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物理・正気度喪失系

明日は祝日なので前倒し投稿します。


「そっかそっか、竹輪貰ったのか。良かったねい」


 青銅色の童女を撫でくる赤銅色の童女。髪はキラキラの銀髪で色違い以外はそっくりだ。他に違いがあるとすれば赤い銀髪の方はまともに喋るが、どうも足が動かせないらしい事か。一方青い金髪のほうは追加で貰ったちくわを戦利品とばかりに掲げ、その様は幼児そのものだ。


 こっちも輪っかの子に一本頂いた。紐に通して持ってきたらしいちくわはまだ8本ほどぶら下がっている。ヌンチャクや三節棍に憧れてしまう時期の子だろうか。女の子なのに不憫な。


 人は誰しもは連接棍への憧れから自分の体を強打して夢から覚めるのだ。良くも悪くも個人差はあるが。正直、ヌンチャクとか使える人は普通の棒切れ振り回しても十分強いと思う。


「いやぁ、ありがとうねい。この子が急に居なくなるから何事かと思ってたんだ」


 水を向けられたのはこの広い和室でなぜか屏風覗きのすぐ隣、肩がぶつかるほど近くで胡坐を掻く輪っかの子。ほのかに花火のような匂いが漂ってくる。


 長方形の布に穴を開けてすっぽり被ったような簡素な上着を着ていて、言っては悪いが脇や横っ腹が全開で見えている。前垂れとはまた違うが金太郎みたいだ。寒くないんだろうか、このくらいの子は体温高いから平気なのかもしれないけど。


「手長様足長様のお役に立てて何よりですわなぁ。いやね、ちょいと練り物をチョロまかしたはいいが持ってき過ぎちまいましてねぇ。足長様に食べて戴けて助かりました。いらぬ練り物の匂いなんてさせてたらうちの頭の固いカラスにとっちめられちまう。ついさっきも滅多やたらと怒ってきましてねぇ、いやいや、あたいが悪いのは知ってますがね? それで鼻までもがれたらたまらない。相手が悪いからって何かというと手が出るのは如何なもんでしょって話でして。ここ最近どうも気分が上がり下がりするみたいで、というのもあんな石仏みたいな硬ったい顔して気分屋のところがありまして。まあそこが可愛いっちゃ可愛いんですけどねぇ、火の付いた牛みたいな力で暴れられたら困っちまうでしょ。モオモオ、じゃねえか。カァカァですな。うはっ」


 いや話す話す。立板に水と言うか口から生まれたスピーカーと言うか、とばり殿とはまた別ベクトルで濃い子と遭遇してしまった。実質助けてもらったから何も言わないけど。


「そっちの子は初顔だねい? 何方(どなた)かな」


 輪っかの子の長セリフにも嫌な顔ひとつせず、金髪青肌の子に口へちくわを3本突っ込まれても声が変わることなく話しかけてきた銀髪童女に奇妙な畏敬を感じながら名乗ってみる。ああ、とうとう自分から屏風覗きを名乗ってしまったよ。


「ほう、ほう、君がそうかい。主様から聞いてはいたよ。顔を合わせるのはもう少し後だと思ってたけどねい」


 根拠は無い、けど目の前で優しく語りかけてくる童にどこか違和感を感じる。アレだ、よく出来た作り物の人形の顔を見たような気分。それが一定せず浮かんでは消えるので、生き物とも無機物とも分類できず何かモヤモヤするのだ。なまじ自然な時もあるだけに作り物みたいな雰囲気が悪目立ちしていて得体がしれない。


 そして話してるのに口はまるで動いていなかった。まさか腹話術ってわけでもないだろうに。


「手前共は白玉御前お(くく)りの式。手長、この子は足長。式に階位とかはないから、その辺は気にしないでおくれい」


 ちくわが切れるのを見計らったらしい輪っかの子がにこやかな笑顔のまま立ち上がり、その際こちらの肩を掴んで暗に起立を促したので流れのままに従って一緒に退室した。赤と青の童子は特に引き留めなかった。


「偶然偶然。偶然とはいえあたいが通りかかるとは、何とも縁がよかったですな。ねえ屏風覗き殿」


 こちらの真横を歩きながら一方的に話し続ける輪っかの子は、屏風覗きが聞く気のなかった事や考えが及ばなかった事までペラペラ話してくれる。

 つまり相当危険な状態だったという話をだ。


 白玉御前様の側近は立花様をはじめ数多いが、その中に国の運営とは埒外な者もいる。主の直属として地位は高いが役職の類は無く、そもそも頭数に入っていない存在。

 そのひとつが式。陰陽道なんかの和製ファンタジーでもお馴染みの式神の人員だ。


 手長と足長。さして妖怪に詳しくない人でも聞いたことくらいはあるかもしれない。屏風覗きもそのひとりだ。名前が覚えやすいのもあるが、何よりこの妖怪は退治されたエピソードがブッ飛んでいるので、聞きかじりの記憶でも妙に印象に残っていた。


