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進化を促す光線を浴びた七福神

GW前倒し二回目

 頭痛い。足も痛い。すっかり戦車と人型兵器のあいのこみたいな姿勢に慣れてしまったとはいえ、にわかが膝を畳む姿勢で痺れないわけがない。


「何をしてるんだ! おまえは何を!!」


 緊張の拝謁を終えてお互い無言のまま部屋に戻ってきた屏風覗きは、目下怒髪天のちっちゃい子に怒られ中。金色の稲穂からダイナミックな七福神に差し替えられた襖を開けた矢先、後ろからとばり殿が畳を指さした。


「座れ」


 すごい低音。仏頂面の笑顔って恐い。大人しく座った矢先、脳天に拳骨が飛んできた。先ほどの立花様が殴った焼き直しみたいな思い切りの一発に鼻血が出そうになる。もちろんこの子が本気で殴ったら頭が地面に叩きつけたトマトみたいになるはずなのでこれでも相当加減はしてくれていると思う。憤懣やるかたなし、そんな気持ちが籠った拳だった。


 大変申し訳ないけど一部申し訳なく思っていない。まさかあそこまで庇って貰えるとは思っていなかったし、むしろ困惑のほうが強かったくらいだ。この子は本当にお人好しなんだろう。加えて立花様との話の齟齬が余計な問題を生んでしまったのが悔やまれる。原因の間抜けが言う資格なんて無いけれど。


「一から十まで全て話せ。残らず全てだッ」


 着物でダシダシと畳を踏みつけたり大股で仁王立ちになるのは行儀悪いですよ、なんてはぐらかすようなセリフをこの雰囲気で言える訳も無く足長様のくだりを白状する。


 赤、青、赤、白、と顔色がコロコロ変わるとばり殿。最後に助けてくれた輪っかの子こと、ひなわ嬢のあたりでとうとう頭を抱えて蹲ってしまった。気分はもうヤダこいつ、って感じだろうか。厄介事ばかり持ってきてホントすいません。


 しばらくしゃがんでいたとばり殿は感情の整理がついたのか、長く大きなため息をついたのち立ち上がった。本日二回目の拳骨を添えて。タンコブどころか屏風の頭皮が襖みたいに破けそうです。


「教えていなかったのはこちらの落ち度だ。もう、それはいい」


 全然よくない顔で言われても。というか、今とばり殿が浮かべている表情は喜怒哀楽どれに該当するのだろう。感情がごちゃごちゃで苛立っているようにも見えるし、泣きそうにも見える。そして本日三度目の拳骨。

 黙って鈍痛を堪えているとき、チカチカする頭が小さな手に掴まれて、顔が花の香りに包まれた。


「よく、生きていた。本当に怪我は無いのか?」


 頭を抱きしめられているのでとばり殿の顔は見えない。それでも胸元から伝わる震えがどんな感情から来るものなのか、このお節介のお人好しを知る人なら誰でも分かることだろう。


 何度も安否確認されたのち、まるですぐ抱え直せるよう様子を見るようにのろのろと頭が離される。それでも右、左と掴んだままの頭を傾けて怪我が無いか調べだしたのでひとまず止めてもらう。掴んでいる手に力が籠って離してくれないので本当に大丈夫だと念を押して。


「別に心配はしていない。足長様の欠片がついていたら事だと思っただけだ」


 こちらが顔を上げる前にそっぽを向いたとばり殿は、顔が痒いと言いながら手ぬぐいでゴシゴシと顔を拭うと改めて大股仁王立ちの姿勢に戻った。そこから足長という式神が如何に危険かを幼児のように言い聞かせられる。


 あらましはひなわ嬢から聞いていた通り、ここに守衛のお役目を賜っているとばり殿の補足が入る。


 手長と足長。その生きた臓物のような姿は犠牲者を取り込んで喰うために現れ、どんな小さな隙間でも入り込んで襲い掛かってくる形の無い怪物である事。その身は刃も矢も通じず、火も毒も通じない事。ほんのわずかに分けた肉片でも生き物を食い散らかして殺してしまう事。そりゃもう、マジモンのクリーチャーである事を切々と語られた。


 分かる、襲われた当人だもの。漏らしそうだったもの。ゼロコンマ何秒、指一本のタップが遅れたら人生終了してたと実感している。それも最悪の死に方でだ。


「一応、本当に一応だが敵味方の区別はついておられる。においを知れば多分もう襲ってはこない」


 つまり一応とか多分とか、不穏な言葉が混じるのを避けられない程度の区別でしかないようだ。鬼札と言われる所以もそのあたりにあると思われる。敵味方区別無しのBC兵器みたいな存在かよ。そりゃ平和なときは持て余すだろう。


「そういえば隠れ宿のときも足以外は負傷していなかったな。結構な勢いで吹き飛ばしたのに擦り傷が無かったわ」


 やっぱおまえが飛ばしたんかい。いや文句は無いよ、熱湯から助けてくれようとしたわけだし。実際に狐の相手もしてくれたのはとばり殿だ。改めてありがとうと手をついてお礼言っておく。


「お役目だ、かまわん。おい手なんかつくな気持ち悪い」


 声は呆れているけれど、仏頂面が珍しくまんざらでもないってニヤけ顔になった。この子といいひなわ嬢といい、お役目であれば危険を顧みないそのプロ根性に頭が下がる。せめて謙遜を忘れない姿勢を真に受けず、褒めるところは大いに褒めてあげたい。いや褒めるでは上から目線かな。ともかく感謝してるのは本当だ。


 そういえばひなわ嬢とはどんな関係なのだろう。同じ職場なら話す機会もあるだろうか。とばり殿にも渡すがひなわ嬢にも近々贈り物をしたいと思っているので伝言を頼めないかと思っている。支度金貰えるみたいだし。

 支度金をそんな事に使うなと怒られそうだが、初めての仕事の前に溜まっている恩を一度気持ちよく返しておきたい。素寒貧でも贅沢出来ないだけで、白ノ国での衣食住は提供してくれるとの話だった。


 そう思いひなわ嬢の事を口に出したとき、ニヤけ顔だったとばり殿が厄介事を今思い出した、と言わんばかりに渋面になったのは何故だろうか。

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[一言] 通報……通報しないと……(使命感)
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