく明るい表示になる。服飾なら服関連オンリー、宿泊施設ならホテルとかのみ。

 3.注意点。あくまで店のある場所近辺に移動できるだけで利用は別料金っぽい。きつねの隠れ宿だけの情報なので不確実。


 改めて羅列するとこれ買ってると言えるのだろうか。胡散臭いポイントサービスみたいだ。買った分のポイントを使うとある商品の購入優先権を貰える、みたいな謎システム。企業さん、そんな物いらないから普通にポイント分割り引いてくれと言いたい。


 増えたけど増えていない、利用できないししたくない物ばかりだ。まあ尻の毛まで毟られて鼻血も出ないって状態なのでどのみち利用できません。


<実績解除 名は体を表しゆ 1000ポイント>


 と思っていたら、いつのまにか激しく納得いかない実績が増えていた。これは昨夜の覗きのことだろうか。屏風覗きとして内外に認められて実績さんにまで認知されてしまった。激しく納得いかない。人の視力限界に挑むような光源と距離だったし、あれで覗きとして実用範囲で見えるのはサバンナとかにいらっしゃる現地の方くらいだろう。最近はそうでもないらしいけど。あと両方小さい子だし片方は男女確定してないのに。とばり殿くらいの年齢なら女湯に入っても咎められないだろうし、そもそも幽世の時代感的に混浴の可能性もあるのだ。


 いやもう片方のひなわ嬢に関してはすいませんとしか言えない。ちなみ立花様は服を着ていたっぽいのでノーカン。


 我ながら大変言い訳がましい、この件は黙って墓まで持っていこう。今は手に入れた1000ポイントを喜ぶべきだ。薄汚い1000ポイントだけどそれでも必要なポイントだ。何と言ってもこれで木戸を呼び出せる。



「起きているな屏風、朝だぞ」


 布団の中で一人懊悩としていると思ったより早くとばり殿が起床の確認に来た。もしかしたら今までも気配で寝ているかどうか確認して起きるまで待っていてくれたのかもしれない。時刻は体感だいたい朝の5時過ぎくらいか、国全体が早起きなんだろうな。妖怪なのに。


 行儀よく膝をついた姿勢で襖を開けて入ってきたとばり殿を見てぎょっとした。顔に痛々しい青タンが出来ている。昨夜のケンカのせいか。


「喧嘩でお叱りを受けただけだ。大事ない」


 つまり殴ったの立花様かよ、あの人はもう。当人は平気と言い張ってるけど子供の顔についていい怪我じゃないだろ。そりゃ昔は鉄拳制裁で当たり前だったんだろうけどさ。それに右手に巻かれた包帯もいやに大きい。手自体が膨らんでないかコレ。


 指が一本折れただけだ、なんてしれっと言うことじゃない。この子は自分の事には無頓着なんだろうか。こっちはケンカの結果らしい。格闘家でもしっかり拳を作ってなお指や手首を骨折することがあるし、ある程度仕方ないのかもしれないがこの状態で仕事はダメだろう。それでも取り合ってくれず水をなみなみと入れたたらいを出されたので思わず怒ってしまった。


 非常に気まずい、しかしこっちにも思うことはあります。ひとまずとばり殿の仕事は受け付けない。それと飯の前にぜひ立花様にお会いしたい。そんな恐い顔しても無駄です、こちとら寝不足ハイなので無敵状態なのだ。


 こちらがたらいを抱えたまま断固として動かない姿勢を見てとばり殿が折れた。なんかおかしくなってるから刺激しないでおこう、とか思ってるのかもしれない。深いため息をついたあと、期待するなよと言い残して部屋を出て行った。



 布団の上でたらいと仲良くすることしばらく、昨夜風呂に連れて行ってくれた金白氏こと頭巾を被ったイケボキャットが来訪した。立花様が会ってくれるという。とばり殿が見当たらないのでどうしたか聞いたものの、わたくしは存じませぬと素っ気なく言われただけだった。休んでいてくれるといいのだが。


「朝から何だ、屏風」


 拝謁に使った間とは別の一室に通された早々、失神しそうなほどの圧迫感に見舞われる。予想はしていたけど立花様の機嫌が大変よろしくない。


 桐の衣装箪笥に布を掛けられた大きな化粧鏡。壁に掛けられた扇柄の着物まである。思ったより女の子らしい部屋だけどもしかして立花様の寝泊りしている部屋なのだろうか。太刀を片手に立膝の女侍が座っているのは非常に絵になる、ただ絵になるイコール迫力があると同義だ。超恐い。しかし今の屏風は無敵の人だ。指が超振動してるけどな。


 ただ、ここまで来てなんだが確信がある。こちらの持っていきたい話にはたぶん取り合ってもらえない。倫理意識の隔たり、権力への物言い、身分差、どうあっても無理筋だ。

 

 ならいいさ、実を取ろうじゃないか。


 とばり殿がケンカで怪我をしていて屏風は驚いた事をことさら大げさにのたまう。立花様がそんな事かと怒るより早く、とにかく呆れるくらい大げさに。そして強く頭を畳に擦り付けてお願いする。あの子たちの治療と休養を。その医者と薬の代金、ぜひこの屏風が持ちますと。大げさに声高く芝居かかった調子で。昔コメディ系の連続ドラマで見た、こんなヤツいるかとバカにしていた太鼓持ちを思い出して。


 新参の目下が話を通すならそれこそ道化くらい思い切りよく、大真面目にぶち上げなければならない空気になるんだと初めて知ったよ。


 面食らった雰囲気というか、変なヤツに遭遇したぞって空気になったがこれでいい。実際に立花様の恐いオーラは霧散したし、ポイントをすぐに1000ポイント近く渡せることを混ぜ込んだらおかげで御前に掛け合ってくれると言質を取れた。


 庶民なら1000で一財産。白玉御前からすれば庶民の財産程度は端金でも、こちらが渡すのは入手困難なポイントだ。人海戦術をしてでも集めるほどのレアリティなら意識を向けてくれる可能性はある。


 身分があっても命が軽くても世界を変えたいわけじゃない、友人のいるこちら側だけでいい。屏風の向こうまで何とかしようなんて思わない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんか従業員がホッケーマスクかぶって斧持ってそうなコテージだなーw つーかポイントめっちゃ安いw 男女確定してないって、ひなわさんのこと? とばり殿にとばり殿がないのは、ふんどしの越しで確…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