 この妖怪、名前のコミカルさのわりに滅法強いうえ凶悪で人を食べる。最後は坊さんに祈られた仏像が目から怪光線を出して住処ごと爆散させるという、とんでも爆発オチで退治されたファンキー過ぎる話になっている。書いた人の世界観はどうなっているのか聞いてみたい物語だった。


 その凶悪妖怪を白玉御前様が謎の術で制御して、有事の際は鬼札として使っているらしい。ただ普段使いするには使い辛い厄介者でもあるらしく、平時の二人はもっぱら間者や不法侵入した不心得者をそのまま殺す、巡回する処刑人みたいなお役目で使われているそうな。情報吐かせるとか事情聴くとかスっ飛ばす幽世の警備が厳し過ぎて引く。


「それにしても大したもんじゃないですか、足長様に狙われて生きてるヤツは初めて見ましたよ。あたいが知ってるだけで両の指じゃ足りないくらい食ってるところに出くわしましたがね、いやもう死に方と来たら残らず酷いモンで。生きたまま(かんな)で肉を削ぎ落されてくというか、(やすり)で摩り下ろされちまうというか。力も強いんで挟んで潰して中身をチュウチュウ吸い出してるときもありましたぜ。だって言うのに加減が分かってるのか、それだけされてもまぁだ生きてるんだから。ねえ、いよいよおっかねえでしょ。どうも生きがいいのが好きみたいでね、頭は最後って決めてるみたいで。死に際の顔なんて見ちまったらそりゃもう」


 やめてやめてこわいこわい恐いってッ。やっぱ意地悪系だこいつ、間違いなくこっちが恐がるのを面白がっている。というか誰なのこの子。


「っと、こりゃ失礼。あたい階位四拾壱位を頂きます、白ノ国のひなわってモンです。祭り掛けじゃご立派でしたぜ、屏風覗き殿。ここらじゃとんと聞かないお方だが、あれで一躍有名人。あやかりたいねえ。あんときゃ赤の糞たれ共がすっ転んで大笑いしちまいましたよ。もしかしてあれもあんたの仕業だったりしますかい? ああっと、勘違いしないでくださいな、むしろこっちはざまあみろって喜んでたんだ罰が当ったってね。何かしてても誰にも言いませんて。天は自らを助くる者を助くるなんて言いますしね、勝負ついでにちょいと意趣返しするくらい構わないでしょうよ。やっぱこういうところがくそ真面目なやつはいけねえ。あいつもちっとは腹芸とか裏技のひとつも覚にゃいけませんわ。その辺を無害そうで気のいい悪党にでも教えてもらえば一皮剥けるってもんだ。いんや殻が剥けるですかね、この場合」


 なげーよ。この子の話長いよ。合間に主導権を振ってくれる白雪様と違って一方通行に喋り続けるから止められない。うっかり女の子の口を手で塞ぐわけにもいかないし、やはり肩にツッコミいれてもセクハラでしょうか。今後この子の前では古式ゆかしいハリセンとか持っておくべきかもしれない。再遭遇するかは分からないけど。


 会話の合間に今までどこにいたのか時折着物姿のガチケモとすれ違うようになった。向こうは会釈程度なのに輪っかの子は大きい声と身振りで気安く挨拶する様にちょっと落差というか、温度差を感じたのは気のせいだろうか。当人は気にした風でもないので黙っておくというか喋りに割り込めない。 


 部屋の前まで送ってくれたことに礼を言うと仕事だからと返ってきたので従業員の方か、あるいはとばり殿と同じ御前についてきた子かもしれない。ここはお茶でもご馳走すべき流れなのだが、悲しいかな居候みたいな状態の人間に融通の利くお茶もお茶菓子も無、ああ、ひとつだけあった。


 お礼は改めて後日。今はとりあえずこれをお納めいただきたい。袖で持て余していた和紙にくるまれた最後の大福。残り物で申し訳ない、次は何か用意しておかないといけない。足長様対策のためにもな。


 こりゃどうも、そう短く言ってひなわと名乗った女の子は大福を受け取るとあっさり去っていた。また独白の一塊くらい喋るかと思っていたのでちょっと肩透かしだった。



 金色の襖を閉じて、膝が崩れ落ちた。心臓のリズムがおかしい、脇汗すごい、全身ガクブル。体が無意識に丸まって防御姿勢を取ってしまう。生きて、帰ってきた。それだけが頭の中で何度も反響する。

 退治されてないじゃん手長。いるじゃん足長。アレか、オバケは死なないってやつか。何だったんだアレ。人間型とかケモだけじゃないのは知ってたよ、デカい蜘蛛とか浮かんでる提灯とかほっかむりした黒いモヤとか遠目で見たよ。でもアレはないだろう、モノホンの化け物じゃないか。


<実績解除 DEATHTRAPを生還しゆ 3000ポイント>

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― 新着の感想 ―
[一言] >仏像の目から怪光線 仏像はスーパーロボットだった……? もしくはピッコ○。
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