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最古現存の襖は1197年物。対してきつねやの襖は現代アート感覚の邪道品。なお大金をかけた模様

 ここ最近、やたら正座する機会が多くて困る。そのうちゴリゴリの洗濯板の上で抱き石させられながら情報を吐かされそう。


 とばり殿が部屋を訪れたのは、襖の前で体育座りビビリから立ち直ってようやく座布団に座り直したあたり。時刻は太陽が山に隠れ出して、しっとりと夕闇を作り出し始めた頃だ。


「何をしてるんだおまえは何を」


 頭痛が痛い、そんな言葉通り二重の意味で頭痛を感じてそうな表情に縮こまるしかない。


 迷子の人間が出会ったら死ぬ系のクリーチャーに遭遇したことを聞きつけたこの子は心配し、こうして様子を見に来てくれた。というわけではない。

 改めて拝謁するから用意しろと伝えに来たのだ。そこにとんでもない惨状が広がっているなど想像もせずに。


 この金色稲穂(こんじきいなほ)ギラギラの襖を破いてしまいました。いい歳してビビリ散らしたあげく右左ゴロゴロと畳を転がって、気付いたら足をぶつけておりました。以上、猛省。


 だって恐かったんだよホント、今こうして正座させられてもとばり殿が腕組みして睨みつけてきても安心感しか感じないもの。誰もいない状況って、ついさっきを連想させる環境にひとりきり。もうね、ひたすら怯えまくってたもの。またあの水音と生臭い臭いがしてきそうでさあ。と言って部屋から出るなんてとんでもない。初めて動物病院に連れてこられたチワワみたいに震えてたわ。


「ともかく着替えろ。お叱りも弁償もそのとき決まるだろう。言い訳を今のうちに考えておけ」


 襖だってピンキリだ。高名な画家に絵描かせた一点物とかなら庶民の金銭感覚では理解できない値段ということもありえる。それでも単純に弁償すれば許されるなら御の字、金銭に代えられない文化遺産とかなら屏風覗きの半生は進退窮まることになる。おなか痛い。



 本日二回目の拝謁、仕切り直しとも言う。部屋で座るとばり殿との距離がちょっと遠い。廊下を進む最中に不安で近付き過ぎた結果、キモがられてしまったからだろう。


 今朝とはまた違う礼服を着せられた屏風覗きと違いこの子はそのままだ。着替えを手伝ってもらうとき大汗をかいたことに気付かれたみたい。ササっと前に見たものと同じ葛籠を持ってきて、こうして新しい礼服に着替えさせてもらった。動き難い着物姿でよくあれだけ早く動けるものだと感心する。


「城下もそうだが城も外の見かけより遥かに広いし、複雑だぞ」


 廊下の途中で気分を変えたいためにアレコレ聞いた話で、きつねやというか白玉御前様の結界の話が出た。大八車に乗せられ神社に連れて行かれたときに見たお城『白猫城』と似たような術がきつねやも掛かっているらしい。


 相当強い術らしく、あくまで御前がきつねやに逗留中の間だけらしいが、これを維持するのはかなり骨が折れるのだとか。もっとも、とばり殿は直接関わっていないので詳しくは分からないという。同室の仲間から聞いたことだからな、との前置きがあった。


「あれは手順を踏めば捕らわれない。おまえは足を痛めているからウロウロせんと思うが」


 すみません、思い切り出歩きました。どうやらまだバレてはいないっぽい。死ぬような思いはしたがこうして五体満足なのだし、いらぬ心配をさせることもないだろう。ただでさえ襖の件で頭を痛めているところに追い打ちをかける気になれない。


「そうだな、手順がちと面倒だし後で、いや今はまだおまえは部外者だった。厠以外はひとりで出歩くなよ」


 ああ、そういえば厠ってアレはアレでどうなってるんでしょうね。三階の突き当りにある『厠』と表札のある戸を開けると、外のかなり遠い位置にある厠に繋がってるっぽいのだ、いちいち外に出る必要がなくて便利だけどさ。


「ご不浄などそのあたりは御前の御業ではないな。術に秀でるお傍衆様たちのいずれかのお仕事かもしれん」


 お傍衆か、どんな魑魅魍魎様なのだろう。治まった震えがまた出てきちゃうぞ。




 拝謁の手順に乗っ取ってまず立花様をお迎えし、その後改めて白玉御前様をお迎えする。先触れはやはり頭巾を被った猫。今回は治療のときに来てくれた白頭巾の子だった。


 いや、よく見ると頭巾に金糸が入っているので違うかもしれない。頭巾もかわいいが顔とか模様とかもっとよく見せて頂きたい。とばり殿もかわいいものが気になるのか気が散っているようだ。猫、いいよね。


「面を上げられよ」


 今回は面を上げよじゃないのか。別に言い間違いってこともないだろう、何かあったのだろうか。そう思いながら顔を上げると丸腰の女侍の姿があった。お腰の得物大小は奥の太刀置きに預けられている。


 ああ、一瞬思考停止してしまったけど何か作法でもあるのだろう。このへん詳しい人なら無礼打ちでデッドエンドとか回避できるんだろうね。何が地雷か分からないからうっかり見たり聞いたりできないので困る。特に顔見ただけで無礼者扱いとか誰がやりだしたんだろう。むしろ顔を覚えさせないことに意味があるんだろうか。


「屏風覗き。これは此度の不祥事の」


「立花様! お待ち頂きたくッ!!」


 目上の言葉は遮るな。あれだけ口酸っぱく言っていた子が立花様の言葉を遮った。

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― 新着の感想 ―
[一言] とばり殿、庇おうとしてるみたいだな……。 なんねええ子なんじゃ……。 それに比べて屏風覗きは……。
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